別居期間が長ければ離婚が認められる? 離婚事由への該当性
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石川県の人口動態統計によると、令和元年(2019年)における石川県内の婚姻件数は4985組、離婚件数は1532組でした。
離婚に相手が同意してくれない場合、裁判において離婚事由の存在を立証しなければなりません。
その際、長期間別居している事実があれば、離婚事由として認められる可能性があります。
この記事では、離婚と別居期間の関係などを中心に、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和元年人口動態統計(確定数)石川県分の概況について」(石川県))
1、別居期間が長くなれば離婚がしやすくなる
夫婦が別居を長期間続けているということは、夫婦関係が破綻状態にあり、もはや婚姻を続けていくことができないことを示す事情になります。
そのため、別居期間が長く続いていると、裁判において離婚が認められやすくなるのです。
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(1)裁判上の離婚には離婚事由が必要
夫婦間の話し合いにより離婚を成立させる場合には、離婚の理由はどのようなものでも構いません。
これに対して、夫婦のいずれか一方が離婚について同意せず、裁判において離婚を争う場合、離婚を請求する側は「離婚事由」の存在を立証する必要があります(民法第770条第1項)。
民法で定められている離婚事由は、以下のとおりです。- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 生死が3年以上不明
- 強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
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(2)長期間の別居は「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する
夫婦の別居期間が長い場合、夫婦の関係性が決定的に悪化し、もはや婚姻関係を続けていくことが困難な状態にあることを推認させます。
そのため、別居期間が長ければ長いほど、離婚裁判において「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる可能性が高くなります。
2、離婚が認められる別居期間はどのくらい?
では、具体的にどの程度の年数に別居期間が及べば、裁判において離婚が認められるようになるのでしょうか。
この点、画一的な基準は存在しませんが、大まかな考え方は以下のとおりです。
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(1)目安としては3年から5年程度
夫婦が別居をしたとしても、それが短期間である場合には、少しの冷却期間を置いてまたよりを戻すこともあり得るでしょう。
別居の事実が離婚事由に該当すると評価すべきであるほど深刻と認められるためには、客観的に見て婚姻関係が破綻しており、回復の見込みがないといえる程度に、別居期間が長期間に及んでいる必要があります。
別居期間の最低ラインが明確に決まっているわけではありませんが、少なく見積もっても3年程度、一般的には5年程度の別居期間が必要と考えられています。 -
(2)他の事情と併せて「婚姻関係の破綻」があったかどうか判断される
法的には、別居の事実そのものが離婚事由であるわけではなく、あくまでも「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在するとの評価を基礎付ける事実の一つに過ぎません。
そのため、離婚裁判においては、「婚姻を継続し難い重大な事由」が存在するかどうかを、家庭裁判所が別居の事実やその他の事情を総合的に考慮したうえで判断することになります。
「婚姻を継続し難い重大な事由」があるといえるためには、婚姻関係が破綻状態にあると評価できることが必要です。
たとえば- 別居のきっかけが相手のDVやモラハラだった
- 別居期間中はほとんど相手と連絡を取っていない
- 別居期間中、長期にわたって相手のストーカー行為に悩まされている
などの事情があれば、別居期間が比較的短期間であっても、「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる可能性が高まるでしょう。
これに対して、- 別居期間中も定期的に相手と同泊しており、夫婦仲自体は悪くない
- すれ違いにより別居してしまったが、その後は仕事の都合などで便宜上別居を続けているだけ
などの場合には、たとえ別居期間が長期間に及んでいたとしても、「婚姻を継続し難い重大な事由」が認められる可能性は低くなります。
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(3)有責配偶者からの離婚請求の場合はさらに長期間の別居が必要
なお、離婚の原因を作ったいわゆる「有責配偶者」の側から離婚請求をする場合には、通常の場合よりも離婚が認められにくくなります。
別居期間の観点からも、有責配偶者からの離婚請求のケースでは、かなり別居期間が長期間に及んでいても、依然として離婚を認める段階には至っていないと判断された例が存在します(最高裁平成元年3月28日判決(別居期間8年余り)、神戸地裁平成15年5月8日判決(別居期間17年余り)など)。
ただし、有責配偶者からの離婚請求のケースでも、別居期間の点だけでなく、有責性の程度・別居に至った理由・子育ての状況など、その他の事情が総合的に考慮されたうえで、離婚事由の有無が判断されます。
3、離婚を目指して別居をする際の注意点
離婚を目指して配偶者と別居する場合、その後の離婚請求や、配偶者なしでの生活を見据えたうえで、以下の点に注意しましょう。
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(1)基本的には相手の同意を得て別居すべき
離婚を目的として別居をしようとする段階では、配偶者と話すのも嫌だという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、仮にそうだとしても、相手に黙って勝手に家を出てしまうことはおすすめしません。
相手に何の断りも入れずに勝手に別居をしてしまうと、夫婦の同居義務・扶養義務を放棄したものとして、「悪意の遺棄」(民法第770条第1項第2号)に該当すると判断されてしまうおそれがあります。
悪意の遺棄は、それ自体が独立した離婚事由であり、悪意の遺棄を行ったと判断された場合は「有責配偶者」として、自分からの離婚請求が認められにくくなってしまいます。
そのため、離婚を視野に入れているとしても、別居をしようとする際には事前に相手に話を通すのが原則と考えておきましょう。
なお、DVやひどいモラハラなどを受けている場合はこの限りではなく、一刻も早く家を出て、ご自身の安全を確保することを優先してください。 -
(2)別居してからしばらくは不貞行為をしない
配偶者と別居することになったとしても、新しい生活を充実させようとするばかりに、早速異性と性的な関係を持つことは禁物です。
別居期間中であっても、婚姻関係が未だ破綻に至っていないと評価される場合には、異性と性的な関係を持つことは「不貞行為」に該当します。
不貞行為も離婚事由の一つであるため(民法第770条第1項第1号)、不貞行為をした場合は「有責配偶者」になってしまい、離婚請求が認められにくくなるので注意が必要です。 -
(3)婚姻費用について取り決めておく
離婚を見据えて別居をしようとする場合、別居後は、配偶者と生計を別にすることとなります。
しかし、ご自身の収入が配偶者の収入よりも少ない場合や、子どもがご自身と同居する場合には、別居期間中に必要となる生活費などについて、配偶者から支払いを受けられる可能性があります。
そもそも夫婦は、婚姻期間中の生活費など(婚姻費用)について、財産・収入などに応じて分担する義務を負っています(民法第760条)。
この婚姻費用の分担義務は、婚姻関係が継続している限り、夫婦が別居期間中であっても発生します(ただし、婚姻関係が主に配偶者の一方の責任により破綻している場合において、当該配偶者から婚姻費用の分担請求がなされる場合は、信義則に反して認められない場合があります)。
婚姻費用の請求を裁判手続きによって行う場合時間がかかることがあるため、離婚を見据えて別居しようとする場合は、配偶者と婚姻費用の支払いについて取り決めておくとよいかもしれません。
なお、裁判となった場合、婚姻費用は、原則として、夫婦双方の収入や子どもの人数・年齢を考慮して裁判所が定めた標準算定表によって算出されます。
(参考:「平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(裁判所))
4、離婚を見据えて別居をしたい場合は弁護士に相談を
離婚を前提に配偶者と別居をしたい場合は、注意点や準備すべきことなどを確認するために、事前に弁護士に相談することをおすすめします。
特に、別居期間中の行為が原因で有責配偶者と評価されてしまうことがないように、法的な観点から控えるべき行動を、弁護士とともに慎重に確認しておきましょう。
また、弁護士に相談をすれば、裁判上の離婚ではなく協議離婚や調停離婚の方法により、より早期かつ円満な離婚を実現できる可能性もあります。
5、まとめ
裁判上の離婚が認められるかどうかは、別居期間の長さが一つのポイントになります。
ただし離婚訴訟では、別居期間の長短だけでなく、その他の事情も総合して「婚姻を継続し難い重大な事由」の有無が判断されます。
そのため、何年以上別居していれば離婚が認められるかについては、一概には言えません。
離婚をしたい場合は、裁判上の離婚だけではなく、協議離婚や調停離婚という方法もあります。
スムーズな離婚を実現するためには、ベリーベスト法律事務所に一度ご相談いただき、どの方法を目指すのがベストかを検討してみることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、離婚事件の対応経験が豊富な弁護士が、依頼者の状況に合わせて適切なサポートを行います。
離婚を検討中の方は、ぜひベリーベスト法律事務所 金沢オフィスにご相談ください。
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