離婚しないけど慰謝料請求したい! 夫や不貞行為の相手に請求する方法
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金沢市が公表する「令和4年度衛生年報」によると、金沢市内で令和3年に離婚した件数は595件でした。離婚原因でよくあるのはいわゆる不倫ですが、話し合いの結果、離婚しないという選択をするご夫婦は少なくないでしょう。
不倫は不貞行為といい、民法が定める不法行為でもあります。不貞行為の慰謝料とは、不貞をされて精神的な苦痛を負ったことに対する損害賠償金のことです。不貞相手との関係性を清算させる目的で、あるいは不貞相手を懲らしめる意図で、慰謝料を請求したいと考えるかもしれません。
本コラムでは、離婚しない選択をしたときも浮気相手や浮気をした妻や夫に対して慰謝料請求ができるのか否か、行う場合の請求方法と注意点について、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、離婚しないまま慰謝料請求は可能なのか
慰謝料の請求は離婚が条件ではありませんので、離婚せずに慰謝料請求が可能です。
不貞行為は「共同不法行為」となりますので、不貞行為をされた側は、有責配偶者と不貞相手の2人に対して慰謝料全額の請求が可能です。
しかし、離婚しないとなれば、有責配偶者に慰謝料を求めることに家計上の意味がなくなります。懲罰的な意味で請求するとしても、そのことで夫婦仲が悪化するおそれもあります。
そこで、「不貞相手のみ」に請求が可能かという点が問題となります。
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(1)不貞相手にのみ請求することも可能
不貞相手にのみ慰謝料を請求することは可能です。
これは、不貞の一義的な責任が貞操義務をもつ配偶者にあるという考え方からすると、問題視されることがあります。しかし、法律上は不貞相手にのみ請求することに問題はありませんし、実際によく行われています。
不貞相手にのみ請求する効果として、不貞相手には悪いことをした自覚をもってもらうことができ、不貞関係の清算につながる可能性があります。今後の夫婦のためには関係清算が何よりも重要となるでしょうから、これは大きな効果となり得ます。 -
(2)慰謝料を請求できないケース
ただし、次の場合には、請求が認められない可能性があります。
- 肉体関係がなかった場合
- 婚姻関係が破たんしていた後の不貞行為
- 相手が既婚者だと知らなかった場合、知ろうとしても難しい状況だった場合
- すでに有責配偶者から十分な慰謝料をもらっていた場合
2、不貞行為の慰謝料における求償権について
不貞相手にのみ慰謝料を請求することには、いくつかの注意点があります。
まずは求償権の問題を確認しましょう。
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(1)求償権とは
不貞相手にのみ慰謝料を求めること自体は可能ですし、すんなり支払ってくれれば問題はありません。しかし、不貞行為の責任は、本来は2人が共同で負うべきものです。
不貞相手には、有責配偶者へ対し、責任負担分を請求する権利があります。これが「求償権」です。
受けた精神的苦痛が200万円に値するもので、負担割合が5:5だったと仮定しましょう。このとき、不貞相手へ200万円全額を請求し、有責配偶者へは求めないことも可能です。
ただし、不貞相手は200万円を支払ったのち、有責配偶者に対し「あなたの負担分100万円を払ってほしい」と求めることができるわけです。
負担割合については、必ずしも折半になるとは限りません。不貞行為が始まる経緯においてどちらが積極性を有していたか、また不貞行為をした双方の立場等、個々のケースによって異なります。 -
(2)求償権を行使される可能性は?
実際のところ、求償権を行使されるケースはそれほど多くありません。裁判も辞さない覚悟が必要ですし、負担分を超えたことを主張し、認めてもらうためには費用や時間がかかるからです。
しかし、不貞相手からすれば、2人の行為にもかかわらず、自分だけが責任を負うことに納得できないことはあるでしょう。よって求償権を行使される可能性は十分にあり得ます。
また、求償権以前の問題として、有責配偶者が「相手に迷惑をかけられない」との思いから、自身が慰謝料を支払ってくることがあります。そうなると、すでに賠償が済んでいるとみなされ、不貞相手への請求が難しくなります。
3、離婚しない場合の慰謝料の相場
慰謝料の相場は50~100万円がひとつの目安とされています。「不貞行為が原因で離婚した場合よりもかなり少ない」と思っておいた方がよいでしょう。離婚に至ったケースの方が、精神的苦痛において甚大だろうと評価されるからです。
ただし、金額は個別の事案によって大きく異なります。たとえば、次のような要素があると高くなることがあります。
- 不貞期間が長い
- 不貞行為の回数が多い
- 婚姻期間が長い
- 妻または相手方が妊娠していた
- 不貞された側に全く落ち度がない
反対に、不貞行為が始まった時点ですでに夫婦関係が険悪であった場合には減額事由になり得ますし、すでに夫婦関係が「破綻」していたと評価されるような場合にはそもそも不法行為が成立せず、慰謝料を請求できない場合もあります。また、有責配偶者の方が、相手よりも積極的だったような場合、配偶者の責任割合が増えることもあります。
このあたりも考慮して請求することになります。
4、慰謝料を請求する手順
まずは証拠を用意します。証拠がなくても不貞相手が請求に応じればよいですが、通常は難しいでしょう。
証拠の具体例としては、ラブホテルに2人で出入りする写真、肉体関係を推察できるLINEのやり取りなどがあります。
有責配偶者が認めているのであれば、そのときの録音を用意してもよいでしょう。
次に、不貞相手と連絡をとり、慰謝料請求の意思表示をします。
直接連絡をとる方法、内容証明郵便により慰謝料請求書を送る方法があります。後者の場合、こちらの本気の度合いや、請求の意思および内容を明確に伝えることができますので、よく利用されている方法です。
続いて、不貞相手との話し合いの場を設けます。相手に会いたくない場合には書類でやり取りすることも一案ですが、時間がかかってしまうという点は理解しておきましょう。
話し合いがまとまっても、不貞関係の解消や慰謝料の支払いがなされないことも想定し、たしかに不貞相手が慰謝料の支払いをすることを合意したと確認できる示談書を作成しましょう。示談書にとどまらず「公正証書」にすることもひとつの方法です。公正証書を作成しておけば、不貞相手が合意に基づく義務を履行しない場合には、訴訟手続を経ることなく強制執行(財産の差し押さえ等)を行うことができるようになります。
5、不貞相手に慰謝料を求める際の注意点
最後に、不貞相手にのみ慰謝料を請求するにあたり気を付けたいポイントです。
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(1)過剰請求はしないこと
離婚をしないとなると、「不貞相手だけが悪い」「配偶者はそそのかされていただけ」などと思ってしまうことがあります。しかし、これにより過剰請求につながることには注意が必要です。
不貞相手が払ってくれれば問題ありませんが、通常はそのような請求に応じないでしょう。話し合いが難航し、本来であれば成立するはずの示談が不成立になるリスクがあります。
相場にもとづいた金額を設定することが大切です。 -
(2)できるだけ穏便に
不貞相手は、自分にだけ請求されたことを理不尽に感じ、求償権を行使するどころか、不貞行為の事実を有責配偶者の勤務先に告げるなどの行動に出ることがあります。
不貞をした相手は婚姻生活を続けるのに、自分は婚期を逃した、遊ばれた等といった感情になることもあるでしょう。
また、不貞相手も既婚者の場合には、より慎重に対応しなければなりません。今度はその配偶者から、ご自身の配偶者へ訴えを起こされる事態にもなり得ます。
自宅住所は分からないが職場だけは知っているという場合でも、職場に書類を送付したり押しかけたりすると、名誉毀損で反対に訴えられかねません。
このような理由から、慎重さを要しますので、当初から弁護士へ依頼することをおすすめします。
6、まとめ
結論から言えば、離婚しない選択をしたとしても、浮気相手や浮気をした妻や夫に対して慰謝料請求を行うこと自体は可能です。離婚しないで慰謝料を求めることはもとより、不貞相手にのみ求めることも法的には問題はありません。不貞行為という不貞行為を慰謝料を支払うことによって償ってもらうことが気持ちの切り替えとなり、前に進めるご夫婦も少なくないでしょう。
ただし、婚姻関係を継続する以上、不要なトラブルを避けたほうがよいことは言うまでもありません。夫婦で財布が一緒である場合は特に、適正な慰謝料を受け取るためには慎重な対応が求められます。慰謝料請求をしたいとお考えであるならば、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスでもご相談をお受けし、慰謝料や夫婦の問題の対応実績が豊富な弁護士が尽力します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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