敷金が原状回復費用に使われて返金されない! 返してもらう方法を弁護士が解説
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原状回復に関するトラブルは、金沢市が位置する石川県でも発生しています。令和2年に発行された広報いしかわでは、原状回復トラブルが発生しているとして、「原状回復トラブルを防ぐには」という特集が組まれました。
独立行政法人国民生活センターに寄せられた賃貸住宅の敷金や原状回復に関するトラブルの件数は、2019年の1年間で1万1785件。相談にいたっていないケースも相当数あると推定できますので、さらに多くのトラブルが発生していると考えられます。
マンションやアパート、戸建てを借りていた方にとって、退去時の原状回復費用の請求や敷金の返金といった問題は、今後の生活を左右するほどの大きな問題です。本記事では、賃貸住宅の敷金の返金や原状回復費用に関するトラブルを解決する方法を、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、敷金の定義とは? 礼金との違い
まずは、敷金の定義や敷金と同じく入居時に支払う礼金との違いを解説します。
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(1)敷金は家賃未払いや原状回復費用の支払いを担保するもの
敷金は、賃貸住宅の契約時に大家さんに支払うお金です。
敷金は、家賃が未払いとなった場合、未払い分に充てられたり、退去時に原状回復費用が必要になった場合の支払いに充てられたりします。
これらの費用に充当されなかった敷金は、退去時に入居者に返金する必要があります。
敷金ゼロ物件の場合は、退去時に原状回復がなされていなければ、借主にて相当な範囲の原状回復費用を負担する必要があります。 -
(2)敷金と礼金の違い
敷金と同様に契約時に入居者が大家に支払うのが礼金です。
礼金は、大家さんに対して「謝礼」として支払われるお金です。敷金のように未払い家賃や原状回復費用に充当される性質のお金ではありませんので、返金されることはありません。
敷金が返金されないと思ったら、敷金はゼロで礼金を1か月分支払っていたという事例もありますので、ご自身が契約時に支払ったお金の内訳を契約書で確認しておきましょう。
2、原状回復費用に関する法律、ガイドライン
原状回復に関するトラブルが頻発しているため、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しています。
また、民法改正によって、原状回復の義務について明記されることになりました。民法改正の概要と、国土交通省のガイドラインを確認していきましょう。
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(1)民法改正により原状回復義務の範囲が明文化される
民法改正により、民法621条に賃貸物件において、賃借人(借りている人、入居者のこと)が負う原状回復義務が明記されました。この規定は令和2年4月1日に施行されています。民法621上の規定は以下の通りです。
賃借人は、賃借物を受け取った後に之(これ)に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く。以下この条において同じ)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃貸借の責めに帰することができない事由によるものでないときは、この限りでない
民法621条では、賃借人には、一般的な使い方をした場合や経年劣化によって生じた損傷等の原状回復義務はないとしています。これまでは、民法に同様の規定はありませんでしたが、トラブルが頻発することから新設したものです。
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(2)原状回復に関する国土交通省のガイドライン
原状回復に関するトラブルが多いことから、国土交通省がガイドラインを公表しています。国土交通省のガイドラインも、民法621条の規定と同様の見解です。
民法では触れられることがない、具体的な事例で紹介されていますので、より原状回復の範囲がわかりやすくなっています。 -
(3)原状回復費用を支払わなければならない具体例
賃借人(入居者)が原状回復費用を支払わなくてはならない具体例を確認しましょう。
原則として、賃借人の、故意や過失による損傷や汚れについては、原状回復の義務を負います(故意とは、わざとした行為のことで、過失はうっかり行ったことを指します)。- 子どもによる落書き
- ペットが原因の汚れ、損傷
- 掃除を怠ったことによってできたシミや汚れ
- 釘やネジを使用した際に生じた損傷
- 通常のクリーニングできれいにならないたばこのヤニ汚れ
- クーラーの水漏れを放置したことで生じた壁や床のカビ
- 引っ越しの際に生じたひっかき傷
- 窓を開けっぱなしにして雨が降り込んだことで生じたフローリングや畳の劣化
- 壁を殴って穴を開けた
- アイロンでクッションフロアを焦がした
上記のケースに該当しない場合で、経年劣化などの賃借人が負担すべきではないとされている費用でも、賃貸借契約書で「特約」として、賃借人が負担すべきと規定されている場合は、賃借人が原状回復費用を支払わなければなりません。
賃貸借契約書に、原状回復に関する特約が規定されているかどうかを確認しておきましょう。
3、敷金の返金を要求できる事例
退去時に、大家さんが修繕費用を負担した場合でも、以下に該当する修繕費用や清掃費は賃借人が負担すべき費用ではありません。したがって、敷金の返金を請求することができます。
もっとも、民法621条の原状回復の規定は任意規定であるため、これと異なる特約は有効となることには注意が必要です。
- フローリングのワックスがけ
- 畳の表替え
- ポスターや絵画を貼ったために生じたクロスの変色
- 画びょうのあと
- クッションフロアやカーペットに生じた家具等によるへこみ
- 冷蔵庫やテレビの後部壁面の変色
- クリーニングによってきれいになるタバコのヤニによる変色
- 日光による壁や畳の変色
- 破損していない網戸の交換
- 掃除をしていたにもかかわらず行われた退去時のハウスクリーニング
4、敷金の返金を請求する方法
敷金が返金されるべき状態で、それがなされなかった場合は、以下の方法で大家さんに対して敷金の返金を求めます。
賃借人自身が対応してもよいですが、弁護士による交渉が効果的です。
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(1)大家や管理会社との直接交渉
まずは、大家さんや管理会社に返金を申し入れます。
管理会社が窓口でやり取りをしていれば、管理会社と交渉をしましょう。管理会社があるのに、直接大家さんに連絡した場合、心証が非常に悪くなる可能性がありますので注意しましょう。
返金を申し入れる場合は、民法621条や国土交通省のガイドラインに従って返金を求めている旨を伝えます。
ガイドラインには、具体的な事例が細かく記載されており、交渉前に確認することもおすすめします。
原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)(PDF:1.62MB) -
(2)内容証明郵便の送付
直接の交渉で、返金に応じてもらえない場合は、内容証明郵便を送付します。
内容証明郵便には、法的に支払いの強制力はないものの、送付をした証拠を残すことができます。また、内容証明郵便の送付で、先方が心理的プレッシャーを感じるケースが多く、支払いに応じる可能性も高まります。さらに、弁護士による内容証明郵便の送付はより効果的となります。
内容証明郵便には、以下の内容を記載します。- 敷金を支払っている事実
- 先方から送付された見積書の金額と送付された日時
- 賃借人が本来負担すべき費用
- 請求する金額
- 支払先と支払期日
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(3)少額訴訟
内容証明郵便を送付しても支払われない場合は、訴訟を検討します。
ただし、通常の訴訟は費用もかかり、判決が出るまでに時間もかかりますので、返金額が60万円以下の場合は少額訴訟を検討しましょう。少額訴訟は、1回で判決が言い渡されます。
少額訴訟を起こすためには、訴状と切手代、収入印紙が必要です。そして裁判の当日には、賃貸借契約書、敷金返還額見積書、相手の全部事項証明書(法人の場合)、問題となっている箇所の写真などが必要です。これらの証拠は、裁判所用、相手方用の2通が必要です。もちろんご自身用も用意しておきましょう。
少額訴訟は、個人でも起こすことはできますが、訴状や証拠の用意など、法律事務に慣れない方には少し難しい手続きとなりますので、弁護士への依頼が得策かもしれません。
弁護士であれば、論点を整理して、法的根拠に基づいて主張できますので、敷金の返金が認められる可能性も高まります。
5、まとめ
支払い義務がない原状回復費用を請求されて、敷金を返金してもらえない場合は、大家さんや管理会社に返金を求めることができます。
国交省のガイドラインで具体例が示されており、それに基づいて返金を請求すれば応じてもらえる可能性は十分にあります。ただし、すべての大家や管理会社が交渉に応じるわけではありません。
交渉で返金してもらえない、話し合いにならない場合は少額訴訟を検討しましょう。また、弁護士による交渉も有効です。任意の直接交渉の段階で弁護士にご依頼いただければ、相手方との交渉をすべて弁護士が行います。
ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスでは敷金の返金や原状回復費用に関するトラブルでお困りの方のお役に立てるよう、ご相談を受け付けています。しっかりとヒアリングをした上で、返金の可否を含めてアドバイスいたしますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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