問題アリな試用期間中の社員を解雇したい! 円満に解雇する方法とは?

2019年07月12日
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問題アリな試用期間中の社員を解雇したい! 円満に解雇する方法とは?

ある町役場では、平成29年に、新卒で勤務していた男性が試用期間を延長された末に解雇されるという事案がありました。

このように、企業側が試用期間中に問題があって従業員を解雇したいと考えたとき、法律に従ってできるだけ穏便に解雇するにはどうすれば良いのでしょうか。

1、試用期間とは

内定者の適性や能力を見極めるために、本採用の前に数ヶ月の試用期間を設ける企業は少なくありません。試用期間はどのような法的性質があり、どのように設定するのが適切なのでしょうか。

  1. (1)試用期間とは

    試用期間における労働契約の法的性質は事案ごとに異なり、就業規則の定め方や会社内での慣行等により判断されます。当該企業で、これまで試用期間終了後には必ず本採用されており、別途本採用時に契約書締結などの手続をしていないような場合には、「解約権留保付労働契約」であると判断される可能性が高いと思われます。解約権留保付労働契約とは、通常の労働契約よりも解雇できる条件のハードルが少し低くなっている労働契約のことです。しかし、単に「相性が合わない」等の理由で簡単に解雇できるわけではありません。解約権留保付労働契約の場合、試用期間であっても労働契約が成立していることから、やむをえず試用期間の途中で解雇したり本採用を拒否したりする場合は、労働基準法に定められた客観的・合理的な理由及び社会的な相当性が必要です。
    また、試用期間という名称を用いない有期雇用契約の場合でも、その有期雇用契約の目的が適正や能力の評価である場合は、試用期間とされることがあります。

  2. (2)適切な期間設定とは

    試用期間として適切な期間は、おおむね3~6ヶ月が妥当とされています。適性を見極めるには時間がかかるからと言ってこれよりも長い期間を設定すると、労働者側にとって不利になります。そのため、適性を判断するのに必要な合理的期間であるとは言いがたいほど長期の試用期間は、公序良俗違反により無効と判断されます。

  3. (3)試用期間は延長できるか

    「もう少し試用期間を延長して適性を見極めたい」等の理由から、試用期間の延長を検討するケースも少なくありません。しかし、試用期間中は従業員が不安定な立場に立たされるため、やむを得ず延長する場合は就業規則に定めた上で合理的な理由がある場合や、従業員の同意を得られた場合に限られるでしょう。

  4. (4)試用期間中の賃金はどれくらいにすべきか

    試用期間中の賃金については、最低賃金を上回っていれば(減額特例が認められている場合を除く。)特に決まりはありません。ただし、本採用時より低く設定する場合は、求人情報にはもちろん、就業規則にも「本採用時の○%減」などと明記すべきでしょう。

  5. (5)本採用拒否する場合

    従業員の勤務態度や能力に問題があるとの理由で試用期間の終了をもって本採用はしない旨決定した場合、当然ながら従業員側が不当解雇だと言って争ってくる可能性が考えられます。

    その際は、能力不足や成績不良を軸に解雇が妥当である旨を主張することになります。そのための立証は企業側がしなければならないため、できる限り多くの証拠を日頃から揃えておくほうがよいでしょう。

2、試用期間中に解雇事由になりうる事実とは

主に裁判で「試用期間中の解雇もやむを得ない」と判断されるポイントは、大きく分けて4つあります。解雇事由になりうるポイントについて、それぞれ具体的にどういうことなのかについて解説します。

  1. (1)成績不良であること

    解雇事由になりうることのひとつが、成績不良であることです。ただし、試用期間は最大でも6ヶ月程度のため、経験者を中途採用した場合でも企業側が求めるレベルに達しないからと解雇する場合は慎重な判断が必要です。また、新卒社員の場合はすぐに一定の成果を出せるとは考えにくいため、中途採用者の場合よりもさらに慎重さが求められるでしょう。

  2. (2)欠勤・遅刻・早退が多いこと

    欠勤や遅刻・早退が多いことも、社会人として最低限のルールが守れていないとして解雇事由のひとつになりえます。体調不良や通院のためであれば、多少の欠勤などはやむを得ないと考えられますが、あまりに続くようであれば解雇できることがあります。

  3. (3)反抗的・協調性がないこと

    また、上司や同僚に対して反抗的であること、または協調性がないことも解雇事由になりえます。会社では、上司の指揮命令に従って業務を行い、何か解決が困難な問題などが発生したときなどには、社員同士がお互いに協力し合うことが求められているものです。そこで従業員が合理的な理由がなくあからさまな反抗的態度をとったり、協力する姿勢を見せなかったりすれば、解雇できる可能性があります。

  4. (4)重大な経歴詐称が発覚したこと

    さらに、履歴書や職務経歴書で経歴詐称していたことが発覚した場合も、解雇事由となりえます。企業側は、それらの書類から従業員が企業の求める職務能力やスキルを持っていると判断して従業員を雇用するものです。そのため、重大な経歴詐称は企業秩序を侵害し、業務に支障をきたすなどとして解雇事由になりえると考えられます。

3、「不当解雇だ!」と言われないための判断ポイント

試用期間中もしくは試用期間終了後に解雇する場合は、従業員からは「不当解雇だ!」と主張される可能性が大いにあります。裁判になった場合、不当解雇でないことを立証するためには以下のようなことがポイントになります。

  1. (1)改善の機会を与えたか

    解雇が妥当なものだったことを示すには、まずその従業員に対し改善の機会を与えたかどうかが重要です。たとえば、能力不足を理由に解雇する場合は、上司が注意喚起をした上で本人の能力やスキルに合った改善プログラムを用意するなど改善を促す努力が必要です。

    しかし、単に改善プログラムを実施しただけでは不十分で、プログラムに取り組む姿勢や目標到達度などさまざまな側面から改善の見込みがないことを証明しなければならないと考えられています。

  2. (2)弁明の機会を与えたか

    会社側が従業員の言い分を聞くことなく解雇すると、「会社(もしくは上司)が強引に従業員を解雇に追い込んだ」と、あとから従業員に主張される可能性があります。したがって、本人との話し合いの場を設け、意見を聞いたり弁明したりする機会を与えておいた方が無難だと思われます。

4、解雇を認めた判例・認めなかった判例

では実際、どういった条件がそろえば解雇が認められやすくなるのでしょうか。ここでは、試用期間中の解雇の妥当性が争点となった判例で、解雇が認められたものと認められなかったものについてそれぞれ取り上げていきたいと思います。

  1. (1)解雇を認めた判例:ブレーンベース事件

    パソコンの操作に精通しており営業経験があるとして、Xが採用されました。しかし試用期間中、緊急で発送しなければならない商品の発送に応じない、パソコンのソフトを使えば簡単にできるような業務も満足に行えないなどの問題が発生。試用期間満了の直前に会社がXを解雇したところ、解雇権の濫用に当たると主張して訴訟を提起されました。

    裁判所は、それほど高度かつ困難な業務内容を任されていなかったことなどを理由に、解雇が有効であると判断しました。(東京地判平13・12・25労経速1789号22頁)

  2. (2)解雇を認めなかった判例:医療法人財団健和会事件

    ある病院に総合事務職として採用されたYに対し、3ヶ月の試用期間中、1ヶ月ごとに面談が実施されていました。1回目の面談で上司にデータ入力のミスについて指導を受けたものの、2回目の面談時にはデータ入力ミスがほぼなくなるなど、改善がみられました。しかし、病院側が求める水準に達していないとして試用期間を20日残して解雇されます。

    裁判所は、会社側が直属の上司に対してヒアリングを行っていなかったことや、Yの業務状況に改善の傾向がみられており、試用期間満了までに会社が求める水準に達する可能性があったことを指摘し、試用期間満了前の解雇を無効としました。(東京地判平21・10・15労判999号54頁)

5、試用期間中の社員を円満に解雇するポイント

試用期間中の社員をやむなく解雇する場合、会社としても少しでも円満な形で辞めてもらうのが理想ではないでしょうか。試用期間中もしくは試用期間終了後、波風を立てずに円満な解雇を実現するためには、いくつかポイントがあります。

  1. (1)就業規則に解雇事由を明記する

    従業員を解雇するには、その理由が就業規則にある解雇事由のいずれかにあてはまっていることが大前提となります。そのため、就業規則がない場合もしくは解雇事由が書かれていない場合は、解雇についての基準がないため、解雇するのが難しくなると考えられます。

    法律上、従業員が10人以上在籍している会社は、就業規則を作成することになっています。10人未満の場合でも解雇に関するトラブルを未然に防止するために就業規則を作っておいたほうがよいでしょう。

    また、試用期間中の解雇事由についても定めておいた方が良いでしょう。

  2. (2)解雇予告を行う

    以下の2つの場合を除けば、たとえ試用期間中でも解雇予告が必要となります。

    • 雇用期間が2ヶ月以内の有期雇用者(ただし契約更新があった場合は除外)
    • 試用期間中かつ入社日から14日を経過していない者


    しかし、試用期間中に14日以内に解雇するケースはあまり見られないため、基本的には解雇予告もしくは解雇予告手当の支払いが必要と考えておいたほうがよいでしょう。
    そのため、試用期間中であっても、14日を超えて引き続き使用されている場合は、会社が従業員を解雇する時は解雇予定日の30日以上前に解雇予告をしなければなりません。
    また、解雇予告を行う際には、解雇通知書や解雇理由証明書を発行します。解雇理由証明書は、発行しなかった場合でも従業員が求めたときにはすみやかに発行する必要があります。

  3. (3)解雇予告手当を支払う

    解雇予定日まで30日もないタイミングでやむを得ず解雇する場合、会社側にはその従業員に解雇予告手当を支払う義務があります。解雇予告手当の金額は原則として30日分以上の平均賃金となります。しかし、たとえば解雇日の10日前に解雇予告をすれば、20日間分の平均賃金を支払えば足りるとされています。

6、まとめ

「試用期間中はいつでも解雇できるもの」と思われがちですが、本採用のときよりも少し条件がゆるいだけで、基本的に解雇に求められる条件は本採用時とあまり変わりません。試用期間中もしくは試用期間満了時にやむを得ず解雇する場合は、どうしても解雇せざるを得なかったことを証明することが必要です。

ただ、正式採用されると思っている従業員にとって、試用期間中などに解雇されることは想定外のため、解雇無効をめぐって争いがたびたび起きています。ベリーベスト法律事務所・金沢オフィスでは、できる限り円満に解雇手続きを終えられるよう、弁護士が企業のみなさまをサポートしております。試用期間中もしくは試用期間後に従業員の解雇を検討されている企業の方がいらっしゃいましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。

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