愛人の子どもに遺産をあげるために遺言認知したい!その方法とは?

2020年03月05日
  • 遺産を残す方
  • 遺言認知
愛人の子どもに遺産をあげるために遺言認知したい!その方法とは?

遺言書は自分の死後どの財産を誰に渡すのかを伝えるものですが、遺言書を使って死後に認知をすることもできます。それが「遺言認知」と呼ばれるものです。今回は遺言認知のメリット・デメリットや手続きの流れについてみていきたいと思います。

1、遺言認知とは

遺言認知とは、遺言で子どもを認知することを指します。不倫・浮気をしたときに相手が妊娠して出産してしまった場合、すぐ認知すると家族にそのことがばれてしまう可能性があります。「家族にばれてしまうのは避けたいが、万一のときには相手との子どもに財産を残したい」そういったときに使えるのが遺言認知なのです。

  1. (1)遺言認知で法律上の父子関係が生まれる

    不倫相手や愛人との間にできた子どもなど、結婚していない男女の間で生まれた子どもの場合、母親とは出生と同時に親子関係が生まれますが、父親との間には親子関係が存在しません。ところが遺言認知をすることで、法律上の父子関係が生まれ、父母が結婚していなくても子どもが法定相続人になれるのです。

  2. (2)任意認知と遺言認知の違いとは

    任意認知とは、父親が任意で子どもを認知することを言います。遺言認知は父親が亡くなってはじめて父子関係が生じ、戸籍に記載されることになりますが、任意認知は成立時点で父子関係が発生し、父親の戸籍にも子どもの名前が記載されることに違いがあります。

  3. (3)死後認知と遺言認知の違いとは

    遺言認知とよく似た言葉に「死後認知」があります。死後認知とは、父親の死亡から3年以内に検察官を相手に認知請求訴訟を起こすことで、出生時にさかのぼって父子関係を生じさせる方法です。遺言認知は父親が生前に遺言において行うものですが、死後認知は父親の死亡後に行われる点に違いがあります。

2、遺言認知される子どものメリット・デメリット

遺言認知をすると、子どもにはどのようなメリット・デメリットが生まれるのでしょうか。ここでは、メリットとデメリットを2つずつあげて解説します。

  1. (1)メリット①:第1順位の相続人になれる

    法定相続人には順位があり、第1順位が子ども、第2順位が父母または祖父母、第3順位が兄弟姉妹となっています。先述のとおり、遺言認知をすると父子関係が生まれるので、認知された子どもが第1順位の法定相続人になることができます。

    たとえば父と妻との間に子どもがおらず、両親も兄弟姉妹もいなかった場合、本来ならば妻にすべての遺産が相続されます。しかし、父親が遺言認知をすることで、遺産の2分の1を認知された子どもが受け取ることができるようになるのです。

  2. (2)メリット②:父親の扶養義務がない

    生物学上は父親であっても、父親から認知されない限り親子関係が発生せず、扶養義務も生まれません。そのため、父親が高齢になって認知症や病気になった場合でも、子どもに父親を介護したり生活費を負担したりする義務はありません。ただし、母親とは明確に親子関係が存在するので、母親の扶養義務はそのまま生じます。

  3. (3)デメリット①:養育費がもらえない可能性がある

    父親とは法律上の父子関係がなく、相互に扶養義務も生じないため、養育費をもらえない可能性があります。父親が「子どもが経済的に自立するまできちんと養育費を払おう」という姿勢があれば問題はないのですが、「扶養義務がないのだから養育費を支払う必要もないだろう」と考えるかもしれません。

  4. (4)デメリット②:父の家族や親族とトラブルになる可能性がある

    遺言認知をすることで、父親の死後に自分の存在が明らかになり、父親の家族や親族と遺産分割をめぐってトラブルが起きる可能性があります。相続順位が第1位の子どもが現れたことで、第2順位以降にあたる遺族が遺産相続できなくなるケースや、他に子どもがいる場合にその子どもの相続分が減るケースがあるためです。父親がすでにいない分、親族からの批判が子どもに集中するかもしれません。

3、遺言書の種類

遺言には「普通方式遺言」と「特別方式遺言」があります。そして、「普通方式遺言」には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。このうち、一般的に利用されているのが自筆証書遺言と公正証書遺言ですが、この3つはどのように異なるのかを見ていきましょう。

  1. (1)自筆証書遺言

    自筆証書遺言とは、遺言者本人が自分で作る遺言書のことです。自分1人で作成できるので、ほとんど費用もかからず承認もいらないので、内容の秘密も守れます。一方、遺言書の書き方は厳格なルールがあるため、書き方に不備があり形式的要件を満たさなくなる可能性や、紛失・偽造などのおそれもあります。

  2. (2)公正証書遺言

    公正証書遺言とは、遺言者が口頭で伝えた遺言書の内容を公証人が書き取って作成するものです。不備なく作成でき、公証役場で保管してもらえるので紛失や偽造の心配がない点がメリットですが、手続きに手間と費用がかかることや、証人が2名必要なこと、証人に遺言の内容を知られてしまうことがデメリットです。

  3. (3)秘密証書遺言

    秘密証書遺言とは、自分で作成して封をした遺言書を公証役場に持っていき、その存在を公証人に証明してもらうものです。遺言書は1人でつくるので内容の秘密が守られることがメリットですが、公証役場での手続きや証人2名が必要なこと、自分で保管しなければならないので紛失や隠ぺいのおそれがあること、相続開始時に家庭裁判所で検認を受けなければならないことがデメリットです。

4、遺言認知の手続きの流れ

遺言認知をしてから実際に認知された子どもが相続手続きを終えるまでは、どのような流れになるのでしょうか。手続きの流れは、大まかに以下のようになります。

  1. (1)遺言書の作成

    まず、子どもを認知する旨を入れた遺言書を作成します。遺言書は自筆証書遺言でも公正証書遺言でも構いません。必ず子どもの母親の名前や子どもの氏名・住所・本籍地・本籍の筆頭者・生年月日、遺言執行者の氏名を記載するようにしましょう。

    なお、遺言書を作成する際には、将来認知症になったときに備えて家族に財産管理を任せるために後見人となってくれる人との任意後見契約の締結についても検討しておくとよいでしょう。

  2. (2)相続開始

    父親が亡くなったら、悲しむ暇もなく遺産相続が開始します。相続開始後10か月以内に、遺産の洗い出しから遺産分割協議、相続税の納付まですべて終えなければならないので、非常に慌ただしくなることが予想されます。認知される予定の子どもも、それに備えてスケジュールの事前調整などをしておくことが大切です。

  3. (3)遺言執行者が認知届を提出

    遺言執行者が、遺言執行者就職の日から10日以内に認知届を父親の本籍地または住所地、あるいは認知される子どもの本籍地に提出します。その際に必要となる書類は以下のとおりです。

    • 認知届書(母親の氏名と本籍を記載して遺言執行者が署名・押印したもの)
    • 届書に使用した印鑑
    • 父親または子どもの戸籍謄本(本籍地以外で届出を行う場合)
    • 遺言書の謄本
    • 遺言執行者の身分証明書(運転免許証、パスポートなど)
  4. (4)相続手続き

    認知届が受理されて遺言認知が成立すれば、認知された子どもは正式に法定相続人となり、遺産相続に参加できるようになります。遺言書に遺産分割方法について記載がない場合は、遺産分割協議が必要になります。その際は他の共同相続人と協議を行い、協議がまとまったら遺産分割協議書を作成します。その後、相続税を計算の上、期日までに支払いを終えるようにしましょう。

5、遺言認知で注意すべき4つのポイント

遺言認知は父親の死後にさまざまな手続きが行われるものなので、生前のうちにできるだけトラブルのないようにしておかなければなりません。遺言認知をする際は、以下の4つの点に注意が必要です。

  1. (1)母親もしくは子どもの承諾が必要

    遺言認知をする際は、子どもが胎児であれば母親、子どもが成人していれば子ども本人の承諾が必要です。ただし遺言書を作成する時点では承諾を得ておく必要はなく、遺言執行者が認知届を市区町村役場に提出するときまでに承諾を得られればよい、とされています。

  2. (2)遺言書は公正証書遺言にする

    遺言認知をする場合の遺言書は、できるだけ公正証書遺言にしておきましょう。自作した自筆証書遺言では、遺言書の内容がどれだけ良いものでも法律上の要件を満たさなければ遺言書として効力を生じないからです。また、他の相続人から「父親に無理やり書かせたものではないか」などと疑われることも避けられます。

    遺言書作成時に認知症の疑いがある場合は、遺言者の日頃の言動を動画や日記に記録したり、病院の診断書やカルテの写しをもらっておきましょう。遺言能力について争いになったときに反論できる材料になります。

  3. (3)遺言執行者を決めておく

    遺言書の内容を確実に実行してくれそうな人を、遺言書の中であらかじめ遺言執行者に指定します。もし遺言執行者が指定されていない場合は、家庭裁判所に遺言執行者選任の申し立てをしなければならず、遺言の執行に時間がかかってしまいます。速やかに相続手続きを進めるためにも、遺言執行者は必ず決めておきましょう。

  4. (4)認知した子どもに渡す遺産を決めておく

    遺言書を作成する際には、遺言認知する子どもに渡す財産を決めて、遺言書に明記しておきましょう。遺言認知された子どもは急に相続人になるので、遺産分割の仕方を遺言書で指定しておかなければ、遺産分割協議のときに父親の家族・親族とトラブルになる可能性があるからです。相続を「争族」にしないためにも、認知する子どもに渡す遺産は元気なうちに決めておくことが重要です。

6、まとめ

「不倫相手・浮気相手との間にできた子どもでも、自分の子どもには変わりないのでなんとか財産を残したい。でも今、家族に知られるのはまずい」と一人思い悩んでいらっしゃる方もいるでしょう。今すぐには認知ができなくても、自分の死後に認知ができる遺言認知という方法もあります。

ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスでは、遺言認知をされたい方に対し、遺言書の書き方のアドバイスや作成の代行を承っております。弁護士にお任せいただければ、不備なくスムーズに作成ができます。秘密は厳守いたしますので、一人で思い悩まずに、お気軽に当事務所までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています