子どもがスポーツ中に事故を起こした!巻き込まれた! 誰に損害賠償を請求できるのか?
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スポーツをしていると、時には思いもよらない事態が発生し、事故に巻き込まれ、あるいは、起こしてしまうようなケースがあります。仮にスポーツ中の怪我で子どもが大きな障害などを残した場合、誰にどんな損害賠償を請求できるのでしょうか。金沢オフィスの弁護士が解説いたします。
1、裁判で問題になったのはどんな事故?
スキーでは、①雪崩に巻き込まれて死亡した事故(松江地判平成26年3月10日)や、②コースから外れて転落した事故(東京高判平成10年11月25日)、③立ち入り禁止区域に入って滑っていたところ、雪崩に巻き込まれた事故(長野地裁平成13年2月1日)、④利用者同士の衝突事故(最判平成7年3月10日)などがあります。
サッカーでは、⑤サッカーのゴールを倒して同級生を死亡させた事故(鹿児島地判平成8年1月9日)、⑥フットサルのドリブルをしている選手に横から膝をぶつけた事故(東京地判平成9年12月17日)や、⑦未成年者が蹴ったサッカーボールが原因で発生した交通事故(最判平成27年4月9日)、⑧サッカーの試合中に起きた落雷事故(最判平成18年3月13日)などがあります。
野球では、⑨スイングの途中でバットを放らせるような指導をした結果、バットが他の選手の左目にあたり失明した事故(福岡地裁小倉支判平成17年4月21日)、⑩プロ野球の公式戦で、バッターの打ったファウルボールが観客の顔面に当たって失明した事故(札幌高裁平成28年5月20日)などがあります。
ここで挙げた裁判例は、ほんの一部にすぎませんし、他の競技等でも多くの死亡・重症の事故が起こっています。
2、誰に損害賠償請求できるの?
スポーツに際して、怪我を負うような事故が起こった場合、誰にどのような請求を検討できるでしょうか。
特に学校などで起きたスポーツ中の怪我については、請求の相手方が複数になる可能性があります。
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(1)加害者本人と法定代理人
まず、怪我をさせた加害者本人が考えられます(上記④や⑥事件)。
ただし、加害者本人が小さな子どもだったような場合は、どうでしょうか?
民法712条は、未成年者は、責任能力がない場合には、賠償の責任を負わない旨を定めています。
未成年者に、責任能力が認められるのは、個人差や問題となる行為にもよりますが、12・13歳程度とする判例が多いです。
このような責任能力が認められない未成年者が加害者本人である場合には、損害賠償を請求することができません。
未成年者が責任を負わない場合、その父母などの監督義務者の責任が問題となります。
民法714条1項は、未成年者が責任を負わない場合の監督義務者の責任を定めています。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったときには、その責任も負わないこととしています。
この監督義務者が義務を怠らなかったときというのは、立証が難しく、監督義務者が責任を免れるケースは相当限られたものと考えられてきました。
ところが、⑦の事件は、責任能力のない未成年者が蹴ったサッカーボールが路上に出て起きてしまった交通事故について、未成年者の父母への責任追及が検討され、請求が認められませんでした。裁判所は、「親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は、ある程度一般的なものとならざるを得ないから、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。」として、監督義務者としての責任を否定しているのです。行為の危険性や日頃の注意指導などによっては未成年者の父母も責任を負わない場合もありえるでしょう。 -
(2)学校や指導教員
学校で起きたスポーツ事故の場合、教員や指導者が監督しているはずですので、指導者らへの請求も考えられます。ただし、公立学校の場合は、指導者本人への請求はできません。
また、学校にも損害賠償を請求することができます(民法715条1項の使用者責任、公立学校の場合には国家賠償法1条1項の問題となり都道府県や市町村が相手になります。)。⑨の事件も公立学校でしたので、都道府県が被告となりました。 -
(3)スポーツ大会主催者
スポーツ競技会などの開催中に怪我をすることもよくあります。この場合、その大会の運営に不備があったり、運営の不手際があったりすれば、怪我の一因である可能性があります。こうした場合、大会の主催者を損害賠償の相手方として追加することもあります。
⑧の事件については、市体育協会も、主催者として損害賠償責任を負うとされました。⑩の事件でも、プロ野球チームに主催者としての責任が認められています(債務不履行)。 -
(4)スポーツ用具や設備を設置した会社など
スポーツ中の怪我の中には、道具や設備そのものが不良・不備であったために生じる怪我もあります。
民法717条1項は、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じさせたときは、その工作物の占有者や所有者に損害賠償責任を認めています。
①②③はスキー場が相手になっています。
国や、公共団体の所有物である場合には、国家賠償法2条1項は、公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために損害を生じたときの賠償責任を定めています。
⑤の事件では、市にその責任を認めています。
3、加害者が保険に入っているか要確認
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(1)加害者が、怪我に対応できる賠償保険に入っているか
加害者がスポーツ中の怪我に適用できる賠償保険に加入しているかどうかも重要です。仮に相手に法的な賠償責任が認められても、それを支払う金銭がなければ意味がありません。事故の結果によっては莫大(ばくだい)な損害になる可能性もありますから、相手が保険に加入しているかどうかは実際問題として重要です。
学校事故の場合は、学校を経由して賠償保険に加入していることが多いです。それ以外の場合、加害者本人や家族の自動車保険や火災保険に個人賠償保険が付帯しているときもあります。加害者の保険加入状況は賠償の行方に大きく影響しますので、ぜひ確認したいところです。 -
(2)保険があれば交渉相手も違います
仮に相手が保険に加入していれば、賠償に関する交渉相手もその保険会社の担当者になることが一般的です。被害者と加害者が直接賠償交渉を行うのは大変なストレスです。交渉相手が保険会社に代わるだけで、お互いのストレスはかなり軽減され、交渉も進みやすくなる傾向があります。
4、スポーツ中の事故やトラブルは弁護士への相談がおすすめ
スポーツ中の事故は、ときとして重大な結果をもたらします。中には、死亡したり、半身不随などの大変重い障害を残したりしてしまうこともあり、それに伴い、賠償額も大きくなります。そのような場合、もし賠償責任が認められたとしても、個人の場合は、資力の問題から十分な金額を受け取れなくなってしまう場合があります。
そのためにも、損害賠償を請求する相手方を適切に選択することも重要です。ただし、関係者のうち、誰に賠償責任が認められるかは高度な法的判断が伴います。
ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスでは、スポーツの事故に関するご相談についてもお受けしています。誰に損害賠償請求できるかについても、ご事情を詳しく伺った上、ご相談させていただきます。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています