実習先とのトラブルが頻発! 外国人技能実習制度の問題点と解決方法とは?

2021年04月15日
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実習先とのトラブルが頻発! 外国人技能実習制度の問題点と解決方法とは?

「仕事がきつい」「お金がもらえない」「もう帰りたい」。外国人技能実習生として来日した友人からこんな相談があったとしたら、あなたはどうしますか?

日本で技術を学び、お金を稼いで帰国することを夢見ていたのに、期待とは違う厳しい現実に苦しむ実習生が相次いでいます。

令和2年の石川県内における「技能実習」の労働者数は5558人で、前年同期と比べて108人(1.9%)の減少となっています(「外国人雇用状況」石川労働局)。在留資格別にみると、「技能実習生」は外国人労働者数全体の52%と、依然として大きな割合を占めています。

今回は、外国人技能実習制度のシステム、トラブルを抱える実習生はどのように対応する方法があるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。

1、外国人技能実習制度とは

日本における外国人技能実習生は増え続けています。ではそもそもどんな制度なのでしょうか。受け入れの現状と合わせてご説明します。

  1. (1)外国人技能実習制度の目的

    外国人技能実習制度は、主に開発途上国の労働者を一定期間日本で受け入れ、技術や知識を学んでもらい、本国の発展に生かしてもらうことを目的としています。当初1993年に制度化されました。

    本来は「国際協力・貢献」のための制度です。ですが現在では、日本の労働者不足を補うための制度という側面は否めません。

  2. (2)制度の仕組みと受け入れ人数・国籍

    実習生の受け入れ方法としては、大きく分けて次の2つがあります。

    • 企業単独型:日本企業の海外現地法人などから現地職員を受け入れ、実習を行う
    • 団体監理型:非営利の管理団体(商工会議所、協同組合等)が受け入れ、傘下の企業などで実習を行う


    実際にはほとんどのケースが団体監理型です。

    法務省の発表(速報値)によると、外国人技能実習生の受け入れ人数は年々拡大しており、平成30年6月末時点では約28万5千人にもなっています。

    国籍・地域別でみるとベトナムがもっとも多く、約13万4千人。次いで中国約7万5千人、フィリピン約2万9千人、インドネシア約2万3千人となっています。

  3. (3)受け入れ期間と職種、実習の流れ

    技能実習の受け入れ期間は最長5年です。
    実習生は入国から帰国までの間、技能実習1~3号の在留資格を持ち、次のように研修を受けて技術を身につけていきます。

    • 1年目【技能実習1号】:最初に2ヶ月間の講習を受け、その後実習へ。
    • 2、3年目【技能実習2号】:1年目終了時に試験に合格すれば2号へ移行。実習を継続。
    • 4、5年目【技能実習3号】:3年目終了時に試験に合格すれば3号へ移行。一時帰国した後、日本で実習を継続。5年目終了時に試験を受けて帰国。


    2・3号実習に移行ができる職種は限られており、厚生労働省によると平成30年12月時点で農業、漁業、建設、食品製造、機械・金属など80職種144作業となっています。
    また実習を行っている機関の半数以上は、従業員19人以下の零細企業です。

  4. (4)技能実習法の成立で監督強化

    技能実習制度については、これまで入管法令で規定されていました。その内容の見直しが行われ、新しい法律として平成29年11月に「技能実習法」が施行されました。

    この法律により、管理団体への監督が強化されました。

    実習生の受け入れを行ってきた管理団体は許可制、実習先(実習実施者)は届け出制になり、技能実習計画も認定制になりました。また監督機関として新たに「外国人技能実習機構」が創設され、機構の改善命令などに従わなければ、管理団体などは許可が取り消されることもあります。

    実習生に対する人権侵害についても禁止規定が設けられ、違反した場合には罰則が課されるようになりました。実習生からの申告制度も整えられました。

2、外国人技能実習制度の問題点

  1. (1)低賃金、残業代未払い、長時間労働

    外国人技能実習制度における問題点として、指摘されることが多いのが「賃金」と「労働時間」です。

    団体監理型の技能実習生の場合、2ヶ月間の講習が終了すると、受入先に雇用される労働者となるので、日本の労働関係法令が適用されます。
    そのため技能実習制度においても、賃金は最低賃金以上、労働時間も原則として1日8時間、週40時間までとなっています。時間外労働や深夜勤務、休日勤務にはもちろん割増賃金が支払われなければいけません。

    ところが実際にはこれらが守られない事態が頻発しており、実習先によるタイムカードや勤務記録の改ざんという、悪質なケースも報告されています。

    厚生労働省によると、平成29年に労働基準監督機関が受け入れ先に行った監督指導は5966件。そのうちの4266件が労働基準関係法令違反に当たりました(日本人労働者に関する違反も含む。)。違反の内訳としては労働時間がもっとも多く、次いで安全基準、割増賃金の支払いとなっています。

  2. (2)暴行やセクハラ、労災隠し

    実習生に対しては暴行や脅迫、セクハラ、旅券や在留カードを取り上げるといった人権侵害も相次いでいます。

    たとえば「日本語がわからず、上司に殴られた」「社長に呼び出され、お尻を触られた」「パスポートと通帳を取り上げられた」といったものがあります。また仕事中にケガをしたのに治療を受けさせてもらえないといった「労災隠し」も起きています。

  3. (3)実習生の犯罪、失踪

    警察庁によると、平成29年の技能実習生の検挙は1642人で、統計を取り始めた平成24年から増え続けています。

    中には凶悪犯罪に関わってしまうケースもあります。石川県でも平成30年5月、ベトナム人技能実習生の男が同僚を刃物のようなもので切りつけ、殺人未遂容疑で逮捕される事件がありました。

    ただ全体でみると刑法犯での検挙件数のうち、圧倒的に多いのは窃盗です。これには低賃金など、実習生が経済的に困窮しているという背景があると推測されます。

    一方で実習生の失踪も相次いでいます。法務省によると、平成29年の技能実習生の失踪者数は7089人にものぼりました。

    実習生への聞き取り調査によると、失踪した動機については「低賃金」がもっとも多い67%。また「指導の厳しさ」や「暴力」との回答も合わせて17%程度あることから、待遇の悪さや劣悪な労働環境が、実習生の失踪につながっていることがわかります。

3、労働問題の解決の流れと相談先

「実習に不満はあるけれど、どうしたらいいのかわからない」という実習生も多いでしょう。そこで賃金の未払いなど、日本での労働問題解決の流れと相談先をご紹介します。

  1. (1)受け入れ先との交渉

    残業代の未払いやセクハラなどの問題は、実習受け入れ先との交渉で解決を目指します。

    有利に交渉を進めるためには、相手が言い逃れできないような証拠を集めておくことが大事です。
    契約書や給与明細、タイムカードなどの実際の労働時間の記録などを集め、会社と直接交渉し、賃金の支払いなどを求めましょう。

  2. (2)労働審判

    賃金の未払いなどは、受け入れ先も違法とわかったうえで行っていることが少なくありません。そのため簡単には事実を認めてくれないでしょう。

    そこで受け入れ先との交渉が決裂した場合には、裁判所に労働審判を申し立てましょう。

    労働審判とは、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名による労働審判員会が、トラブルの解決を図る手続きです。原則3回以内の期日で審理を終結させることになっているため、裁判と比べてスピーディーな解決が期待できます。

    話し合いの中で調停が成立すれば、そこで解決となります。調停が不成立となると、審判が下されます。審判に異議が申し立てられた場合には、裁判へと移行します。

  3. (3)裁判

    労働審判に異議が申し立てられた場合には裁判に移行しますが、実際には審判の内容と結果が大きく異なることはあまりありません。

    一方で労働審判を行わず、受け入れ先を提訴する方法もあります。

    裁判で未払い残業代などを請求する場合、労働審判ではできない「付加金」の支払いを受けられる可能性があります。付加金は残業代などの割増賃金と同額のため、単純計算で請求額が2倍になるということです。

  4. (4)外国人技能実習生の相談先

    実習生の相談先としては、主に次のような機関があげられます。

    • 外国人技能実習機構(OTIT)
    • 公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)
    • 都道府県労働局などの外国人労働者相談コーナー
    • 弁護士


    OTITとJITCO、外国人労働者相談コーナーでは母国語相談も受け付けています。

4、外国人技能実習生が弁護士に相談するメリット

実習生と実習先とのトラブルの相談先のひとつに、弁護士があります。実習先との交渉や裁判を行う場合には、弁護士に依頼することがおすすめです。そのメリットをご説明します。

  1. (1)親身になって対応してくれる

    賃金や労働環境に問題があった際、管理団体に相談する実習生もいます。ですが中には相談を黙殺したり、相談内容を実習先に報告して逆に実習生の立場を悪くしたりしてしまうケースもあります。

    弁護士であれば事情をしっかりと聞き、親身になって対応してくれます。相談の秘密はしっかりと守り、法律の知識をもとに解決方法を提案してくれます。
    実習生にとっても日本で「味方」ができることは、精神的にも大きな救いになるはずです。

  2. (2)実習先との交渉を代行してくれる

    実習先と直接交渉を行うためには、日本語の能力が必要です。実習生にとっては、難しい日本語を使った話し合いは不安も大きいでしょう。相手の話がわからなければ、取り合ってもらえなかったり、うまく丸め込まれてしまったりする可能性もあります。

    弁護士は実習生の代わりに実習先と交渉を行います。弁護士がでてくることでこちらの本気度が伝わり、実習先が問題の改善や賃金支払いに応じてくれる可能性も高まります。

  3. (3)労働審判や裁判も任せられる

    実習生にとって日本の法律や制度は非常に難しく、ひとりで労働審判や裁判を行うのはかなりハードルが高いでしょう。

    弁護士は法律が関わる手続きを全て代行してくれます。証拠集めのアドバイスから労働審判の申し立て、裁判の提訴や法廷での主張まで任せられます。

5、まとめ

「外国人技能実習制度=悪」ではありません。もちろん法律をしっかりと守り、待遇の良い実習先もあります。ですが劣悪な環境のところも、まだまだ多いのです。

耐えている必要はありません。しっかりと声をあげ、改善を求めていきましょう。ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスでは、トラブルを抱える外国人技能実習生を全力でサポートします。まずは一度、相談をしてみませんか?

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています