未払いの残業代はどこに相談すればいい? 残業代請求の手順を弁護士が解説

2021年03月24日
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未払いの残業代はどこに相談すればいい? 残業代請求の手順を弁護士が解説

金沢市による平成28年の経済センサスによりますと、金沢市では約2万7000を超える事業所に、25万人近くの人が働いています。これほどの規模の経済圏であれば、労働問題の代表格ともいえる「未払い残業代」が発生していても不思議ではありません。

なお、石川県労働局が発表している平成30年の「労働基準関係法令違反に係る公表事案」によれば、金沢市では長時間労働に関する送検事例はあるものの、未払い残業代に関する送検事例はありません。しかし、公表事案の内容に限らず労働者は残業代の未払いという不当な搾取に巻き込まれる可能性はあり、かかる事態に直面した場合は未払い残業代の正当な支払いを受けるために適切な対処を行う必要があります。

本コンテンツでは、もし使用者から残業代の未払いがあった場合に相談すべき窓口と、残業代未払いの方法や手順について、弁護士が解説します。

1、未払いの残業代はどこに相談するべき?

労働基準法などの労働関係法令や各種制度は、複雑かつ難解です。また、未払いの残業代は自身の(元)雇用先、つまり組織に対して行うわけですから、不十分な知識で対応を誤れば支払いについてあなた自身が決定的に不利な立場になりかねません。

未払い残業代の問題に対処するに際して、まずは以下のような知見や対処力のある先に相談しましょう。もちろん、どの相談先も相談者のプライバシーを厳格に保護しています。

  1. (1)総合労働相談コーナー

    厚生労働省により、全国の労働局や労働基準監督署内に設置されている相談窓口です。

    労働問題のよろず相談窓口として、未払い残業代のほかにも解雇、雇い止め、一方的な配置転換、不当な賃金引き下げ、不適切な募集・採用、いじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントなど、あらゆる分野の労働問題について相談することが可能です。

    使用者の行為が労働関係法令に直接違反していないため労働基準監督署が動きにくいと考えられる問題、あるいは労働関係法令や良識の観点に照らして使用者の行為に疑問を感じた場合は、まず総合労働相談コーナーに相談してみるとよいでしょう。もし総合労働相談コーナーが使用者に労働関係法令に違反している疑いがあると判断した場合は、行政指導の権限を持つ担当部署に取り次いでもらえます。

    各種の相談は電話または面談で行われます。基本的に予約は不要であり、費用もかかりません。
    リンク:総合労働相談コーナーのご案内|厚生労働省

  2. (2)労働基準監督署

    労働基準監督署とは企業などの使用者が労働基準関係法令を遵守しているか監督する、厚生労働省の出先機関です。

    労働基準関係法令遵守に関する監督権限は強く、その職員である労働基準監督署長および労働基準監督官は司法警察官として労働基準関係法令の違反などが疑われる使用者について捜査を行う権限のほか、法令違反が認められ悪質と判断した使用者に対しては逮捕、送検、告訴などを行う権限を有します。

    ただし、使用者による残業代未払いについて是正のために動いてもらいたい場合でも、速やかな対応をしてもらえないケースもあります。たとえば、使用者に客観的な法令違反が認められる、あるいは使用者の法令違反行為に起因し被用者に被害が発生していると立証できないものについては基本的に事件として扱わず、積極的に動きません。

    全国の労働基準監督署では、未払い残業代のほか職場の安全面、衛生面、不当解雇、賃金水準の妥当性など、労働問題に関することのほぼすべてが電話、メール、面談などで相談できます。
    リンク:全国労働基準監督署の所在案内 |厚生労働省

  3. (3)全労連 労働問題ホットライン

    労働問題ホットラインとは、日本全国の労働組合の中央組織である「全国労働組合総連合(全労連)」により運営されている労働問題の相談窓口です。

    電話相談の場合はフリーダイヤルがあり、自動的に地域を所管する全労連の労働センターにつながるようになっています。メールによる相談も可能であり、もちろん費用も無料です。

    未払い残業代に関する相談はもちろんのこと、労働問題全般について幅広く相談できます。
    リンク:全労連|労働相談ホットライン

  4. (4)NPO法人POSSE残業代請求サポートセンター

    POSSEとは、労働問題を中心に活動しているNPO法人です。

    POSSEが運営する残業代請求サポートセンターでは、未払い残業代の請求に関する相談を無料で受け付けています。なお、本人だけではなく知人や家族が抱える未払い残業代についても相談が可能です。
    リンク:残業代請求サポートセンター|相談受付

  5. (5)社労士会労働紛争解決センター

    社労士会労働紛争解決センターでは、労働問題について使用者と従業員それぞれ個別に意見・主張を聞いたうえで和解案を提示する「あっせん」を行っています。

    社会保険労務士(社労士)とは、企業に対しての労務管理や社会保険に関するコンサルティングや、企業に代わって社会保険関連や労働関連に関する書類の作成などを行うことが認められている士業です。

    社労士会労働紛争解決センターにあっせんを申し立てる際は、1080円から1万800円の費用が発生します。また、あっせんの対象は賃金、解雇や出向・配属に関することなど労働契約に限定されており、いじめやパワーハラスメントなどの労働契約外のことは対象とされていません。
    リンク:労使紛争を解決したい|全国社会保険労務士会連合会

  6. (6)法テラス

    法テラスとは国が設立した法律支援団体です。

    経済的に余裕のない人を中心に弁護士が各種の法律相談を受け付けています。もちろん、未払い残業代についても相談することが可能です。費用については初回は無料のケースも多く、着手後の弁護士費用を立て替えてもらえる場合があります。ただし、相談に応じる弁護士はあくまで法テラスの「当番弁護士」です。必ずしも未払い残業代などの労働問題について経験豊富な弁護士ばかりではないことに注意が必要です。
    リンク:法テラス

  7. (7)弁護士

    未払い残業代をはじめとする労働問題の解決に実績豊富な弁護士であれば、各種のアドバイスが行えます。それだけではなく、あなたの代理人として使用者と交渉を行い解決に向け親身に動くことが可能です。具体的には、以下のようなことが可能です。

    <弁護士ができること>
    • 個々で異なる状況に適した解決方法の提案
    • 証拠集めのアドバイス
    • 集めた証拠が法的に有効かどうかの判断
    • あなたの代理人として勤務先との交渉
    • 法的根拠に基づいた権利を主張、対応の要求
    • 労働審判や訴訟も対応


    未払い残業代の発生状況や、入手できる証拠などは個々で異なります。雇用主が顧問弁護士を雇っているケースは少なくなく、個人での対応は難しいこともあるでしょう。しかし、弁護士を依頼することによって、最初のハードルを共に飛び越えることはもちろん、早期解決に向けた対応を行います。まずは、個人の住所や勤務先の近くで労働問題を取り扱っている弁護士を探してみましょう。

    費用については、初回相談は無料という事務所が多いものです。そのほかには、着手金や弁護士活動への実費、そして成功報酬がかかります。したがって、実際に弁護士へ依頼するか否かの判断基準のひとつは、取り返したい未払い残業代と弁護士報酬の費用対効果次第でもありますので、事前にしっかりと計算しておきましょう。

2、請求できる残業代と計算方法について

残業には大きく分けて4パターンあり、基礎賃金に対する割増率はそれぞれ異なります。

証拠を集めたら、以下の4パターンからあなたの残業時間を算出し、適正な残業代を残業代チェッカーで計算してみましょう。

  1. (1)法定内残業

    労働時間は原則として1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えてはならないと労働基準法で規定されています。これを「法定労働時間」といいます。

    一方で、企業によっては就業規則や雇用契約で法定労働時間よりも短く所定労働時間を定めていることがあります。仮に所定労働時間が7時間と定められているのにもかかわらず労働時間が8時間となった場合は、差分の1時間は法廷内残業として使用者は残業代を支払う義務が生じます。この場合の残業代は基礎賃金と同額であり、割り増しはありません。

  2. (2)法定外残業

    法定労働時間を超える労働を法定外残業といい、使用者には法定外残業に対して割増率25%の残業代を支払う義務が生じます。

  3. (3)深夜労働

    午後10時から午前5時までの時間帯に労働した場合、これを深夜労働として使用者には割増率は25%の残業代を支払う義務が生じます。

  4. (4)法定休日労働

    労働基準法では、使用者は労働者に対して1週間あたり原則1日以上の休日を与えることが規定されています。これを「法定休日」といいます。この法定休日に労働した場合、使用者は割増率35%の賃金を支払うことが義務付けられています。

3、未払い残業代を請求するステップ

未払い残業代がある事実、そして金額が固まったら、いよいよ使用者に対して未払い残業代の支払いを請求します。それまでのステップをご説明します。

  1. (1)証拠を集める

    未払い残業代を請求する訴えでは、残業代が適正に支払われていない証拠を労働者が立証しなければなりません。つまり、まずはあなたが証拠を集める必要があります。

    具体的には、タイムカードやパソコンのログイン記録、会社のパソコンから送信したEメール、業務日報などが該当します。あなたが実際に残業した時間を記録したログを証明するものを集めましょう。信用性に関する議論が生じる可能性はありますが、あなたが自ら毎日記していた「勤務時間の記録」も証拠となり得ます。

  2. (2)時効を中断する

    労働者が使用者に対して未払い残業代を請求する権利は、2年で時効となり消滅します。もし使用者との交渉が訴訟などで長期化することが予想される場合は、その間に本来支払いを受けるべき残業代が時効となってしまうことが考えられますので、まずは時効を中断させなくてはなりません。

    時効を中断するためには、まず使用者に対して未払い残業代の支払いを求める「催告」を内容証明郵便で送付します。そして使用者に内容証明郵便が送達されてから6ヶ月以内に訴訟を提起すれば時効は中断します。別の見方をすれば、内容証明を送付することで訴訟を提起しなくても催告から6ヶ月経過するまで時効を延期できるといえるでしょう。

  3. (3)使用者に請求する

    前項「2、請求できる残業代と計算方法について」で計算した未払い残業代の支払いを、証拠の提示とともに使用者に対して請求します。もし訴訟に至っていない場合は、内容証明郵便で請求しましょう。

    支払いについて使用者と合意に至った場合は、合意書を作成しておきましょう。

4、まとめ

雇用されていて、残業代が支払ってもらえない事態に陥っているのであれば、まずは証拠を集めておきましょう。もし、すでに辞めている会社や事業所に対して残業代未払いを請求したいときは、時効を中断する必要があります。

まずは集めた証拠を手に適切な相談窓口に相談することをおすすめします。残業代の未払い分を請求する際は、使用者との交渉が伴います。スピーディーな解決を望む際や、あなた自身での交渉が難しいとき、訴訟となったときは弁護士へ依頼したほうがよいでしょう。ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスでも、労働問題に対応した経験が豊富な弁護士が、残業代未払い分についての相談や対応を行います。気軽に相談してください。

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