【後編】使用者が知っておくべき雇止め法理と無期転換ルールの基本

2019年10月28日
  • 労働問題
  • 雇止め法理
【後編】使用者が知っておくべき雇止め法理と無期転換ルールの基本

前編では、雇止め法理の成り立ちや無期転換ルールについて解説しました。
後半は、雇止め法理で注意すべき点から、雇止めが認められるケースについて、金沢オフィスの弁護士が解説します。

3、雇止め法理で注意しておくべきポイント

このような無期転換ルールは、人件費の増加や事業環境の変化に合わせた人材の流動化が困難となるという側面があるため、悩まれる方もおられると思います。特に、長期間の勤務によってスキルや生産性が向上するわけではない職種に、有期労働契約者を多く配置している使用者であれば大きな問題と感じるかもしれません。場合によっては、恣意的に有期労働契約の労働者を無期労働契約への切り替え前に辞めさせるということを考える方もおられるかもしれません。

しかし、雇止め法理の存在があります。雇止め法理、つまり労働契約法第19条は、客観的に合理的な理由がない場合に使用者から一方的に有期労働契約を終了させることを認めないことを規定するものです。

具体的には、以下のようなケースの雇止めは認められないでしょう。

  • 有期労働契約者に無期転換権が付与されることを防ぐために、無期転換権が発生する前に使用者が有期労働契約を終了する行為。
  • 過去に反復して更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同一視できる場合で、契約終了の客観的合理的理由がない場合。
  • 労働者が有期労働契約の契約期間満了時に、その有期労働契約が更新されるものと期待できる合理的な理由があるにもかかわらず、契約終了について客観的に合理的な理由がない雇止め。

使用者による雇止めが無効とされた場合は、有期労働契約者に対して無効と判断された時点までの未払賃金の支払いが必要となります。さらに、そのトラブルがマスコミなどを通じて世間に広まった場合は、取引先との関係や求人に悪影響をおよぼすリスクがあることを忘れてはなりません。

4、雇止めが認められるケースについて解説

たとえ有期契約労働者であっても、雇止めすることは非常に難しいものです。しかし、労働契約法第16条や第19条などにもある「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」と認められる場合は、たとえ労働紛争になったとしても雇止めは認められます。

この「客観的に合理的な理由」や「社会通念上相当」と認められるかどうかは、無期契約労働者つまり正社員を解雇する場合と同一と考えられます。もしやむをえず雇止めを正当に行うのであれば就業規則の内容が重要となるのです。以下で確認しましょう。

  1. (1)客観的に合理的な理由

    雇止めを行うには、客観的に合理的な理由が必要となります。
    争いになった場合は、客観的に合理的な理由があった事実を証明できる証拠が必要となります。

  2. (2)社会通念上の相当性

    過去の裁判例より、以下のようなポイントが有期契約労働者の雇止めに対して社会通念上相当と判断される要素になると考えられます。

    • 問題のある有期契約労働者の反省の有無や過去の勤務歴、会社への貢献度合い、処分歴など
    • その有期契約労働者を雇用しておくことで、会社の業務または社会に与える悪影響の度合い
    • 問題のある他の有期契約労働者と比較した処分との均衡度合い
    • 故意または悪意によるものか否か
    • 有期契約労働者の問題点を改めるために、会社が講じた措置の有無およびその内容
  3. (3)就業規則や労働契約の雇止め事由に抵触している

    就業規則や労働契約に雇止めの対象となる事由が明記されており、かつ明らかに有期契約労働者がそれに抵触していれば、労働者を雇止めする理由となり得ます。

    ただし、就業規則や労働契約における雇止めの事由が、労働基準法などの関係法令に抵触していないことが前提です。また、就業規則が労働基準法106条第1項に定める「周知義務」を果たしていることが前提です。

5、まとめ

政府による働き方改革の推進もあり、雇用をめぐるトラブルは会社に思いもよらない悪影響をもたらすことがあります。したがって、労働問題には慎重に臨む必要があるのです。雇止め法理を規定している労働契約法は、違反した使用者に対して罰則規定が設けられているわけではありません。しかし、もし雇止め法理や無期転換ルールなどをめぐって有期契約労働者とトラブルになった場合、相応のコストを割くことが余儀なくされるでしょう。

労働者とのトラブルを起こさないためにも、普段から労働問題の取り扱いに実績をもつ弁護士と連携しておくことをおすすめします。労働関連法令に精通し、さらに労働問題について会社側の立場から解決した実績のある弁護士であれば、会社の法的リスクを最小化しながら問題を解決することが期待できます。

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