デマやフェイクニュースを流して逮捕されるケース|問われうる責任
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先の能登半島地震が発生後、TVや新聞をはじめとした各メディアだけでなく石川県知事からも、デマや誤った情報の拡散に注意を促していました。鮮明に覚えておられる方は少なくないでしょう。実際に誤った情報を投稿され、困惑された方もいたようです。
デマやフェイクニュースを流し、拡散されてしまうと、特に災害時は救助や支援の妨げとなります。通常時においても、業務や生活に支障が出てしまう可能性が高いものです。そのため、デマやフェイクニュースを流したり拡散した方は、法律によって罰せられてしまう可能性があります。
本コラムでは、どのような罪に問われるのか、さらにどのような責任を負うことになるのか、過剰に重すぎる罪を問われないようにするためにはどうすればよいのかについて、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、デマやフェイクニュースを流すと法律上どんな罪に問われるのか?
平成30年に台風21号が発生したときに流れたSNSのデマをきっかけに、台湾では悪質なフェイクニュース拡散を厳罰化するために法整備が進められました。一方、日本にはデマを規制する法律は今のところないものの、インターネットなどでデマを流すと、さまざまな刑法上の罪に問われる可能性が出てきます。さらに、分野によっては刑法以外の法律で罰せられることもあります。
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(1)信用毀損(きそん)罪
デマを流すことで問われる可能性がある罪のひとつが、信用毀損(きそん)罪です。ウソをついて人の経済的な側面での社会的評価を低下させるような場合がこれにあたります。たとえば、「パン屋○○のパンにはカビがはえている」などとインターネットに書き込む行為がこれにあたります。信用毀損(きそん)罪が成立すれば、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
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(2)偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪
信用毀損(きそん)罪とよく似たものに、偽計業務妨害罪や威力業務妨害罪があります。たとえば、偽計業務妨害罪はいたずらで品物を注文して取りに行かなかったりすると、これにあたります。
一方、威力業務妨害罪とは、威力を用いて他人の業務を妨害することです。たとえば、「明日○○駅に爆弾を仕掛ける」などとインターネットに書き込むような行為がこれにあたります。
偽計と威力の区別は判然とせず、他人の意思を制圧するような内容なら威力、それ以外は偽計、というような振分けがなされているようです。
偽計業務妨害罪も威力業務妨害罪も、実際に業務が妨害された結果が生じる必要はなく、業務妨害といえるような状態になれば足りるとされています。このいずれかが成立すれば、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。 -
(3)名誉毀損(きそん)罪
デマを流したために名誉毀損(きそん)罪で訴えられることも珍しくありません。名誉毀損(きそん)罪とは、真実かどうかにかかわらず、公の場で具体的な事実を摘示しながら他人の社会的評価をおとしめることです。
たとえば、「○○事件の犯人はこの女だ」と顔写真や個人情報をSNSにアップして拡散するような行為がこれにあたります。名誉毀損(きそん)罪に該当すれば、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処せられます。 -
(4)金融商品取引法違反
インターネット掲示板に株価をつり上げるためにデマを書き込み、株価が上昇してから売り抜けるなど、株価をわざと変動させるような情報を流すと、金融商品取引法違反となります。金融商品取引法違反には行政処分と刑事罰があり、行政処分のほうでは、課徴金の国庫納付命令が下されます。
また、刑事罰のほうでは10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処せられ、懲役と罰金が併科されることもあります。金融市場で不公正な取引を行うことで一部の人間が多額の利益を得る可能性があるので、抑止力をたかめるために非常に厳しい刑罰になっていると考えられています。
2、デマを流したことで民事上の責任も問われる
デマを流すことで、刑事責任だけでなく民事責任も生じます。刑事罰のみを科されることもありますし、刑事責任・民事責任の両方を問われることもあります。
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(1)損害賠償責任
デマを流したことでだれかを傷つけたり実害があった場合は、民法709条の不法行為にあたり、損害賠償責任が生じることがあります。また、デマを流した者が複数いるときは、共同不法行為責任が生じます。
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(2)不正競争防止法違反による差止め請求
法人で、自社の競合相手に関するデマを流した場合は、不正競争防止法違反となることがあります。損害賠償や謝罪広告など信用回復措置を要求されるほか、デマを削除するよう差止め請求される可能性があります。
3、デマで逮捕された事例
実際に、インターネットにデマを流した投稿者が逮捕された事件も過去にあります。ここでは、その事件について見てみましょう。
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(1)「ライオンが放たれた」とデマツイートをして逮捕
平成28年4月、熊本地震が発生した直後に「地震のせいで近所の動物園からライオンが放たれた」とTwitterにデマ情報を投稿した男が偽計業務妨害罪の疑いで逮捕されました。このツイートがされたあと、動物園に100件以上の問い合わせがあったといいます。この投稿は地震で不安になっている被災者をさらに混乱させるものでしたが、その後「面白半分でデマを流したが、反省もしている」とのことで、起訴猶予処分になっています。
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(2)「店が新型コロナ」と掲示板に書き込んで逮捕
令和2年4月10日、山形県米沢市の飲食店を名指しして「(店が)新型コロナ」と書き込んだ男を山形県警が投稿者を偽計業務妨害罪の疑いで逮捕しました。この男は、このお店のオーナーと認識がないにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染者がいるかのような虚偽の情報を流してお店の業務を妨害した疑いがもたれています。オーナーは書き込みがあったのちに米沢署に相談して被害届を出していたそうです。
4、デマを拡散しただけでも罪になる?
明らかにデマとわかる投稿でも、おもしろがって拡散し、それを見たユーザーが信じ込んでしまうこともありえるでしょう。しかし、リポスト(旧名称リツイート)などの機能はあくまで他人の書き込みを拡散しているのであり、自分が書いたわけではありません。果たして拡散しただけでも犯罪になるのでしょうか。
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(1)デマの拡散で成立しうる罪
デマやフェイクニュースを拡散すると、軽はずみな気持ちでしたことでも罪に問われかねません。上記の信用毀損、偽計業務妨害、威力業務妨害、名誉毀損(きそん)罪などにあたります。
また、拡散した画像が違法なものであったりすると、児童ポルノ禁止法違反やリベンジポルノ禁止法違反などに問われることもあります。 -
(2)東京地裁でリツイートの責任を問う判決
平成26年、東京地裁が判決文の中でリツイートした者の責任について明確に言及しました。この事件は、犯罪を羅列して他人の評価をおとしめるような投稿をリツイートしたことが、リツイートした者の不法行為にあたるかが争われたものです。
被告は、「リツイートした投稿は自分の発信したものではない」と主張します。しかし、裁判所は「リツイートも、ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言と同様に扱われる」とし、被告の主張を退けました。(東京地方裁判所平成26年12月24日判決) -
(3)あおり運転の「同乗の女」について拡散した市議が訴えられた事件
デマのリツイートをした政治家が訴えられた事件もあります。茨城県守谷市で起きたあおり運転の事件で、まったく無関係の女性がこの車に同乗していた女と間違えられ、SNSでデマを流される事案がありました。愛知県の市議もこの女性の名前や顔写真などの個人情報をSNSで拡散していたのです。
その女性は市議に対して名誉を毀損されたとして100万円の慰謝料を求める訴訟を起こしました。裁判所は和解勧試をしましたが、女性側が「先例となるような裁判所の判断がされることで、同種の事案を抑制したい」と主張して和解の受け入れを拒否しています。
これらの事例から、名誉毀損(きそん)などの犯罪が成立しうるデマの投稿を拡散すれば、その行為自体が不法行為として損害賠償請求されるおそれがあると言えるでしょう。
5、デマを流したり拡散したりして逮捕されたらどうなる?
人の不安につけこむようなデマを流したり、だれかの流したデマを拡散したりすれば、ちょっとした出来心であっても逮捕されることがあります。逮捕されたらどのように対処すればよいのでしょうか。
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(1)逮捕されてからの流れ
逮捕されてから裁判まで、以下のような流れで進みます。
①逮捕・取調べ
逮捕されたら警察署で取調べを受けます。
②送検・取調べ
検察庁に身柄を送られ、検察官による取調べを受けます。
逮捕による身柄拘束は最大72時間までですが、その間は、家族でも面会はできません。
③勾留の決定
逮捕後、引き続き捜査のために身柄を拘束する必要があると判断されれば、最大20日間勾留されます。
④起訴・不起訴の決定
捜査が終了したら、検察官が被疑者を起訴すべきかどうかを決定します。証拠が不十分なときや被疑者が初犯で十分反省しているときなどは、不起訴処分になることもあります。
⑤裁判(公判)
100万円以下の罰金刑が相当であると判断されれば、略式命令請求がなされます。略式命令が下った場合、正式な裁判は行われず、公開法廷に出頭させられることもありません。ただし、罰金刑に処せられても、前科となります。
正式裁判が相当であると判断された場合は、公開の法廷で、裁判官が、被告人が本当に罪を犯したと言えるか、あるいは刑罰の重さはどれくらいになるかを決めます。有罪となっても情状酌量の余地があれば執行猶予付き判決となることもあります。 -
(2)弁護士に相談する
逮捕されたら、直ちに弁護士に相談しましょう。初動が早ければ早いほど、早期釈放の可能性が高くなるからです。特に逮捕後72時間は家族でも被疑者には面会できませんが、弁護士であれば24時間365日いつでも面会できるので、取調べでの受け答えの仕方についてアドバイスすることができます。
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(3)被害者と示談する
被害者と早期に示談を成立させることで、起訴を免れる可能性があります。
たとえば弁護士に被害者とコンタクトを取ってもらい、誠心誠意謝罪して本人が書いた反省文などを渡してしっかり反省していることを伝えるのです。そうすれば、被害者が被害届を取り下げ、検察も「再犯のおそれはないうえに示談も成立している」として起訴しなくてよいと判断される可能性が高まります。 -
(4)再犯防止策を提示する
反省の意を示したうえで、会員制SNSの登録を削除する、インターネットからしばらく離れるなどのような再犯防止策を提示するのもよいでしょう。そうすれば、「2度としない」という意思が伝わり、示談もまとめやすくなると考えられます。
6、まとめ
軽はずみな気持ちでデマやフェイクニュースを流したり、リポスト(リツイート)などの拡散をするだけでも法律違反となり逮捕に至ることもありえます。インターネットで発信するときは流しても良い情報かどうか、拡散するときも真実かどうかを見極めることが非常に重要です。
それでもうっかりデマやフェイクニュースを流したり、そのデマ情報を拡散してしまったことによって警察から連絡がきた場合は、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスまでご相談ください。インターネット問題の経験豊富な弁護士が、重すぎる刑罰が科されないよう、解決へ向けたアドバイスやサポートを行います。
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