夫の死後、愛人がいたことが発覚!愛人とその子どもに相続権はある?

2018年12月13日
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夫の死後、愛人がいたことが発覚!愛人とその子どもに相続権はある?

「夫の遺言書に“愛人に全財産を遺贈する”と書かれていた」、「夫の死後、愛人とその子どもが“私たちにも相続権がある”と言ってきた」など、まるで非現実的のような出来事に感じるかもしれませんが、実際に存在するケースです。

そこで、配偶者に愛人がいた場合、愛人やその子どもには相続権はあるのでしょうか。金沢オフィスの弁護士が解説いたします。

1、愛人は相続人になれない

「父には母が亡くなった後にずっと連れ添っていた内縁の妻がいた」「父が亡くなってから、実は愛人がいたことがわかった」などということは、今や珍しいことではなくなりました。しかし、このような内縁の妻や愛人は法律上相続人にはなれない決まりになっています。

  1. (1)遺産相続ができるのは原則法定相続人のみ

    被相続人(故人)の遺産を相続できるのは、原則として民法で定められた「法定相続人」のみです。たとえ被相続人が家族とは生前ずっと絶縁状態だったとしても、法定相続人が相続放棄をしたり相続人としての欠格事由に該当したりしない限りは、法定相続人が遺産を相続できることになっているのです。そのため、たとえ愛人やその子どもと家族同然に暮らしていたとしても、法律上彼ら(彼女ら)には相続権が一切発生しないことになります。

  2. (2)法定相続人とは

    法定相続人とは、法律婚をしている配偶者と子ども、父母、兄弟姉妹のことを指します。相続発生時に子どもが亡くなっているときは孫が、父母が亡くなっているときは祖父母が、兄弟姉妹が亡くなっているときは甥・姪が、それぞれ相続人となります。これを代襲相続と言います。

  3. (3)賃借権だけは愛人も相続できる

    愛人や内縁関係にあった妻(夫)でも、ただひとつ、建物の賃借権だけは承継できるとされています。たとえば、被相続人名義でマンションを借りて被相続人と愛人が住んでいた場合を考えてみましょう。借地借家法上、相続人がいなければ、愛人はそのまま賃借人としての権利義務を被相続人から受け継いで、そのままそのマンションで暮らすことができるのです。

    一方、本妻など相続人がいる場合はこの規定が適用されないように見えますが、杓子定規に適用しては愛人が気の毒だということで、愛人は相続人の賃借権を援用する形でそのまま住み続けることができるとされています。

2、愛人も遺産相続できる場合がある

愛人は原則として法定相続人にはなれませんが、例外的に被相続人の遺産を相続できる場合があります。それが、特別縁故者になる場合と遺言書がある場合です。ただし、法定相続人には最低限の遺産の取り分である「遺留分」も保障されていることに注意が必要です。

  1. (1)特別縁故者になる場合

    近年では生涯独身を貫く方が多く、死亡時に相続人がいないというケースも増えてきました。相続人がだれもいない場合もしくは法定相続人が全員相続放棄をした場合は、被相続人の財産は国庫に帰属することになります。しかし、そのようなときに被相続人と特別な関係にあった者であれば、家庭裁判所に「特別縁故者」に対する財産分与の申し立てを行うことで、被相続人の財産を相続することができるのです。

    • 被相続人と生計を同じくしていた者
    • 被相続人の療養看護に努めた者
    • その他被相続人と特別の縁故があった者


    しかし、特別縁故者は相続人不存在が確定しなければ相続財産分与請求ができないこと、法定相続の場合と同じように相続税を支払う義務があること、法定相続人が受けられるような控除は受けられないことに注意が必要です。

  2. (2)遺言書がある場合

    法定相続人がいる場合でも、「○○(愛人の名前)に財産を相続させる」などの内容が書かれた遺言書があれば、法定相続人ではない愛人も被相続人の財産の贈与を受けることができます。

    ただし、この場合は被相続人が愛人にどれだけ財産の遺贈を予定していたかによって、法定相続人ともめる可能性があります。もしこのような遺言書が見つかって初めて愛人の存在が発覚したとすれば、なおさらトラブルに発展しやすくなると言えるでしょう。

  3. (3)生命保険の受取人を愛人にすることはできる?

    遺言書によって愛人や内縁の妻(夫)に財産を相続できるなら、生命保険の受取人を愛人にしておけば、愛人に生命保険金を遺せるのではないかと考える方もいらっしゃるかと思います。しかし、過去に愛人を保険の受取人にできることを悪用した犯罪が多発したことから、現在では愛人を生命保険の受取人にすることは大変難しくなっています。

  4. (4)遺留分に注意

    被相続人が愛人にも財産を遺贈する旨の遺言書を残していた場合は、「遺留分」に注意が必要です。遺留分とは、法定相続人に保障されている最低限の遺産の取り分のことを指します。たとえば妻と子どものいる被相続人が「愛人に全財産を遺贈する」という内容の遺言書を残していた場合でも、妻子は遺留分として相続財産の2分の1を受け取る権利があるのです。

3、愛人の子どもに相続は可能か?

愛人の子どもは、原則として認知がなければ被相続人の財産を相続することはできません。しかし、認知あるいは養子縁組をしている場合は、相続人となり他の法定相続人と同じように被相続人の財産を相続することができるようになります。

  1. (1)認知している場合

    被相続人と愛人との間に子どもがいる場合は非嫡出子となりますが、出生時に被相続人が認知していれば相続人になります。また、遺言で認知をすることも可能です。

  2. (2)認知していない場合

    被相続人が愛人との間に生まれた子どもを認知していない場合は、その子どもには相続権は発生しません。認知を求める場合は、家庭裁判所に認知について調停を申し立て、調停が調わない場合は認知の訴えを提起します。その後裁判で被相続人が子どもの父親であることが認められれば、父子関係が成立し、相続権が発生することになるのです。

  3. (3)養子縁組をしている場合

    被相続人と愛人の子どもとの間で養子縁組をしていれば、その子どもは被相続人の養子となります。養子は実子と同様に相続権を持つため、愛人の子どもであっても被相続人の財産を相続することが可能です。

4、「愛人に全財産を遺贈する」という遺言書が出てきたら

被相続人の死後、遺品を整理していて遺言書を発見し、家庭裁判所の検認を受けて開封すると「愛人に全財産を遺贈する」と書かれていた……。そのような場合、法定相続人である遺族としてその愛人に対し、どのような手段を取りうるのでしょうか。

  1. (1)遺言の形式が無効であることを主張する

    まず、遺言書の形式が無効であることを主張する方法があります。自筆証書遺言の場合は、日付が抜けている、法律で定められた様式になっていないなどで、形式的に無効である可能性があります。しかし、遺言書が公正証書遺言になっていた場合は、そのような主張はほぼできないと考えてよいでしょう。

  2. (2)愛人への遺言が公序良俗違反であることを主張する

    また、愛人への遺言が不倫関係にもとづくため公序良俗違反であることを主張することもできます。しかし、愛人との不倫関係がどれくらい長く続いていたのか、配偶者との間に夫婦関係の実態があったか、愛人が被相続人と生計をどれほど同じくしていたかなど、様々な要素によって公序良俗違反であるか否か司法の判断は分かれます。

    もし、遺言書が作成された理由が「配偶者より愛人との関係のほうが大事だから」などの理由であれば無効になる可能性はあります。一方、「愛人は職がなく、遺された愛人の生活を維持するため」という理由で作られた場合は有効となることもあります。

  3. (3)遺留分減殺請求を行う

    もし被相続人の死後に「愛人に全財産を遺贈する」という旨の遺言書が出てきて、なおかつ遺言の内容が有効であると判断された場合、法定相続人は被相続人の血族であるにも関わらず1円も財産を相続できなくなります。このような事態を防ぐために設けられているのが、「遺留分減殺請求」です。

    遺留分減殺請求とは、被相続人の遺産を全く相続できない場合に、法定相続人が生活に困窮してしまうのを防ぐために設けられている制度です。したがって、法定相続人は侵害されている遺留分の金額を愛人に請求することができます。なお請求できる遺留分は以下の通りです。

    • 父母など直系尊属のみが相続人の場合:相続財産の3分の1
    • それ以外の場合:相続財産の2分の1
    • 兄弟姉妹:遺留分なし

5、弁護士に遺産相続手続きを依頼するメリット

近年は子どもを連れて再婚したり、配偶者や子どもと別れて他の相手と再婚するなど、いわゆる「ステップファミリー」といった家族形態が増加しています。家族関係がますます複雑化してきているため、相続が発生するとトラブルが発生することも考えられます。そのため、できれば遺産相続が発生する前に弁護士に相談しておくほうがよいでしょう。

  1. (1)遺産分割協議がスムーズに進められる

    遺産相続の経験豊富な弁護士に手続きや交渉を依頼しておけば、遺産分割協議をスムーズに進めることができます。お金の話はたとえ少額でももめるものですが、遺産相続はどうしてもお金のことが絡む話となるので、法定相続人の数が増えれば増えるほど協議が難航する可能性があります。

    相続税の納付期限は相続開始から10ヶ月以内と非常に短く設定されているので、協議が滞るとこの期限に間に合わないことも考えられます。したがって、遺産分割協議を円滑にまとめるためにも、早めに弁護士に依頼をしておく方が得策と言えるでしょう。

  2. (2)交渉や訴訟の代理人は弁護士にしかできない

    交渉や訴訟をしなければならなくなったとき、代理人としての活動はほぼ弁護士にしかできないことも、弁護士に依頼をすべき理由のひとつです。たとえば遺産分割協議で紛争が起きたときに、他の士業がある法定相続人の代理人として他の法定相続人と交渉を行うと、弁護士法違反となります。調停や訴訟となったときにも、代理人行為ができるのは弁護士のみです。万一調停や訴訟と言った法的手段を用いるトラブルになったときに備えて、遺産相続手続きは弁護士に依頼しておくほうが良いでしょう。

  3. (3)税理士や司法書士などと連携できる

    また、ベリーベストの弁護士に依頼しておけば、必要に応じて他の士業と連携して手続きを進めてもらうこともできます。相続税の申告であれば税理士が手続きを行ったほうがよいこともありますし、不動産登記の名義変更などは司法書士に委ねたほうがよいこともあります。しかし、遺産相続が発生してからそれぞれの分野ごとに士業の先生を探して依頼しに行くのは非常に手間もコストもかかり、法定相続人にとっては大きな負担となるかもしれません。その点、ベリーベストの弁護士に依頼すればすべてワンストップで対応してもらえるので、負担も軽減されるでしょう。

6、まとめ

両親が仲睦まじい夫婦だったとしても、夫婦どちらかが亡くなった後に愛人がいたことがわかったら、遺された家族はとてもショックを受けるはずです。その上、愛人やその子どもが遺産の取り分を主張してきたら、遺族は2重にも3重にも苦しめられることにもなりかねません。

遺産分割協議をめぐってそのようなトラブルが発生したときには、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスまでご相談ください。弁護士が現在の状況についてお話を伺い、できる限り法定相続人のみなさんが納得して円満に解決できる形で争いを終わらせられるよう、尽力いたします。

もし、被相続人が亡くなる前に愛人や子どもの存在が把握できていれば、その時点でご相談いただくほうがよりスムーズに解決できます。遺産相続に関するご相談は初回60分間無料ですので、お早めに当事務所までご相談ください。

ご注意ください

「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています