普通解雇の注意点|簡単にできない理由と会社側が行うべきこと
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企業や事業者が問題のある従業員を抱えてしまったら、解雇したいと考えることがあるでしょう。
しかし、何の準備もせずにいきなり解雇してしまうと、「不当解雇」として慰謝料請求されたり場合によっては裁判を起こされて解雇が無効になってしまったりすることがあります。場合によってはマスコミやSNSなどで公表されてしまう懸念があることも否定できません。
そのような事態を回避するために、普通に解雇したい会社側としてはどのようなことに気を付ければ良いのでしょうか? 本コラムでは、「普通解雇」の注意点についてベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。なお、懲戒解雇については、考え方が異なるため、別の機会にご紹介させていただきます。
1、普通解雇についての基本的な考え方
解雇は、大きく①普通解雇と②懲戒解雇に分けられます。
そして、普通解雇は以下の2種に分けられます。
- ①労働者側の理由を問題とする解雇(狭義の普通解雇)
- ②会社の経営上の理由による整理解雇
上記いずれであっても、従業員を解雇するときには、慎重に進める必要があります。
特に狭義の普通解雇が問題となることが多いので、その考え方についてご説明します。
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(1)そもそも解雇できないケースもある
そもそも解雇ができない場合があります。たとえば、業務上の怪我や病気で休業する期間やその後の30日間は解雇できませんし、産前産後休業の期間やその後30日間中の解雇も認められません(労働基準法19条)。
従業員の信条や国籍、社会的身分を理由にした解雇もできませんし(労働基準法3条)、従業員が労働基準監督署に企業の不正を告発したことを理由とする解雇も認められません(労働基準法104条2項)。
このような規定に違反して解雇をすると、単に解雇が無効になるだけではなく、会社側(経営者側)に懲役や罰金刑などの罰則も科される可能性があります(労働基準法119条1号)。
その他にも労働者が権利として認められている制度を使ったことに対する報復的な解雇を禁止するような規定も多く定められています。 -
(2)要件を満たさないと、解雇が無効になる
(1)の場合に当たらないからといって、無制限に解雇が認められるわけではありません。
従業員を解雇するときには、①客観的合理的な理由と、②社会通念上相当な方法であること(社会的相当性)が必要です(労働契約法16条)。
この2つの要件がそろっていないと、解雇が無効になり、従業員の地位が継続してしまうことになります。すると、解雇した後も、給料が発生し続けるので、未払い賃金の請求をされる可能性があります。
また、有期雇用の従業員についても、契約更新を繰り返している場合には、契約期間が切れたからといって当然に更新拒絶が許されるものでもありません。一定の場合には、解雇権濫用法理が類推適用されます。 -
(3)解雇予告が必要
また、解雇するときには、原則として、30日以上前に解雇予告をするか、解雇予告手当を支払う必要があります。
2、従業員を解雇する理由として有効なものは?
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(1)普通解雇
普通解雇としてよく問題となるケースは次のような場合です。
勤務態度の不良
無断欠勤や早退、遅刻など、勤務態度が悪い場合にも普通解雇の対象になります。ただし、一定以上の程度に及んでいる必要があり、軽微な場合には解雇できません。
また、使用者側が、改善のために指導教育を行い、他の業務に就かせるなどの工夫をしてもなお、改善が見られないことなども必要となります。労働能力不足
単純に、他の従業員と比べて能力が低いというだけでは解雇はできません。能力不足を理由とする解雇は、当該従業員の地位や業務内容に照らして、使用者側の改善措置にもかかわらず、改善見込みないといえるかといった観点から判断されます。
一方、専門職などで一定以上の能力があると想定した上で採用したのに、実際には能力が著しく欠けていたという場合などには、その他の場合と比べて解雇が認められるハードルは低くなります。経歴詐称
入社時に重大な経歴詐称が行われた場合には、普通解雇によって解雇できる可能性もあります。解雇が認められるのは、経歴詐称が重大で、業務に対する支障が重大な場合です。私傷病で長期間怪我や病気で入院し、復帰が困難なケース
ただし、私傷病休職制度がある場合には、そのような制度を利用させることが必要となります。
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(2)整理解雇
整理解雇は、企業が業績不振のケースにおいて、経営を建て直すために行う解雇です。いわゆる「リストラ」のことです。
整理解雇が認められるためには、次の4つの要素が考慮されます。- ①人員削減の必要性
- ②解雇回避努力
- ③人選の合理性
- ④手続きの相当性
特に重要視されるのが②で、経営者側が店舗閉鎖やコスト削減、配置転換や出向、早期退職希望者の募集など、解雇を回避するための努力を尽くしているかなどが考慮されます。
3、従業員の解雇の際には十分な証拠をそろえておく
従業員を解雇しようとする際には、争われた場合に備えて、上記の客観的合理的理由があることと、手続きの相当性があることの「証拠」を収集しておくべきです。
たとえば、従業員が遅刻や欠勤を繰り返していることを示す出勤簿、能力不足を示す成績表などが証拠となります。
従業員に対して渡した指示書や指導の際に使った書類、データ、従業員から提出された書面や試験の結果なども証拠として必要となりますし、配置転換や異動を行ったときの辞令書や、その後の成績表、人事評価書、直属の上司による報告書なども必要です。
従業員の行為によって社内や社外に影響を及ぼした場合には、社外から届いた書面やメール等の資料も収集しましょう。
弁護士にご相談いただけましたら、個別のケースに応じて、適切な証拠収集方法をアドバイスすることが可能です。
4、従業員の解雇の準備は慎重に!お困りであれば弁護士に相談を
たとえ会社側から見て問題がある社員であろうと、従業員を普通解雇するには多くの注意点があります。何も準備を行わず「クビだ」「辞めてくれ」で辞めさせようとすると、「不当解雇」とみなされ損害賠償金を請求されたり裁判を起こされたり、時には炎上を引き起こされ、事業自体にも影響を及ぼしてしまう可能性があります。だからこそ、大変だと感じる経営者が多々いらっしゃるのです。
本コラムでは一般的な普通解雇について述べましたが、解雇理由によっては、踏まなければいけないステップがさまざまあります。慎重に進めるべきではありますが、問題のある社員の行動は他の従業員にも影響を与えやすいため、早期に解雇したいとお考えになることも理解できます。
そのようなケースであればなおさら、まずは労働問題についての知見が豊富な弁護士にアドバイスを求めるべき
です。ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスでは、多数の労働事件を扱うとともに、企業の顧問弁護士としても労働問題に対応しています。どちらも豊富な経験があることから、できるだけ穏便な解決を目指すことも可能です。従業員を解雇したいがトラブルになりたくないときは、お気軽にベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士まで、ご相談ください。
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