【前編】使用者が知っておくべき雇止め法理と無期転換ルールの基本
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労働契約法が改正され「有期労働契約の無期転換化」、いわゆる無期転換ルールの本格的な適用が開始したのは、平成25年4月のことです。
人件費の増加に悩む多くの使用者にとって、無期転換ルールの適用開始は悩ましい問題かと思われます。労働契約法には「雇止め法理」があるため、簡単に有期雇用契約者を雇止めにすることはできません。
しかし、雇止め法理があっても雇止めが認められるケースもあります。そこで、使用者が知っておくべき労働契約法における雇止めや無期転換ルールの基本について、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、雇止め法理ができるまで
「雇止め」とは、契約社員やパートタイマーのように使用者と有期労働契約に基づき労働契約を締結している労働者が、使用者から労働契約の更新を拒否されることをいいます。また、「法理」とは裁判所が長年にわたって蓄積してきた判例に基づく法律の考え方であり、「判例法理」ともいいます。
もともと「多種多様な働き方の実現」が目的であるはずの有期労働契約は、使用者にとって都合よく弱い立場にある労働者を解雇できる仕組みにすぎないといわれていました。そのような批判の中、雇止めの無効を求める訴訟は各地の裁判所で相次ぎ、使用者側が敗訴した判例も数多く生まれました。
その一方で、急速な少子高齢化の進展や非正規雇用労働者の増大という社会問題の顕在化もあり、労働者の保護を目的とした法律が次々と制定されました。そして平成24年8月には、これまで最高裁判所が判例で確立させてきた「雇止め法理」が改正後の労働契約法第19条に法定化され、そのまま法律の条文に反映されることになったのです。
2、無期転換ルールも押さえておこう
政府が掲げる「働き方改革実行計画」のテーマのひとつに「非正規雇用の処遇改善」があります。具体的な対応策として登場したものが「非正規雇用労働者の正社員化」、いわゆる「無期転換ルール」です。無期転換ルールは雇止め法理と密接な関係にあります。
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(1)無期転換ルールとは?
無期転換ルールは、改正労働契約法第18条において定められています。具体的には、以下の3つの条件をすべて満たした場合に、労働者はそれまでの有期労働契約から無期労働契約に転換できるというものです。
- 有期労働契約の通算期間が、「5年」を超えていること。
- 労働契約の更新回数が、「1回」以上であること。
- 無期転換する時点で、同一の使用者と労働契約を締結していること。
労働者から使用者へ無期転換の申し込みがあれば、使用者は承諾したものとみなされ、その時点で無期労働契約が成立することになります。また、無期転換後の労働契約は特段の定めがないかぎり、職務内容・賃金水準・労働時間などの労働条件について基本的に直前の有期労働契約の内容を引き継ぐことになります。
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(2)無期転換ルールの例外規定
無期転換ルールは、有期労働契約の労働者すべてに適用されるわけではありません。以下のような有期契約労働者であれば、その「就労期間を無期転換申込権が発生する期間」の対象外とすることができます。
- 5年を超える一定の期間内に完了することが予定される業務に従事する高収入かつ高度な専門的知識、技術または経験を有する有期契約労働者は、業務完了までの期間あるいは期間が10年を超える場合は10年間は、無期転換申込権が発生しません。
- 60歳以上で定年に達したあと、引き続き同じ使用者に雇用されている有期労働契約者(継続雇用の労働者)の継続雇用期間は通算契約期間に算入されません。
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(3)無期転換のためにしなければならないこと
無期転換ルールに基づき有期労働契約の労働者を無期転換化するためには、以下のように会社の制度を整備しておく必要があります。
- 有期労働契約の労働者に対する事前説明
- 労働組合や労働者の代表者との協議
- 無期転換後の労働者の役割や業務範囲の明確化
- 無期転換後の労働者に対する賃金などの処遇、および既存の無期労働契約者(正社員)との処遇差異の明確化
- 無期転換後の労働者に関しての就業規則の作成または見直し
- 無期転換後の労働者を企業年金や退職給付制度の加入対象とするかについての検討
- 「無期労働契約転換書」や「無期労働契約転換申込み受理通知書」などの準備
また、無期転換の労働者が増加することにともない、退職給付や賞与等に関する費用や、一般管理費等が増加することになります。それらを見据えた事業計画の作成が必要になるでしょう。
ここまで、雇止め法理の概要から無期転換ルールについて解説しました。後編では、引き続き金沢オフィスの弁護士が、雇止めが認められるケースや雇止め法理で注意すべきポイントについて、さらに詳しく解説します。ぜひ参考にしてください。
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