【後編】ボーナスに残業代が含まれるのは違法? 未払いの残業代を請求する方法

2021年03月24日
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【後編】ボーナスに残業代が含まれるのは違法? 未払いの残業代を請求する方法

前編では、ボーナスに残業代が含まれているケースは正当なのかどうかを中心に解説しました。

後半は、未払残業代を請求しても支払ってもらえないときの対処方法、相談できる場所について、金沢オフィスの弁護士が解説します。

4、残業代が正当に支払われない場合の対処方法

  1. (1)証拠を集める

    使用者に残業代を請求するためには、残業代が発生したことの客観的な証拠を事前に集めておかなくてはなりません。証拠は、使用者との交渉が決裂し裁判などで訴える段階で特に重要です。

    残業した事実と実際に残業した時間を証明する証拠は、以下のものが考えられます。

    • タイムカード
    • パソコンのログイン記録
    • 会社のパソコンから送信したEメール
    • 業務日誌や勤務シフト表

    これらの証拠から実際に残業した時間と本来支払われるべき残業代を計算し、実際に支払われていた残業代との差額を使用者に請求するのです。

    残業代が適正に支払われていないと気づいた段階で、証拠集めや勤務時間の記録は始めておくべきでしょう。

  2. (2)残業代を計算する

    上記で集めた物証をもとに、使用者からあなたに支払われるべき適正な残業代を「残業代チェッカー」で計算してみましょう。

  3. (3)使用者と交渉する

    使用者に対し残業代をボーナスに含めて支払うことの違法性を訴えるとともに、集めた証拠などを提示して使用者の人事担当者や経営陣に対して未払い残業代の支払いを請求します。

    多少なりとも法令遵守意識のある使用者であれば、昨今の風潮もありこの時点で残業代の支払いに応じる可能性はあります。しかし、法令遵守意識が希薄な使用者であれば、あの手この手で残業代の支払いを拒むことや、話し合いにすらまともに応じないこともありえます。

  4. (4)時効を中断する

    労働者が使用者に対して未払いの残業代を請求する権利は、給与支給日から2年で時効となり消滅します(ただし、民法の改正により2020年から5年に延長される可能性があります)。

    使用者との交渉が長期化した場合、請求した残業代がその間に時効となってしまうことが考えられます。したがって、事態の長期化が予想される場合は早めに時効を中断しておく必要があるでしょう。

    時効を中断するためには、まず使用者に対して残業代の支払いを求める書面を内容証明郵便で送付します(催告)。使用者に内容証明郵便が送達されてから6ヶ月以内に訴訟を提起すれば時効は中断します。つまり、使用者に内容証明を送付することで訴訟を提起しなくても6ヶ月間は時効の完成を延期することが可能なのです。

  5. (5)労働審判を申し立てる

    労働審判とは、残業代の支払いなど企業と労働者間のトラブルについて、労働審判員を含めた裁判所の仲介により解決を試みる方法です。基本的には使用者と労働者による話し合いなのですが、まとまりそうにない場合は裁判所による審判が下されます。

    審判は、これに対し使用者又は労働者が不服を申し立てれば失効となります。

  6. (6)訴訟を起こす

    労働審判が不調に終わったら、いよいよ訴訟を提起します(労働審判を申し立てず最初から訴訟提起をすることもできます)。訴訟は公開の手続で行われます。このため、多少なりとも世間体を重視する使用者であれば訴訟を起こす前に労働者に対して譲歩してくる可能性があります。

    また、訴訟では、労働基準法第119条の規定により未払い残業代と同額の付加金の支払を求めることができます。
    なお、訴訟となっても、判決ではなく、裁判所の和解勧告等に基づく訴訟上の和解による解決が図られることが多いです。

5、残業代を請求する際の相談先は?

残業代をボーナスに含めて支払うような使用者の行為等について相談する先としては、以下のようなものがあります。もちろん、どの相談先も相談者の個人情報や相談内容などを厳格に保護しています。

  1. (1)労働基準監督署

    労働基準監督署とは企業などの使用者が労働基準関係法令を遵守しているか監督する、厚生労働省の出先機関です。労働基準関係法令遵守に関する監督権限は強く、その職員である労働基準監督署長および労働基準監督官は司法警察官として労働基準関係法令の違反などが疑われる使用者について捜査を行う権限のほか、法令違反が認められ悪質と判断した使用者に対しては逮捕、送検、告訴などを行う権限を有します。

    残業代をボーナスに含めて支払うような行為に対しては、しかるべき対処が期待できるでしょう。

    ただし、使用者による残業代未払いがあったとしても、以下のケースでは基本的に事件として扱わず、積極的に動くことはあまり期待できません。

    • 使用者の客観的な法令違反が立証できない
    • 企業の法令違反行為に起因し労働者に被害が発生していない
    • 個人の未払い残業代請求

  2. (2)社労士会労働紛争解決センター

    社会保険労務士とは、士業の一種です。企業に対しての労務管理や社会保険に関するコンサルティングや、企業に代わって社会保険関連や労働関連などに関する書類などの作成等を行うことが認められています。

    社労士会労働紛争解決センターでは、賃金、解雇や出向・配属に関することなど労働契約について企業と労働者それぞれ個別に意見・主張を聞いたうえで和解案を提示する「あっせん」を行っています。

  3. (3)弁護士

    弁護士であれば、各種のアドバイスはもちろんのこと、あなたの代理人として使用者と交渉を行い解決に向け親身に動いてくれることが期待できます。まずは、お住まいや勤務先の近くで、未払い残業代をはじめとする労働問題を解決した実績が豊富な弁護士を探してみましょう。

    なお、労働問題は社会保険労務士も詳しいのですが、法的にあなたの代理人となる職権が認められているのは弁護士だけです。弁護士に依頼することによって、あなた自身が使用者と直接交渉する必要がなくなります。

6、まとめ

労働基準法などの労働関係法令や各種制度は、複雑かつ難解です。そのうえ、未払いの残業代は自身の(元)雇用先、つまり組織に対して行います。したがって、不十分な知識で残業代請求に挑んだとしても、多くの企業に法を熟知した弁護士がついています。対応を誤れば、正当な支払いを受けられなくなってしまう可能性があるでしょう。

企業に対して残業代請求を行うときは、ひとりで解決しようとせず、まずは労働問題を取り扱っているベリーベスト法律事務所 金沢事務所の弁護士まで相談してください。状況を適切に判断し、あなたが受け取るべき残業代を取り戻すために力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています