【前編】ボーナスに残業代が含まれるのは違法? 未払いの残業代を請求する方法
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石川労働局が平成31年4月22日に発表した「労働基準法令違反にかかる公表事案」によると、違法な時間外労働を行わせたケースが2件掲載されています。金沢市内の事業所も含まれていて、いずれもすでに送検されているようです。
日本では古来より、でっち奉公や徒弟制度を代表する労働環境が根付いている地域が多々ありました。平成が終わった現代においても、いまだ残業代や最低賃金を労働者に支払うという認識が薄い業界が存在することは否定できません。
しかし、あまりにも多くの企業で残業代の未払いをめぐる問題が顕在化した昨今、残業代の未払いに対する世間や当局の監視の目は厳しくなりつつあります。しかしながら、残業代の支払いを抑えたいために、合法・違法を問わずさまざまな手法で支払額を減らそうとする企業も存在します。しかも、その手法は年々巧妙化する傾向にあるようです。その手法のひとつが、残業代をボーナスに含めて支払うというものです。
本コンテンツでは、残業代をボーナスに含めて支払うことの違法性とその根拠、そして企業から未払いになっていた適性な残業代を受け取る方法について、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、残業代を支払うことは企業の義務
労働基準法第32条によりますと、労働時間は原則として1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えてはならないと規定されています。これを「法定労働時間」といいます。
また、労働基準法第35条では企業に対して1週間に1日以上の休日を労働者に与えることを義務付けており、これを「法定休日」といいます。
さらには、労働基準法第37条で、企業が管理監督者をのぞく労働者に法定労働時間を越える残業や休日労働を課した場合は労働者に対して所定の割増賃金、すなわち残業代や休日手当てを支払うことが義務付けられています。
この規定に明らかに違反していると認められる企業または経営者あるいは両方には、労働基準法第119条の規定により「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。さらに、残業代不払いの行為が悪質と判断され、その企業が送検された場合は地域の労働局により「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として企業名や事案概要が公表されることになります。
このように、適正な残業代の支払いを受けることは労働者の権利です。それと同時に、残業代の支払いは使用者の義務なのです。
2、ボーナスの中に未払いの残業代が含まれるのは違法!
残業代をボーナスに含めて支払おうとする会社は、実際に存在するようです。その理由は、以下のようなものが考えられます。
- 業況が悪く、月ごとの残業代支払いに充てるキャッシュフローが確保できない。
- 労務関連の人手が足りず、給料計算が間に合わない。
- ボーナスの計算根拠と残業代の算定根拠を取り混ぜて曖昧にすることにより、残業代の支払額を減らす。
どのような理由があろうと、使用者が残業代をボーナスに含めて支払うということは明らかな違法行為です。なぜなら、労働基準法第24条において給料すなわち賃金は「毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められているためです。これは基本給だけでなく休日手当てや残業代に対しても適用されます。そして、これは月給制の社員だけではなく年俸制の社員に対しても同様に適用されます。
つまり、残業代や休日手当ては労働時間に応じた額を基本賃金に付加したうえで、労働基準法第24条の規定に従い定期的に支払われるべきものなのです。したがって、支給そのものについて労働基準法の適用がなく、使用者の裁量が大きいボーナスに含まれて支払われるべき性質のものではありません。
残業代をボーナスに含めて支払った場合、その残業代が発生した月の給与支給日の翌日からボーナス支給日までの遅延損害金が発生します。
なお、労働基準監督署に残業代の未払いを指摘された使用者が、未払い分相当額について直後のボーナスに付加した形で支払ったという事例は存在します。
3、残業を理由にボーナスを減らされるのは?
ボーナス(賞与)は、就業規則で具体的な額や算定方法が定められていないことも多く、そのような場合には、使用者が、当期の業績等を考慮して賞与額を決定したときに、賞与請求権が発生します。
しかし、賞与の額や算定方法が具体的に定まっていたり、一定額の賞与の支給が長年にわたって支給され続けているような場合は、一定額の賞与請求権や特定の算定方法に基づく賞与請求権が労働者に発生します。したがって、このような場合には、残業代相当額をボーナスから控除したり、残業したことを理由にボーナスを減額することはできません。
また、このような場合でなくとも、賞与から残業代を控除するということは、未払残業代の額によって、それぞれの労働者に対する賞与の額を変えるということであり、不合理な差別的取扱いであって、公序良俗に反するものと考えられます。
後編では、残業代の請求の方法について、堺オフィスの弁護士が解説します。
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