親の介護に貢献した妻の寄与分を認めてもらう必要な証拠と手順とは?
- 遺産を受け取る方
- 寄与分
- 証拠
金沢市が公表している統計資料によると、平成30年度の金沢市に住む65歳以上の人口は11万8508人で、高齢化率は26.1%となっています。高齢化率の全国平均は27.7%ですから、他の自治体と比べると高齢者人口がやや少ないといえます。それでも介護サービスを受けず、家族による自宅介護を要する家庭は少なくありません。
自宅介護の主な担い手が女性になることは珍しくなく、たとえば「同居している夫の親」の介護に尽力している妻も多いはずです。要介護者が故人となると、夫の立場としては「介護に尽くしてくれた功労に対して、妻にも相応の財産を相続させてあげたい」と思うかもしれません。
本記事では、「夫の親の介護につとめた妻に財産を相続させる方法」について、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説していきます。
1、子どもの妻に相続権は認められない
まずは大前提として、相続についての基本的な決まりを解説しておきましょう。
財産の持ち主が亡くなると、その人は「被相続人」という立場になります。被相続人が所有していた財産は、原則的には民法によって定められた「法定相続人」に継承されます。
法定相続人となることができるのは、次の立場の人たちです。
- 被相続人の配偶者
- 被相続人の子ども(第1順位)
- 被相続人の親(第2順位)
- 被相続人の兄弟姉妹(第3順位)
被相続人に配偶者がいる場合、配偶者には常に相続権が認められます。
その上で、
- 子どもがいれば配偶者2分の1、子どもが2分の1を人数で等分
- 子どもがいなければ配偶者3分の2、親が3分の1を人数で等分
- 子どもも親もいなければ配偶者4分の3、兄弟姉妹が4分の1を人数で等分
となります。
これが、民法に定められた法定相続人と法定相続分の割合の決まりです。この決まりを見るとわかるとおり、民法では子どもの妻に相続権は認められていません。
2、寄与分とは?
相続に関する法律の取り決めの中に「寄与分」という考え方があります。寄与分とは、相続人について、遺産の中に、相続人の尽力により維持形成されたといえる部分が含まれていた場合に、相続分とは別に具体化する制度です。
では、「親の介護に貢献した妻の寄与分」についてはどうでしょうか。
たとえば、「単身赴任中の夫の代わりに妻が、自宅で義理の親を献身的に介護し、かかる出費を大幅に抑えてくれた」、という場合です。
この点、被相続人(夫の親)からすると妻(嫁)は法定相続人ではなく、後述第6項の「特別寄与料」に関する民法改正以前においては、妻(嫁)に相続分及び寄与分は認められませんでした。もっとも、相続人である夫と妻(嫁)が緊密な協力関係にあり、妻(嫁)の寄与を相続人である夫のものとして評価できるため、妻(嫁)の介護を相続人の夫は自身の寄与分として主張することができました。
寄与分が認められるケースとそのために必要となる証拠について次から見ていきましょう。
3、寄与分が認められるケースと寄与分を認めさせるための証拠
寄与分が認められるためには、まず遺産分割協議によって相続人全員の合意を得るという方法があります。
他の相続人が、財産の管理・増額への貢献を認めてくれていれば、遺産分割協議でもスムーズに承認が得られるかもしれません。
しかし、寄与分を認めるということは、ほかの相続人にとって「自分の取り分が減る」ということになるので、スムーズな承認を得られずトラブルとなり、家庭裁判所に決着を委ねるケースに発展することになるかもしれません。
そのようなケースをいさめ、寄与分を認めさせるための証拠とはどのようなものでしょうか。
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(1)寄与分が認められる五つの類型
寄与分が認められるのは、主に五つの類型が挙げられます。
・家事従事型
被相続人の事業に対して無償またはごく少ない報酬で従事することによって、被相続人の財産の増加に貢献した場合。農家や家族経営の店舗営業などで認められることが多いです。
・金銭等出資型
不動産の取得費用や借金返済のためなど、被相続人のために金銭を支出することで相続財産の維持に貢献した場合。
・療養看護型
病気療養や老親の介護など被相続人の療養看護をおこなうことで、付き添い看護の費用支払いを免れて相続財産の維持に貢献した場合。
・扶養型
被相続人を扶養することによって、相続財産の維持に貢献した場合。ただし、配偶者・親・兄弟姉妹などは相互扶助の関係にあるため、扶養が相続財産の管理・増加に貢献しているとは評価されにくい傾向があります。
・財産管理型
被相続人の財産を管理することで、管理料などの支出を防ぎ相続財産の維持に貢献した場合。 -
(2)寄与分を認めさせるための証拠
ほかの相続人に寄与分を認めさせるために有効な証拠としては、次のようなものが考えられます。
・労務提供に関する証拠
被相続人の事業に従事していたことを証明するもの
例:タイムカード、勤怠記録など
・財産上の給付に関する証拠
金銭の給付があった場合は金銭の出納を証明するもの
例:預貯金の通帳や口座明細記録など
・療養介護に関する証拠
被相続人の介護度や介護の実施を証明するもの
例:病院のカルテや診断書、介護認定の資料、介護記録、日記など
4、寄与分の計算方法
寄与分の計算方法は、民法904条の2において「寄与の時期・方法・程度・相続財産の額・その他一切の事情を考慮する」という規定が示されているのみです。そのため、寄与分の計算方法は先に解説した五つの類型によって異なり、最終的には家庭裁判所の裁量に委ねられます。
たとえば、夫が死去して総額4000万円の相続財産が発生し、妻の療養看護による寄与分1000万円が認められたとします。相続人は妻・長男・次男の3人です。この場合、まず相続財産の総額から寄与分を差し引いて「みなし相続財産」の額を決定し、みなし相続財産を分割したうえで、寄与分を加算します。
事例に照らすと、
- 総額4000万円−寄与分1000万円=みなし相続財産3000万円
- 3000万円の法定相続分は妻1500万円、子どもはそれぞれ750万円ずつ
- 妻の法定相続分1500万円+寄与分1000万円=2500万円
となり、妻は2500万円の遺産を相続することになります。
5、寄与分の問題点
これまで、寄与分は「被相続人の財産の管理・増加に貢献した法定相続人」にのみ認められてきました。ところが、実際には法定相続人ではなくても被相続人と密接に関わりを持つ人によって被相続人の財産の管理・増加がおこなわれたケースが多々あります。そのもっとも多い例が今回取り上げた義理の親に対しておこなわれる「療養介護」でしょう。
同居または別居している息子の妻が義理の親の介護に尽力した、というケースは珍しくありません。しかし、どれだけ貢献度が高くても、法定相続人の配偶者には、法定相続分はもちろん寄与分についても一切の相続が認められていません。
このように、実際に被相続人の財産管理・増加に多大な貢献があっても、寄与分は法定相続人しか認められないという問題がありました。
6、民法改正による寄与分の変更
平成30年、寄与分に関する規定についての改正が成立しました。
翌年7月1日からは「特別寄与料」の請求が認められるようになります。
この制度が創設されたことによって、これまで寄与分を受けることができなかった立場の人でも財産の相続が可能になりました。
特別寄与料の概要は次のとおりです。
- 被相続人の療養介護や扶養など、寄与分が認められる条件を実質的に満たしている
- 被相続人から見て、配偶者・6親等以内の血族・3親等以内の姻族である
この特別寄与料の新設によって、これまでは認められていなかった「子どもの妻」などにも、貢献度に応じた金銭の請求権が認められることになりました。ただし、今回の改正では「被相続人の親族」が対象となり、内縁者などの第三者には適用されません。
従来の方法として、療養看護その他の方法で遺産の維持形成に尽力した妻に対しては、遺言書による遺贈、生前贈与をするなどの方法もありました。しかし、今回の改正で「特別寄与料の請求」という新たな方法が示され、妻の働きが報われることが規定上明らかになります。
7、まとめ
献身的に親の介護などに貢献してくれた妻や、相続権を持たない親族に対して、貢献度に応じて相続財産を分配するために創設されたのが「特別寄与料」です。
遺言書や生前贈与などは、被相続人の生前、しかも意思をはっきりと示すことができる状態でないと利用できません。そのため、被相続人が長年の介護を経て亡くなったケースなどでは、これらの方法で財産を分配することができないのです。
親の介護に尽くしてくれた妻に特別寄与料を認めてもらいたいなど、相続に関連するお悩みを持っている方は、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスまでご相談ください。相続問題の対応実績が豊富な弁護士が、最新の法改正なども踏まえて親切にサポートいたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています