金沢の老人ホームで母が骨折! 介護事故で損害賠償請求はできる?
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高齢化や核家族化に伴い、金沢においてもご高齢のご家族を特別養護老人ホームなどの介護施設に預けたり、ショートステイなどを利用されたりする方も多いと思います。行政も協力し、介護の質の向上に取り組んでいます。
しかし、残念ながら介護の現場では、転倒や誤嚥(ごえん)などの介護事故が生じるケースが多々あります。これらの事故は、場合によっては利用者の通院や入院を余儀なくし、後に障害が残るなどの深刻な結果を生じさせ、最悪死亡事故にもつながりかねないケースが考えられます。その原因は、人手不足や、経験不足など、施設側の責任が問える場合と、そうではない場合があるでしょう。
そこで本コラムでは、金沢で介護事故に対して損害賠償を検討している方のために、損害賠償が認められた裁判例の紹介や損害賠償請求の流れなどについてご紹介します。
1、介護施設で起こる事故
特別養護老人ホームや老人保健施設など、入所サービスを行っている介護施設で起こる事故には、人身事故と物損事故の2種類があります。
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(1)人身事故
平成30年に行われた公益財団法人介護労働安定センターの報告によると、利用者に怪我をさせてしまう事故のうち84.5%が「転倒・転落・滑落」によるものであることがわかっています。次いで「誤嚥・誤飲など」であり、傷病別に見た場合は、「骨折」がもっとも多く、次いで「打撲」、「あざ・裂傷など」が続く結果となりました。
人身事故の中には、転倒による頭部打撲が原因で脳障害となったり、誤嚥による死亡事故が起きたりしたケースもあります。事故の発生原因としては、介護職員の監視不十分や不適切な介護行為、施設設備の不備・不良などが挙げられます。 -
(2)物損事故
入所サービスで起きる物損事故とは、入居者の私物(眼鏡や補聴器など)の破損・紛失などのことを指します。
先述した同センターの調査によれば、入所サービスでの事故の割合は人身事故92.2%、物損事故7.8%となっており、圧倒的に人身事故が多い結果になっています。
2、介護事故の裁判例
介護施設における介護事故の発生に対し、損害賠償請求訴訟も提起されています。施設側の安全配慮義務違反などがあったとして、損害賠償請求が認められた裁判例を紹介します。
なお、本項で紹介している事例はいずれも、事故の危険性が認識されていたにもかかわらず、施設側にそれに対する措置や安全配慮義務を怠った結果、過失と事故との関係性が認められた事件になります。施設側の過失と事故の結果が無関係な場合は責任を問えないため、損害賠償は認められません。
あくまで一例であり、地方裁判所による裁判例です。控訴審などによって判決が覆ることがありますし、個々の症状や状況によって異なる判決が出る可能性が高いことはご承知おきください。
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(1)転倒後に死亡(福岡地裁小倉支部平成26年10月10日判決(事件番号:福岡地裁小倉支部平成23年(ワ)第705号))
特別養護老人ホーム施設の短期入所サービスを利用していた事件当時96歳のAが共同生活室から個室に移動する際に転倒し、胸部を強打するなどの結果、死亡したケースです。
裁判の判決では、安全注意義務を怠らなければ事故は防げたとして事故と死亡の因果関係が認められました。特別養護老人ホーム施設に対しては、慰謝料として2200万円の責任が認められています(ただし、原告の請求は、法定相続分の5分の1の限度で認められています)。 -
(2)誤嚥による後遺障害(熊本地裁平成30年2月19日判決(事件番号:熊本地裁平成27年(ワ)第1050号))
特別養護老人ホームYにおいて、要介護4、栄養・食生活上の留意点として誤嚥注意、食事摂取について全介助とされていた入居者Xが誤嚥事故により後遺障害が残ったケースです。
入居者は事故当時、しゃっくりが出るなど誤嚥の兆候を示していたが、介護者は食事介助を継続し、食事が終了した後は口腔内の残留物を確認せずに離席しました。その後、別の職員により苦しそうにしている入居者Xが発見され、吸引措置などが施されたものの、心肺停止状態に陥り、結果的に低酸素性脳症と診断されました。
判決では、介護者に注意義務違反があったとし、介護サービスを契約していた特別養護老人ホームYに対して、慰謝料1200万円に入院諸費用を加えた約2000万円の損害賠償金の支払いを命じています。
3、介護事故の損害賠償請求手続き
介護事故に対する損害賠償請求手続きの一般的な流れは、次のとおりです。
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(1)介護施設に事故について報告を求める
介護施設において何らかの事故が発生した場合、介護保険法および厚生労働省令に基づき、介護事業者は事故の発生状況や被害の程度、原因分析、今後の予防対策などについて、市町村と入居者の家族に対して報告しなければなりません。
しかし、介護施設によっては事故対応に不慣れだったり、報告体制が整っていなかったりするために、家族への事故報告が行われない場合もあります。また、時間の経過とともに、介護担当者の記憶もあいまいになるので、なるべく早い時期に報告を求めることが大切です。
報告は、できるだけ書面と面談の両方を求め、事故の原因や発生後の対応などについて疑問がある場合は質問をし、その際に答えられないことは、調査して回答することを求めましょう。面談や電話でのやりとりは、メモを取るとともに録音しておきましょう。 -
(2)必要な資料を収集して調査を行う
介護事業者の説明が不十分であったり、納得ができなかったりする場合は、次のような資料を収集します。
- 介護記録(介護日誌・業務日誌など)
- 介護保険認定調査票・個別援助計画書・ケアプラン
- 介護サービス契約書・重要事項説明書
- 市町村への事故報告書
- 救急活動記録票
- 病院のカルテ など
事業者が介護記録などの証拠を隠滅する恐れがあったり、開示しなかったりする場合は、裁判所に証拠保全の申し立てを行う必要があります。
しかし、介護事故の場合は証拠保全の難しさに加え、次のような事情によって介護事業者側の責任を立証することはなかなか難しいケースが多いのが実情です。- 事故の被害者である利用者が死亡している
- 被害者が認知症などにより事故の詳細な証言が困難
- 事故の目撃者がいない
- 家族がその場にいない、遠方に在住しているために事故後すぐに駆け付けることが困難
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(3)示談交渉
介護事業者からの報告や資料を元に、介護事業者に過失があると判断した場合は、介護事業者に対して、損害賠償についての示談交渉を申し入れます。示談交渉をする際には、あらかじめ内容証明郵便により、損害賠償請求の意思表示を行います。事故によっては、施設側の弁護士から損害賠償額の提示が行われる場合があります。
なお、ほとんどの介護事業者は介護事故に対する損害賠償を保険金で補填するために損害保険に加入しており、契約している損害保険会社の担当者や弁護士が交渉にあたる場合もあります。
示談においては、介護事業者の過失や、慰謝料や医療費などの損害賠償額について協議を行い、お互いに納得し合意ができたら示談書を交わし、損害賠償金が支払われることになります。当事者同士で解決する示談は、民事調停や裁判に比べて、早期の解決を図ることができます。 -
(4)民事調停・訴訟
介護事業者が過失を認めない場合や損害賠償額について合意できなかった場合、利用者側が示談による解決を望まない場合などは、裁判所に調停の申し立てまたは損害賠償請求の訴えを提起することになります。
調停では、調停委員が間に入り、話し合いによる解決を図ります。調停が不調に終わった場合は、訴訟を提起するかどうか検討することになりますが、調停を経ずにいきなり訴訟するケースも少なくありません。
訴訟になれば、審理の途中で裁判所から和解案が提示されて和解により早期に解決する場合もあります。それでも裁判の場合は、第一審の判決が出るまで数年もかかるケースが多々あります。
4、介護事故の損害賠償請求は弁護士に相談を!
介護事故の損害賠償を請求する際には、弁護士に相談することをおすすめします。
法的責任を立証する証拠収集や証拠保全の手続き、損害賠償額の算定や相手側の弁護士などとの示談交渉には、法的な知識の他、介護や医療に関する知識も必要です。また、介護事故が訴訟まで発展した場合には、争点整理手続きだけで長い歳月を要することになります。
弁護士に早い段階で依頼すれば、交渉を代理人として任せることができるため、精神的・肉体的な負担が軽くなります。そして、法的に適切な証拠保全ができ、早期に妥当な損害賠償金を得られる可能性が高くなります。施設側も弁護士が対応するケースがほとんどと考えられますし、個人で対応することは非常に難しいでしょう。
5、まとめ
今回は、介護事故の損害賠償請求の裁判例や請求の流れについて解説しました。高齢化が進むごとに介護事故は年々増加しているようです。当事者が供述できる状態ではない、目撃者が少ないといった事情もあり、立証が難しいケースが少なくありません。
また、大切な家族を預けているので、介護事業者に過失があったとしてもあまり強く言えない気持ちもあるでしょう。しかし、依頼を受けた弁護士であれば客観的な事実に基づいて、介護事業者側に対して損害賠償請求を進めることができます。
介護事故の損害賠償請求でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所金沢オフィスにご相談ください。損害賠償請求について実績豊富な金沢オフィスの弁護士が全力でサポートし、納得できる解決へと導きます。
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