【前編】会社が残業代を払わない!? 会社が残業代逃れに使う可能性がある4つの手口

2019年03月12日
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【前編】会社が残業代を払わない!? 会社が残業代逃れに使う可能性がある4つの手口

金沢オフィスがある石川県では、「石川県の賃金、労働時間及び雇用の動き」と題した毎月勤労統計調査年報が公表されています。平成29年の結果によると、県内にある規模5人以上の事業所における常用労働者(パートタイム含む)のひとり平均賃金は、前年比0.1%の減少となりました。しかし所定外労働時間(残業時間)は、前年比6.6%増という結果が出ています。

会社が適正な残業代を払わないことで労働者が被る損失は、場合によっては極めて高額なものになることもあります。もしあなたが一応は残業代が出ている、あるいは自分は残業代をもらえる立場にないと考えていても、実は会社から払われていない残業代が存在しており今まで経済的逸失を繰り返していた、ということも考えられるのです。

今回は、主に会社が残業代を払わないために使う代表的な口実と、あなたが適正に残業代の支払いを受けるためはどうすればよいのかについて、金沢オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代を支払わない会社が受ける可能性がある罰則は?

残業代の支払いについて、労働基準法第37条の第1項において、事業者が緊急時の時間外労働や休日労働をさせたとき等は、「政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」と明記されています。
そして、政令により、割増率は、時間外労働の場合は25%、休日労働の場合は35%と定められています。

時間外労働だけではなく、いわゆる深夜労働についても、割増賃金を支払うよう定められています。「午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合」においても、通常の労働賃金を時間給として計算した額の2割5分以上の割増賃金を払う必要があると明記されています(労基法37条4項)。

会社が「残業代を支払わない」などの違法行為が明確に認められたときは、罰則も規定されています。

労働基準監督署による指導や是正勧告にも従わないなど悪質と判断された会社に対しては、労働基準法第119条第1項及び121条の規定により法人としての会社または管理監督の任にある経営者個人あるいは両方に対して「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課されることになります。

また、会社が送検された場合は地域の労働局により「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として会社名や事案概要が公表されます。

さらに、当局により罰則が課されることなく民事で解決した場合でも、裁判となれば会社は弁護士費用など訴訟費用の支払いが生じます。
また、未払残業代については年6%(退職後の期間については年14.6%)の遅延損害金が発生するうえ、判決によって未払残業代の支払が命じられる場合、未払残業代に加え、これと同額の付加金の支払を裁判所に命じられることがあります(労基法114条)。
このように、会社は残業代を支払わないことでリーガルリスクおよびレピュテーショナルリスクを抱える事態に陥ります。その結果として、事業そのものが立ち行かなくなるリスクすらも抱えることになるのです。

2、会社が残業代逃れに使う4つの手口

残業代を支払わないことで会社の存続すら危うくなるリスクがあるのにもかかわらず、なぜ会社にはあえて残業代を支払わないモチベーションが働くのでしょうか。

その理由のひとつとして、人件費が高いという多くの日本企業特有の経費構造にあるといわれています。労働者の雇用と賃金水準の維持を重視する法制度と慣行から、一般的に日本企業は業績悪化時でも簡単に労働者を解雇することや賃金水準を引き下げることが難しいといわれています。このため、人件費削減のために会社は雇用と基本賃金と比較して相対的に労働者の意識が向きにくい残業代の節減を図るのです。

このため、近年は労働関係法令の網の目をかいくぐるように労働契約や就業規則の内容を複雑化させるなどして、あたかも合法的に残業代を支払わないようにしている会社が多くなっており、その手口の中には明らかに違法性を疑うものがあります。以下でその代表例をご紹介しましょう。

  1. (1)名ばかり管理職

    「管理職になると残業代が出ない」という認識は、労働者の中でも広く浸透しているようです。

    確かに、労働基準法第41条第2項では「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者または機密の事務を取り扱う者」に対して会社は残業代を支払わなくてもよいと規定しています。しかし、本条文における「監督若しくは管理の地位にある者」すなわち管理監督者の本来の定義と実際の運用は懸け離れていることが多く、これが「名ばかり管理職」の問題につながっています。

    厚生労働省によりますと、「管理監督者は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」であり、管理監督者に該当するか否かは「役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断」するとされています。それにもかかわらず、「担当課長」「担当部長」などというような、部下もおらず実質的に管理監督者に該当しない中で管理監督者らしい役職名だけをつけ、残業代を支払わない事例は多いようです。

  2. (2)フレックスタイム制

    「フレックスタイム制は残業代が一切不要」と解釈する向きもあるようですが、それは法的に誤りです。

    確かにフレックスタイム制は労働者が自ら毎日の労働時間や始業・終業時刻を決めることができるという特質があります。しかし、週または月当たりの総労働時間は労働基準法第32条第1項に規定する「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」を免れることはできません。したがって、会社は週単位または月単位で法定労働時間を超えた労働に対しては、残業代を支払う義務があるのです。

  3. (3)固定残業代、みなし残業代

    あらかじめ基礎賃金に一定額の残業代を加味している給与形態ですが、これを理由に全く残業代を支払わない選択肢を取ることはできません。

    そもそも、固定残業代やみなし残業代とは、「労働時間の○時間まで」に限定した前払いの残業代という性質のものです。つまり、企業は、実際に残業をしていなくても事前に定めた固定残業代を支払う必要がありますし、定められた時間を超過した労働時間に対して企業は追加の残業代を支払う必要があるのです。

    固定残業代やみなし残業代は、セールスパーソンのように、実際の労働時間を特定することが難しい職種の労働者に対して適用されていることが多いようです。「必要な残業時間に相当する残業代はすでに支払われているのだから、その範囲で業務を遂行できなかった場合は労働者の自己責任であり、追加の残業代支払いはない」という考えをもつ経営者もいるようです。しかし、もし固定残業代分を超えて労働者が残業していたのにもかかわらず残業代が支払われていない場合は、会社の違法行為が疑われます。

    もし会社の就労規則や労働契約で固定残業代が適用される労働時間などが明記されていない、もしくは、固定残業代などを理由に長時間働いても残業代が支払われていない場合は、弁護士に相談したほうがよいかもしれません。

  4. (4)年俸制、歩合制

    年俸制や歩合制の賃金形態は、労働時間よりも成果に評価の機軸が置かれている専門職に多く適用されていることもあり、年俸制に残業代は無関係という誤った認識をもつ人がいるようです。

    しかし、先述した管理監督者やプロ野球選手のような個人事業主でもない限り、法定労働時間または労働契約を超えた残業時間に対して会社は残業代を当然に支払う義務を負います。これは歩合制の労働契約を結んでいる人も同様です。もし長時間労働にも関わらず残業代が一切支払われていなければ、固定残業代やみなし残業代と同様に就労規則や労働契約に記載されるべき残業代の取り扱いについて確認しましょう。>後編はこちら

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