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賃貸マンション退去時の原状回復費用、借主はどこまで負担すべき?

2020年03月26日
  • 一般民事
  • 賃貸
  • 原状回復
賃貸マンション退去時の原状回復費用、借主はどこまで負担すべき?

原状回復費用やそれに伴う敷金返還は、賃借人の退去時に最もトラブルになりやすい問題であると言えるでしょう。賃貸マンション・アパートを借りていて、別の家に引っ越しするために退去する際、原状回復費用はどこまで負担すればよいのでしょうか。

1、借主は原状回復費用をどこまで負担すべき?

就職や進学で、春から一人暮らしを始める方も多いと思います。アパートやマンションの部屋を借りたら、退去するときには部屋を原状回復しなければなりません。しかし、部屋を借りたときとまったく同じ状態で返すことはほぼ不可能です。借主は原状回復費用をどこまで負担しなければならないのでしょうか。

  1. (1)借主には善管注意義務がある

    民法では、個人がお金を払って他人が所有する特定の物を借りる場合は、返す時期が来るまで自分のもの以上に注意してその物を管理しなければならないとする善管注意義務があるとされています。

    それと同じように、賃貸物件を借りるときも、借主にはその物件の管理者として注意深く管理する義務があります。借りた物件に住んでいるのは自分ですが、その物件はあくまで貸主のものなので、退去するまでは大切に住まわなければならないのです。

  2. (2)原状回復義務とは

    借りている物件を退去するときは、借主の責任で原状回復をしなければなりません。これを「原状回復義務」といいます。ただし、賃貸借契約における原状回復とは「借りたときの状態に戻す」という意味ではありません。故意や過失により生じた大きな損耗や損傷を回復させることを指します。

    通常使用の範囲内であれば、少しの傷や汚れで借主が原状回復費用を負担することはありませんが、借主の使用状況に問題があって大きく傷をつけてしまったり壊してしまったりしたときは、借主の費用負担で修理をしなければならなくなります。

    たとえば、日差しが長年当たり続けることによって色あせたフローリングや壁紙の張り替えは、経年劣化として原状回復義務の範囲外となります。一方、寝たばこをしていて畳が焦げてしまったなどの場合は、原状回復のためにその畳の修理もしくは張替の費用を借主が負担することになります。

  3. (3)入居者負担になるもの

    国土交通省が発表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、原状回復費用が入居者負担になり得るのは以下のようなケースです。

    • 引っ越し作業でできた引っかきキズ
    • 雨が吹き込んだことによるフローリングや畳の変色、シミ
    • 冷蔵庫下のサビ跡  など
    壁・天井
    • たばこのヤニ・におい
    • 壁のクギ穴・ねじ穴(下地ボードの張り替えが必要なもの)
    • クーラーの水漏れを放置したために発生した壁の腐食  など
    建具
    • ペットによる柱などのキズ
    • 油性ペンなどによる落ちにくい落書き  など
    設備その他
    • ガスコンロや換気扇の油汚れ
    • 水回りの水垢・カビ
    • カギの紛失・破損による取り換え
    • 戸建て住宅の庭に生い茂った雑草  など
  4. (4)貸主負担になるもの

    逆に、修繕費用・工事費用・交換費用などが貸主負担となり得るのは以下のものです。

    • 家具の設置による床やカーペットのへこみ
    • 次の入居者のために行う畳の裏返し・表替え
    • 日照などによる畳の変色・フローリングの色落ち  など
    壁・天井
    • テレビや冷蔵庫の後ろの黒ずみ(電気ヤケ)
    • 壁にはったポスターの跡
    • 日照によるクロスの変色
    • 画びょうやピンの穴(下地ボードの張り替えが不要なもの)  など
    建具
    • 地震などの災害で割れたガラス
    • 次の入居者のために行う網戸の張り替え  など
    設備その他
    • エアコンの内部洗浄
    • 水回りの消毒
    • 次の入居者のために行う浴槽の取替え
    • 入居者の入れ替わりのために行うカギの交換
    • 設備機器の寿命による故障、使用不能  など
  5. (5)契約書に特約が入っている場合はどうなる?

    賃貸借契約書の中には、上記のような一般的な原状回復義務を超えた修繕義務を借主に課す特約があります。契約自由の原則にもとづき、強行法規(当事者で合意をしたとしても契約の効果が無効となる法律規定)に反しない限りはそのような特約も原則として有効です。

    ただし、あまりにも一方的に賃借人の負担が重くなるような契約条項は、消費者契約法違反となり無効とされることがあります。

  6. (6)「ゼロゼロ物件」の原状回復費用はどうなる?

    賃貸物件はたいてい敷金と礼金がセットになっており、退去時には敷金からクリーニング費用が引かれて返還されるのが一般的です。しかし、15年ほど前から入居時に敷金も礼金もいらない、いわゆる「ゼロゼロ物件」が少しずつ増えてきました。

    ゼロゼロ物件では、退去するときにクリーニング費用を別途支払わなければなりません。物件によっては消毒費用などもかかることがあり、原状回復費用を相場より高めに設定されていることもあります。ゼロゼロ物件は、初期費用は安く済みますが、退去費用がその分余計にかかる場合があることを覚えておきましょう。

2、原状回復義務は民法改正でどうなる?

平成29年5月に民法の一部を改正する法律が成立し、令和2年4月1日より、改正民法が一部を除いて施行されます。今回の改正で、不動産の賃貸借について変更された点や新しく追加された点があります。原状回復義務についてはどのような規定になっているのでしょうか。

  1. (1)原状回復義務の範囲が明記された

    新法621条では、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、賃借人に帰責事由が認められるものに限り、賃借人が原状回復義務を負う。通常の使用・収益によって生じた賃借物の損耗・経年劣化は除くと明記されました。

    今まで原状回復義務の範囲について民法には明記されていませんでしたが、新法で明記されたことになります。

  2. (2)賃借人の収去義務も明記されている

    また、新法599条1項で、使用貸借契約に関して、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負うことが明記されました。ただし、借用物から分離することができない物や分離するのに過分の費用を要するものについては、この義務は免れるものとされています。そして、この規定は、賃貸借契約にも準用されます(新法622条)。

    たとえば、借主が借りた部屋の壁に作り付けの棚を作った場合、原則として退去時にはそれを撤去しなければなりません。しかし、何らかの理由で棚を撤去できない場合や撤去に多額の費用をかけなければならない場合は、撤去しなくてもよいことになったのです。

  3. (3)敷金の定義や返還時期も明確化

    原状回復義務と切っては切れないのが、敷金の存在です。民法改正により敷金の定義や返還義務の発生要件が明確化されました。

    民法622条の2では、敷金を、(保証金・敷引金など)いかなる名目によるかを問わず、賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保するために、賃借人が賃貸人に交付する金銭と明確に定義しました。そして、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」「賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき」に、賃貸借契約時に受け取った敷金の額から賃借人の債務の額を差し引いて返還すると定められました。

3、退去時の原状回復トラブル回避のためにできること

退去時には、借主がどこまで原状回復費用を負担するか、貸主ともめて裁判にまで発展するケースも少なくありません。大きなトラブルを回避するために借主ができる対策としては、どのようなものがあるのでしょうか。

  1. (1)賃貸物件の入居時に写真を撮る

    賃貸借契約を交わした後、引っ越し荷物を運び入れる前に壁や天井、床、窓枠など汚れや傷が気になるところがあれば、日付を入れて写真に撮っておき、不動産会社と共有しておくことが大切です。この写真があれば、退去するときに最初から汚れや傷があったことの証明になりますし、途中で管理会社や大家さんが変わったときにも、この写真をもとに敷金返還の交渉ができるでしょう。

  2. (2)原状回復ガイドラインの内容を知っておく

    原状回復費用のうち、どこまでが入居者負担で、どこからが貸主負担なのかをあらかじめ知っておくこともとても大切です。これを知らなければ、退去するときに本来貸主が負担すべき費用まで請求される可能性があるからです。

    借主・貸主それぞれがおこなうべき原状回復の範囲については、原状回復ガイドラインに記載されていますので、ざっとでも読んで内容を把握しておくことをおすすめします。

  3. (3)高額な費用が請求されたら妥当な金額か確認する

    もし退去時に貸主から高額な原状回復費用が請求されたとき、納得いかないからと言って支払いを拒否したり、無視したりすれば、貸主側から訴えられる可能性があります。

    もし、相手方が提示してきた原状回復費用に納得がいかない場合は、相場を知るために近隣にある複数のリフォーム会社に見積もりを取ってみましょう。数社から取った見積もりと照らし合わせて高すぎることが判明したときは、それらの見積を証拠資料に相手方と値下げ交渉を行うことができます。

  4. (4)国民生活センターや消費生活センターに相談する

    高額な原状回復費用を請求されたときには、国民生活センターや消費生活センターに相談することも可能です。

    国民生活センターでは、「クリーニング代や修繕費まで含んだ高額な原状回復費用を請求された」「原状回復ガイドラインで調べて反論したのに大家さんが取り合ってくれない」などの相談が日々寄せられていますので、何らかのアドバイスをもらえるでしょう。また、消費生活センターに相談しても、原状回復に関する考え方について情報提供を受けることができます。

  5. (5)弁護士に相談する

    大家さん(貸主)と一対一ではどうしても話し合いが難しいときは、弁護士に相談して交渉をしてもらうのも良いでしょう。弁護士が交渉を重ねることで、原状回復費用を最低限に抑えられるなど、借主に有利なように交渉を終わらせることもできます。借主個人ではどうしても交渉ができない場合でも、弁護士がいれば民事調停や少額訴訟といった法的措置を取り、調停や裁判で最終的に問題解決を図ることも可能です。

4、まとめ

原状回復費用をめぐるトラブルはあとを絶ちません。大家さん側も全員が全員原状回復のガイドラインの内容を知っているとは限らず、貸主負担になるはずの費用もすべて借主負担になると思っている方も少なくないでしょう。そのような大家さんと対等に交渉するためにも、借主側もどういうときに自分が費用を負担しなければならないのかを知っておくことが重要です。

原状回復をめぐって大家さんとトラブルになりそうなとき、または実際にトラブルになってしまったときは、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスまでご相談ください。賃貸借トラブルの経験豊富な弁護士がご相談に乗り、対応策を一緒に考え、問題解決に至るまでサポートします。トラブルが大きくならないうちに、お早めに当事務所までご来所の上ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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