雛形のままに作れば安心? 就業規則をリーガルチェックすべき理由
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石川労働局によりますと、石川県内における令和元年5月時点の有効求人倍率は1.88倍です。同時期における全国の有効求人倍率は1.62倍ですから、石川県の会社は労働者の採用意欲が全国平均よりも旺盛といえるでしょう。
これから新たに労働者を採用しようとしている会社、あるいはすでに労働者を就業させている会社にとって、労働基準法で作成が義務付けられている「就業規則」は大変重要です。厚生労働省も雛形を公開するなどして、労働関連法令を遵守した就業規則の作成をよびかけています。
ただし、雛形を写して就業規則を作ればよいのかというと、必ずしもそうではありません。雛形はあくまで雛形であり、就業規則は労働関連法令を理解したうえで会社の目的や実情に沿った形で作成する必要があるのです。
ここでは、就業規則の法的なあらましと、雛形にとどまらない会社にふさわしい就業規則を作成するためのポイントについて、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、就業規則とは?
就業規則とは、労働条件や服務規律など会社のルールを明文化したものです。
会社が機能するためには、法を守ることはもちろん、会社が労働者に対して守るべきルールを規定することで、労使ともに組織の秩序を保つ必要があります。万が一トラブルになってしまった場合に備え、社内にも社外にも客観的な就業規則というルールが必要なのです。
なお、就業規則は一方的に会社の都合のいいように制定できるわけではありません。就業規則の内容は、「労働基準法に定める基準以上」かつ「合理的」なものでなくてはならないのです。
たとえば1日の労働時間を20時間、休みは月に1回と定めるように、労働基準法などの各種法令に違反した内容が含まれる就業規則を作成しても、法的効力は認められません。
2、就業規則の届出義務と周知義務
労働基準法第89条の規定により、常時10人以上の労働者を雇用する使用者つまり会社は、必ず就業規則を作成のうえ、地域の労働基準監督署など所轄の行政官庁へ届け出なくてはなりません。これを就業規則の「届出義務」といいます。
また、労働基準法106条第1項では、就業規則の内容について社員などの労働者に広く知らせる「周知義務」を規定しています。行政官庁へ届けたとしても、社員に周知がなされていない状態では就業規則は効力を発することはありません。
社員へ周知する方法は、以下3点の方法のいずれかによるものとされています
- 作業場の見やすい場所へ常時掲示、または備え付けること。
- 労働者に書面で交付すること。
- 磁気ディスクなどに記録して、労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を作業場に設置すること。
この届出義務と周知義務は、就業規則を変更したときも適用されます。そして、届出義務と周知義務を怠った会社または使用者は、労働基準法第120条の規定により30万円以下の罰金が科される可能性があります。
なお、この届出義務と周知義務に該当しない、常時10人以上の労働者を雇用しない小規模事業であっても、就業規則は作成しておいた方がよいでしょう。万が一、労働者とトラブルになった際、事業を守る役割を果たす可能性があるためです。
3、就業規則に記載すべき事項
就業規則に記載すべき事項は労働基準法第89条に明記されています。具体的には、大きく「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意的記載事項」の3つに区分されているのです。厚生労働省が示している就業規則の雛形も、これに基づき作成されています。
このうち、絶対的必要記載事項および相対的必要記載事項についての記載が就業規則から漏れていた場合、会社または経営者は労働基準法第120条の規定により30万円以下の罰金が科される可能性があります。
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(1)絶対的必要記載事項
労働時間、賃金、退職については、絶対的必要記載事項です。必ず就業規則に明記してください。
- 始業時刻および終業時刻
- 休憩時間、休日と休暇
- 労働者を2組以上に分けて交代に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
- 賃金(賞与を除く)の決定、計算方法、支払い方法、賃金の締め切り、支払い時期、昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由や定年の年齢など)
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(2)相対的必要記載事項
退職金制度や賞与制度などは、労働基準法において規定されているものではありません。しかし、会社の制度として設けている場合は、就業規則においても記載しておく必要があります。これを相対的必要記載事項といいます。
具体的には以下のような項目を記載しておきましょう。- 退職金制度がある場合は、適用される労働者の範囲、計算方法、支払い方法、支払い時期
- 賞与などの臨時賃金制度がある場合は、これに関する事項
- 労働者が食費、作業用品などを負担する制度がある場合は、これに関する事項
- 安全および衛生に関する規定、職業訓練に関する規定、災害補償および業務外の傷病扶助に関する規定を設ける場合は、これに関する事項
- 表彰や制裁に関する規定を設ける場合は、その種類および程度に関する事項
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(3)任意的記載事項
任意的記載事項は労働基準法で記載が義務付けられているものではなく、文字通り会社の任意で記載できる事項です。
一例ですが、以下のような項目を記載している会社が多いようです。- 会社の理念
- 就業規則の目的
- 採用、試用期間、残業、休職、転勤など労務管理の事項
- パワハラやセクハラの禁止、職務上知り得た情報を漏えいすることの禁止、副業に関することなど、服務規律の事項
- 業務上生み出された、知的財産権の取り扱いに関する事項
4、就業規則と雇用契約書の関係とは?
雇用とは「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約すること」(民法第623条)と定義されています。これが会社と労働者との間における「雇用契約」です。
そして雇用契約書とは、会社と労働者が雇用契約を締結するときに労働条件などについて合意したことを証する書面です。一般的には、労働条件を網羅的に記載したうえで「上記について合意する」などと結んで会社と労働者が記名押印します。これを2部作成し、それぞれが1部ずつ保管します。
もし、何らかの事情により就業規則と過去に締結した雇用契約書の記載内容が異なっていたことが判明した場合は、どちらの内容が労働者にとって有利かという観点から適用の優先度が決まります。就業規則よりも雇用契約の内容が労働者にとって有利であれば雇用契約の内容が優先して適用され、逆に就業規則のほうが雇用契約よりも有利であれば、労働契約法第12条の規定により就業規則が優先して適用されます。ただし、就業規則と雇用契約書の両方が労働基準法に定める条件よりも下回る内容であれば違法なものとして無効となり、労働基準法の内容が適用されます。
5、雛形を使うメリットとデメリット
厚生労働省が公開している就業規則の雛形は、会社が新たに就業規則を作成するうえで大変有用です。ただし、雛形はあくまで雛形です。会社が最低限の労働関連法令を遵守することを最大の目的として作成されています。あいまいな表現も多く、会社が労働者とトラブルになったことを十分に想定して作成されているものではありません。
労働関連法令や就業規則の趣旨を十分に理解しない状態で雛形を丸写しして就業規則を作成すると、業界特有のルールに沿えなかったり、必要項目が抜け落ちたりするなど、会社が損失を被ってしまう可能性が考えられます。
会社は事業の目的や業種、事業形態、事業規模など、それぞれ個別の特徴を持ちます。就業規則は、労働関連法令を遵守しながら会社の特徴や経営環境などにあわせて作成したほうがよいでしょう。
6、弁護士に最終チェックを依頼するメリット
新たに就業規則を作成する際は弁護士にチェックを依頼することをおすすめします。
弁護士であれば、就業規則の作成だけではなく最新の労働関連法令に知見があります。会社の特徴や個別性に合わせた就業規則の作成に向け各種のコンサルティングを行うことができるでしょう。これにより、あなたの会社にふさわしい就業規則を作成することが期待できます。
労働関連法令に関するリーガルリスクおよび想定される労使間のトラブルを未然に防ぐことが可能となるでしょう。
7、まとめ
もし就業規則の作り方についてお悩みがあれば、ぜひ弁護士にご相談ください。弁護士であれば就業規則に限らず労働関連について会社の法的リスクを最小化するアドバイスや、トラブル発生時に会社の代理人となることも可能です。
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