従業員が残業代請求をしても負ける場合がある!負けないためにできることとは

2019年03月22日
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従業員が残業代請求をしても負ける場合がある!負けないためにできることとは

2018年10月から11月にかけて、石川県内にある2つのホテルで、従業員に違法な時間外労働をさせたとして相次いで総支配人が書類送検される事件がありました。残業代の支払状況など詳しいことは報道されていませんが、残業代が未払いになっていた可能性もゼロではないでしょう。

このような場合、労働者が残業代請求をすれば勝訴するケースが大半ではあるものの、負けるケースもわずかながらあります。ここでは、従業員が残業代請求をしても負けてしまうのはどのような場合なのかについて解説します。

1、残業代請求をしても負ける可能性があるケース

残業代請求をしても負けてしまう可能性があるのは、以下のようなケースです。

  1. (1)自力で残業代請求をした場合

    弁護士などに残業代請求を依頼するとどうしても費用がかかるため、弁護士に頼らず自力で残業代請求をしようとされる方も数多くいらっしゃると思います。しかし、自力で準備を進めると、証拠をそろえたり支払われるはずの残業代を計算したりする労力や手間も必要<・になります。また、交渉をしようとしても会社側にうまく言いくるめられてしまって、請求しても結局残業代が支払われずに終わることも考えられるでしょう。

  2. (2)残業をしていた証拠がない場合

    残業代が未払いのまま時間外労働をしていても、客観的な証拠がなければ請求することが大変難しくなります。証拠は、残業をしていた事実や残業時間を示す証拠が必要です。とくに、残業時間を示す証拠がないと正確な未払い残業代の金額が算出できないため、会社側が支払いを拒む可能性が高いと言えるでしょう。

  3. (3)残業代が発生してから2年以上経過している場合

    また、残業代が発生してから2年以上経過している場合も、残業代請求を行うことは難しくなります。なぜなら、現在の法律上、残業代請求ができるのは当該残業代が支払われるはずだった給料日から2年間のみだからです。支払われるはず予定の給料日から2年を過ぎた後に請求をしても、会社側が「時効になっている」と主張すれば、未払い残業代がいかに高額だったとしても1円も請求できなくなってしまう可能性があります。

  4. (4)労働基準法上の管理監督者に該当する場合

    ケースとしてはあまり多くありませんが、従業員が労働基準法上の「管理監督者」にあたるとされた場合も、残業代請求が認められなくなります。管理監督者には相応の責任や権限があり、一般的な従業員よりも高待遇であることから、労働基準法上の労働時間や休憩・休日に関する規定の適用を受けません(ただし、深夜労働は適用を受けます。)。そのため、管理監督者と認定されれば、残業代の支払い対象から外れてしまうのです。

  5. (5)会社が固定残業代制を採用している場合

    固定残業代制(みなし残業時間制)が採用されている場合も、あらかじめ想定されている残業時間の範囲内でのみ残業の残業であれば、残業代請求ができない可能性があります。固定残業代制をとっている会社では、求人広告の給与欄に「月○時間の残業を含む」などと書かれています。内定をもらった後に送付される雇用契約書(労働契約書)にも記載されているため、自分の会社が固定残業代制を取っているかどうかわからない場合はそれらの資料で調べてみましょう。

2、実際に残業代請求をして負けた事例

ここでは、企業側勝訴判例をご紹介します。これらの事例では、従業員が未払い残業代をめぐって訴訟を起こしたにもかかわらず、企業側の言い分が認められています。どのような理由で企業側が勝訴したのかについて見ていきましょう。

  1. (1)神代学園ミューズ音楽院事件

    神代学園ミューズ音楽院では、36協定の締結や届出を行っていないため、従業員の時間外労働を禁止し、定時を超えて残務が発生する場合は管理職に引き継ぐよう命令していました。しかし、一部の従業員が所定労働時間内では業務を終えることができないとして残業を行い、タイムカードの打刻時間に応じた残業代を支払うよう請求したのです。

    学校側は、明確に残業禁止命令を出していたとして、残業は学校側が指示したものではないと主張。裁判所も会社側の主張を支持して「残業命令に背いて残業を行っても、これを労働時間と解することは困難である」としました(東京高判平17・3・30労判905号72頁)。なお、本件も残業代請求が全く認めらなかったわけではありません。

  2. (2)姪浜タクシー事件

    タクシー運転手として勤務していた元営業次長Xが、定年退職後に自分が「名ばかり管理職」だったとして、在職中の時間外労働と深夜労働に対する未払い賃金を会社側に請求しました。

    裁判所は、Xが多数の乗務員を監督指導する立場にあったこと、人材採用でも採否を決める役割を一定程度果たしていたこと、出退勤時間に特段制限が設けられていなかったこと、他の乗務員に比べて高額な報酬を得ていたことなどを理由に、Xは管理監督者であったと判断されました(福岡地判平19・4・26労判948号41頁)。ただし、管理監督者であっても深夜残業代は請求をできるので、請求は一部認容となっています。

  3. (3)富士運輸事件

    ドライバーとして勤務していたYが、1年8ヶ月勤務を継続して退職し、その後残業代が支払われていなかったとして会社に請求しました。会社側はすでに定額残業手当として支給済みであると主張しましたが、それに納得いかなかったYは会社を相手取り訴訟を起こしました。

    裁判所は、定額残業代制については就業規則に書かれており、就業規則と背表紙に書かれたファイルが社内で誰もが閲覧できる場所にあり周知がなされていたこと、会社側が実際の残業時間に相当する残業代以上の金額を支給していたことから、特段会社側の対応に問題はなかったと判断。Yの訴えは退けられ、会社側が勝訴しました。(東京高判平27・12・24労判1137号42頁)

3、残業代請求で負けないためにできること

以上のようなケースもありますが、残業代請求をしても会社に負けないためにできることについて考えていきましょう。

  1. (1)弁護士に相談する

    残業代請求のためのアクションを起こす前に、まずは未払い残業代が発生している時点で労働問題の経験が豊富な弁護士に相談されることをおすすめします。労働基準監督署などの公的機関に相談するのも良いのですが、労働基準監督署では話は聞いてくれるものの、結局自力で問題解決をしなければならない点がデメリットであると言えるでしょう。

    最近では、「初回法律相談料 無料」とうたっている法律事務所も多くあります。ただ話を聞いてもらうつもりでも良いので、気軽に訪問してみましょう。弁護士に相談することで、思わぬ問題解決の糸口が見つかるかもしれません。

  2. (2)残業をしていた証拠を探す

    先述の通り、残業代請求には、残業をしていた事実を示す証拠と残業をしていた時間を示す証拠が必要です。残業した事実を示すものとしては、残業指示書や残業時間中に取引先とやり取りを行ったメールなどを準備すると良いでしょう。残業時間を示すものとしては、タイムカードやIDカードでの入退館記録はもちろん、出退勤時間を手書きしたメモでも構いません。

  3. (3)労務管理がきちんとなされていたかを調べる

    意外と残業代請求に向けた準備の中で抜けやすいと考えられるのが、会社側が労務管理をきちんとしているかどうかです。悪質なケースでは、残業代を支払いたくないために労務管理を怠っている会社もあり、実際に裁判でも問題となっています。労務管理がなされていない場合は、会社側に不法行為があったとして会社側に損害賠償としての未払い残業代を求めることができるようになります。

    損害賠償が請求できる時効は3年なので、労務管理がなされていない場合は未払い残業代請求ができる期間も2年から3年に引き延ばされ、請求できる金額がその分多くなる可能性もあるのです。

  4. (4)管理監督者にあたらないことを主張する

    あとは、自分が労働基準法でいう「管理監督者」にあたらないことを証明することが必要です。経営者の中には、「課長」「店長」などの役職名を与えているだけで残業代の支払いが不要になると考えている方も数多くいらっしゃると思います。

    しかし、管理監督者とみなされるためには、経営者と一体といえるほどの権限や責任が与えられていること、人材の採否決定にも関わっていること、他の従業員に比べて高い報酬を得ていることなどが求められます。そのため、それらの条件にいずれも当てはまってないことを主張しなければなりません。

4、残業代請求の手順

残業代請求については、まず裁判外の方法で問題解決を試みます。会社側と交渉しても解決が難しい場合は、労働審判や訴訟などの法的手段を利用することも視野に入れたほうがよいでしょう。

  1. (1)証拠を集めて残業時間や残業代を計算する

    会社との交渉を始める前に、残業代請求の根拠となる証拠資料を集めて、残業時間や残業代を計算しましょう。残業代を計算する際には、割増賃金が発生する時間帯(法定外残業)と賃金が割増にならない時間帯(法定内残業)があることに注意が必要です。変形労働時間制などを採用している会社では割増賃金が発生する時間にばらつきがあるため、弁護士や社会保険労務士など労働問題に詳しい方に計算を依頼したほうが賢明です。

  2. (2)会社に内容証明郵便を送る

    次に、会社側に「これだけの時間残業をしたので、これだけの残業代が発生する」旨を記して内容証明郵便を送付します。内容証明郵便を送る際には、弁護士の名前で送付すると交渉に応じてもらえる可能性が高くなります。内容証明は細かいルールに従って作成しなければならないため、自信がない場合は弁護士にサポートしてもらうと良いでしょう。

  3. (3)会社と交渉する

    請求した残業代を支払ってもらえるよう、会社と交渉を行います。自力で交渉しようとすれば会社側にのらりくらりと言い逃れされたり、自分の主張を聞き入れてもらえなかったりする可能性もありますが、弁護士に依頼をすれば、代わりに交渉をしてもらえる上に、交渉を有利に運べる可能性も高くなります。また、会社側と直接対峙する精神的なストレスも軽減されるでしょう。

  4. (4)労働審判を行う

    交渉が調わない場合は、裁判所に申立てをして労働審判を行うことも検討します。労働審判とは、裁判官1名と労働審判員2名からなる労働審判委員会のもと、原則3回以内の期日で審理を行い、調停を図るものです。労働審判委員会が双方の主張を聞いた上で解決案の提示やアドバイスを行い、双方が合意できれば調停が成立します。双方が納得できなければ労働審判が下りますが、その内容にどちらかが納得できなければ自動的に訴訟に移行することになります。

  5. (5)訴訟を起こす

    交渉がうまくいかない場合や労働審判を経ても解決しない場合は、最終的に訴訟で争います。訴訟では、双方が主張を展開する書面をもとに事件の争点や証拠の整理が行われます。未払い残業代に関する裁判では、争点が複雑化するため、解決にある程度時間を要することが予想されますが、途中で裁判所から和解勧告を受けて和解が成立し、裁判が途中で終了するケースも少なくありません。

5、まとめ

「残業代請求をめぐる争いでは従業員が勝訴するケースが多いので、会社に負けることはないだろう」とタカをくくっていると、会社側の言い分が認められてしまって敗訴してしまう可能性も十分考えられます。もし、残業代請求を検討していて不安がある場合は、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスまでご相談ください。労働問題の経験豊富な弁護士が最適な解決策を提示し、あなたを全面的にサポートいたします。一人で悩まずに、まずはお電話またはメールでご連絡の上、ご来所ください。

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