内定取り消しが認められる条件は? 企業側が負うリスクとは

2023年03月14日
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内定取り消しが認められる条件は? 企業側が負うリスクとは

コロナ禍には、コロナ以前に採用内定を出したものの、コロナ禍によって経営が悪化して、内定を取り消したい企業が相次ぎました。

実際に内定取り消しを行う際には、「解雇権濫用の法理」との関係で違法となる可能性がある点に注意が必要です。もし、やむを得ず内定取り消しをする必要が生じた場合には、弁護士にご相談のうえ、事前に慎重な検討を行いましょう。

本コラムでは、内定取り消しが認められる条件や企業側が負うリスクなどについて、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。

1、内定取り消しとは? 法律上の位置づけについて

内定取り消し(採用取り消し)とは、企業が学生などの採用内定者に出していた「内定」を取り消すことを意味します。
日本の労働法上、内定取り消しは「解雇」と位置付けられているため、解雇権濫用の法理(労働契約法第16条)が適用される点に注意しましょう。

内定取り消しの法的な整理は、以下のとおりです。

  1. (1)「内定」とは?|始期付・解約権留保付の労働契約

    そもそも「内定」は、法的には「始期付・解約権留保付の労働契約」と解されています(大日本印刷事件、最高裁昭和54年7月20日判決)。

    • 始期付
    • 契約の開始時期が将来のある時点に設定されていること。入社予定日が労働契約の「始期」となります。

    • 解約権留保付
    • 企業側が労働契約の解約権を留保していること。ただし、解約権の行使には、後述するように厳格な制限があります。
  2. (2)内定取り消し=入社前の会社による一方的な労働契約の解消

    上記の法的な解釈において重要な点は、企業が内定通知を発し、内定者(応募者)がそれを受諾した時点で、企業と内定者の間には労働契約が締結されているということです。
    つまり、採用内定取り消しは、すでに締結されている労働契約を、会社側が一方的に打ち切る行為(=解雇)であることになります。

    日本の労働法上、解雇は「解雇権濫用の法理」(労働契約法第16条)によって厳しく制限されています。
    内定取り消しも「解雇」である以上、解雇権濫用の法理によって、厳格な条件を満たす場合にのみ認められると理解しておかなければなりません

2、内定取り消しができる条件は?

  1. (1)内定者側に原因がある場合|採用内定当時の認識可能性など

    前述の大日本印刷事件では、内定者の性格などに問題があることを理由として内定取り消しが行われました。

    同事件では、企業による内定取り消しを違法と結論付けました。
    その際、内定者側の原因を理由として、企業が内定を取り消せるかどうかを判断するための以下の2つの基準が示されています。

    • ① 採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること
    • ② 採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができること


    つまり、企業が採用面接などでは認識し得なかった重大な事由により、採用しないとしてもやむを得ないと客観的・合理的に判断できる場合に限り、内定取り消しが認められるのです

    具体的には、以下の事情がある場合には、内定取り消しが認められる可能性が高いと考えられます。

    • 重要な経歴を詐称していた場合
    • 経験等のアピールがあまりにも過剰であった場合
    など


    これに対して、単に面接の印象とは少々違った程度では、内定取り消しが認められる可能性は低いです。

    大日本印刷事件判決でも、内定者が「グルーミー(陰気、陰鬱(いんうつ))な印象である」ことを理由として内定が取り消されました。具体的には、本件では、当初からグルーミー(陰気、陰鬱)という印象で不適格かと思われたが、後に打ち消す材料が現れるかもしれないので採用内定して内定者について、結局打ち消すような材料が現れることがなかったので採用内定取り消しをしたという事案でした。これについて、裁判所は、陰気な印象であることは当初から判明していたことであり、その段階で調査を尽くせば従業員としての適格性の有無は判断できたはずであるから、そのような事由を採用内定取り消し事由にはできないとして会社の主張を排斥しました。

  2. (2)純粋な会社都合の場合|整理解雇の4要件(要素)

    純粋に会社都合で内定取り消しを行う場合は、解雇権濫用の法理との関係で「整理解雇の4要件(要素)」を満たすかどうかが適法・違法の焦点となります

    整理解雇の4要件(要素)は以下のとおりであり、各要件を考慮して整理解雇の客観的合理性・社会的相当性が判断されます(なお、以下の4つの基準を4「要件」(一つでも欠ければ解雇無効と判断)とするのか4「要素」(整理解雇が権利濫用となるかどうかに関する総合的判断に際しての判断材料とし、4つの基準を中心に諸事情を総合的に考慮して判断)するのか争いはありますが、いずれにせよ解雇の有効性の判断にあたり厳格な判断が求められることに変わりはありません)。

    ① 人員整理の必要性
    整理解雇(内定取り消し)をしなければ、経営が危機にひんするという高度の蓋然(がいぜん)性が要求されます。

    ② 解雇回避努力義務の履行
    役員報酬の削減・新規採用の抑制・希望退職者の募集・配置転換など、整理解雇(内定取り消し)を回避するための代替手段を十分講じたかどうかが考慮されます。

    ③ 被解雇者選定の合理性
    整理解雇(内定取り消し)される従業員(内定者)は、能力や実績などの客観的な要素に基づいて公平に選ばれなければなりません。

    ④ 手続きの妥当性
    従業員(内定者)や労働組合などに対して、整理解雇(内定取り消し)の必要性などを十分に説明することが求められます。

3、新型コロナを理由に内定取り消しはできる?

最近では、コロナ禍による売り上げ減少などを原因とする経営危機により、一度出した内定を取り消す企業が増えています。

このように、コロナ禍を理由とする内定取り消しは、法律上認められるのでしょうか。

  1. (1)コロナによる内定取り消しは「会社都合」|整理解雇の4要件(要素)に注意

    前提として、コロナ禍を理由とする内定取り消しは純粋に「会社都合」であり、内定者側には何ら非がありません。

    よって、前述の「整理解雇の4要件(要素)」に沿って、内定取り消しの必要性が判断されることになります。

    整理解雇の4要件(要素)をそれぞれ十分に満たしていれば、内定取り消しが適法とされる可能性はありますが、かなり厳密な事前検討が必要となるでしょう

  2. (2)新型コロナを理由に内定を取り消すための必要なステップ

    コロナ禍で売り上げが回復せず、どうしても内定取り消しが必要な場合には、整理解雇の4要件(要素)を踏まえ、以下のステップを丁寧に踏みましょう。

    ① 代替手段を検討し、実行する
    内定取り消しをする前に、まずは代替手段を十分に講ずることが大切です。
    特に、高齢の労働者を中心的な対象とした希望退職者の募集や、役員報酬のカットなどが現実的でしょう。その他にも広告費・交通費・交際費等の経費削減、新規採用の停止・縮小、再雇用の停止、労働時間短縮や昇給停止等が挙げられます。

    ② 内定取り消しの理由を検討し、詳細に記録を残す
    内定取り消しをする場合、「なぜその内定者の内定を取り消すのか」の理由が重要になります。
    内定者から反論された場合に備えて、内定取り消しの適法性を主張するに耐え得るだけの理由を検討し、その内容を記録しておきましょう(可能な限り、その理由を裏付ける資料も収集しておくことが望ましいといえます)。

    ③ 内定者に対する説明を尽くす
    手続きの適正・妥当性の観点からは、内定取り消しの必要性を丁寧に説明して、内定者の納得を得るプロセスを踏みましょう。
    内定者の納得が得られれば、後で紛争に発展する可能性も低くなります。

    ④ 他の就職先をあっせんする
    内定者側の不利益を緩和するために、企業が他の就職先をあっせんするなどの具体的な努力をした場合には、内定取り消しの客観的合理性・社会的相当性が認められやすくなります。

4、内定取り消しによる企業側のリスクは?

企業が安易に内定取り消しをすると、世間に悪いイメージを与えてしまうおそれがあるほか、内定者との間で紛争に発展するリスクも生じてしまいます。

  1. (1)世間に悪いイメージを与えてしまう

    「内定」は企業と内定者の間の「約束」であり、それを一方的に反故(ほご)にすると企業の印象が悪化するのは、ある意味当然のことでしょう。

    また、「内定取り消しをしなければならないほど、業績が悪い企業」というイメージを世間に与え、世間からの信用を失ってしまうおそれもあります。

  2. (2)内定者との間で紛争に発展する可能性がある

    また前述のとおり、内定取り消しは法的には「解雇」であるため、内定者側が解雇無効や損害賠償などを主張して争ってくる可能性も十分に考えられます。

    企業側としては、そもそも解雇無効に関する紛争への対応自体に労力や費用がかかるうえ、最終的に巨額の損害賠償義務を負ったり、内定者の入社を認めなければいけなくなったりする可能性があります。

    このように、内定者との間で紛争を生じた場合、企業は大きな負担を強いられることになるため、安易な内定取り消しは避けるべきでしょう

5、まとめ

コロナ禍を理由とした内定取り消しは、企業側にも同情すべき点があります。しかし法的には、「解雇権濫用の法理」に基づき、内定取り消しの適法性が厳しく審査されることに留意しなければなりません。

安易に内定取り消しをすると、企業のイメージダウンや内定者との紛争につながってしまうため、弁護士にご相談のうえで慎重に検討することをお勧めいたします

ベリーベスト法律事務所では、コロナ禍で危機に陥った企業を支援するため、労務関連の法律相談を随時受け付けております。

コロナ禍を理由とする内定取り消しをご検討中の経営者の方は、お早めにベリーベスト法律事務所 金沢オフィスにご相談ください。

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