あおり運転で暴行罪が適用される? その根拠と逮捕後にできること

2018年12月11日
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あおり運転で暴行罪が適用される? その根拠と逮捕後にできること

石川県警察では、高速道路での悪質なあおり運転に対する取り締まりを強化するため、平成30年8月末から県警ヘリコプター「いぬわし」を導入しました。上空500メートルから監視を行い、あおり運転の取り締まりを強化しています。

警察庁は、平成30年1月16日、あおり運転に対して厳しい罰則を科すように全国の警察へと通達しました。もし、あおり運転を起因として死傷事故が起きれば、危険運転致死傷罪(妨害目的運転)として、罪に問われる可能性があるだけでなく、死傷事故に至らなくとも、刑法の暴行罪が適用されたり厳しい行政処分がされたりする可能性が高まっています。

まずはあおり運転の定義や罰則を知るとともに、あおり運転が暴行罪にあたるケースやその根拠、さらに逮捕されたときはどうすればよいのかなど、金沢オフィスの弁護士が解説します。

1、あおり運転とは

「後方の車両が急速に追い上げてきた」など、自分自身があおられたことがある経験がある一方、「急いでいた」、「前方車両が遅くていら立った」などの理由で、自分自身が意識せず、あおり運転のような運転をした経験がある方もいるかもしれません。

ここでは、「あおり運転」とはどのような行為なのかどのような犯罪に該当するのかを解説します。

  1. (1)あおり運転の定義

    あおり運転とは、一般的に、特定の自動車・バイク・自転車などに対して、幅寄せ行為をしたり、前を走る車に急接近したりするなどして、道路における交通の危険を生じさせる悪質・危険な運転行為のことを指します。

    「進路を譲るように促す」、「進路を譲らない」、「割り込みをされた」などの理由で嫌がらせをしたり、後方にピッタリとくっついてプレッシャーを与えたりする行為は、あおり運転に該当します。

  2. (2)「あおり運転」という違反はない?

    あおり運転が悪質で危険な行為であることは知られていますが、以前は「マナーが悪い」と評価されるだけで済まされる傾向がありました。ところが、平成29年に東名高速道路上であおり運転によるトラブルが原因で4名が死傷する大事故が発生したことを契機に「悪質なあおり運転を許すな!」という声が高まりました。

    この流れを受けて、警察庁は「あらゆる法令を駆使して、厳正な捜査を行うこと」という通達を全国警察に達し、あおり運転の取り締まり強化に乗り出しています。

    ここで注目したいのが「あらゆる法令を駆使」という言葉です。

    交通取り締まりの根拠となる道路交通法には「あおり運転」という違反条項は存在しません。そこで、警察は、あおり運転に伴い違反することになる法令を根拠として、あおり運転の取り締まりを行っています。

    具体的には、次のような行為は、あおり運転として道路交通法の処罰対象となっています。

    ●車間距離不保持違反
    前方車両との車間距離を著しく狭めることで、進路を譲るよう促したり、プレッシャーを与えたりする

    ●急ブレーキ禁止違反
    危険回避の目的ではなく、後方車両を停止させようとする、後方車両を危険な目に遭わせるなどの目的で急ブレーキをかける

    ●進路変更禁止違反
    周囲の車両の走行を妨害する目的で、周囲の車両が急ハンドル・急ブレーキで回避する必要があるような車線変更を行う

    ●追い越し方法違反
    前方車両の左側から追い越しをする

    ●安全運転義務違反
    側方の車両に接近して幅寄せをする

    ●減光等義務違反
    前方車両の目をくらませる・進路を譲るようアピールする目的で、ハイビームのままで走行したり、パッシングを繰り返したりする

    ●警音器使用制限違反
    危険回避の目的ではなく、周囲の車両を威圧するなどの目的でクラクションを鳴らし続ける

    なお、これらの交通違反は、必ずしもあおり運転となるわけではなく、たとえば、スピード調節が不適切で車間距離が詰まってしまったとしても直ちにあおり運転になるわけではないと考えられます。

    これらの交通違反があおり運転にあたるか否かは、状況によって異なるため、ドライブレコーダーや、携帯電話の動画、被害車両や周囲を走行していた目撃者となるドライバーの供述などから、総合的に判断されることになります。

    令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
    >あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説

2、あおり運転は「暴行罪」になる?

警察庁が「あらゆる法令を駆使して」と通達したその最たる例として挙げられるのが「暴行罪」の適用です。

暴行罪は、刑法第208条において「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立する犯罪です。殴る・蹴るなどの暴力行為はもちろん、「脅す目的で相手にぶつからないように石を投げる」など、身体に接触していない行為でも該当しえます。

暴行罪で有罪判決が下された場合、「2年以下の懲役」もしくは「30万円以下の罰金」、または「拘留」もしくは「科料」という刑罰が科せられます。

悪質なあおり運転を厳しく規制するには、道路交通法による罰則だけでは軽微であるため、より罰則が重い刑法も積極的に活用していこうという動きがあるとも考えられます。ただし、あおり運転によって暴行罪が成立するという考え方は、特に目新しいものではありません。すでに昭和49年や50年には、や東京地方裁判所や東京高等裁判所で、あおり運転が「不法な有形力の行使」であるとして、暴行罪の成立を認める判決が出ています。

また、たとえ刑法犯として罪が裁かれなかったとしても、免許停止、もしくは免許取り消し処分を受ける可能性もあります。道路交通法第103条第1項第8号にもとづき、「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある」と判断した者を「危険性帯有者」として、点数制度における処分に至らないケースでも、最長180日間の運転免許停止処分が行えることになっているためです。

3、あおり運転を立証する証拠

現在、あおり運転を立証するために有効活用されているのが「ドライブレコーダー」です。

これまでは、ドライバー同士の供述や周囲の目撃者の供述を照らし合わせ、周囲の店舗の防犯カメラを確認するなどの捜査手法しかありませんでした。この方法では、あおり運転の犯人側が「そんな運転をしていない」「見間違いではないのか?」と反論することで、事実が判然としないまま、罪を裁けずに終わってしまうケースが多々あったのです。

しかし、ドライブレコーダーが広く普及したことで、実際のあおり運転の状況が映像という形で克明に記録されるようになりました。ときには、あおり運転を目撃した者が正義感からか、警察へ通報するのではなくSNSなどへ、あおり運転が行われている映像を拡散することもあります。1度インターネットで拡散されてしまうと、完全に削除することは非常に難しく、今後の生活にも多大な影響を与える可能性は否定できないでしょう。

ドライブレコーダーは、ドライバーにとっては事故が発生したときの状況を記録することができる有益な道具です。一方で、あおり運転を繰り返していたドライバーにとっては、犯罪の動かぬ証拠が克明に記録されるだけでなく、自らがより大きなダメージを受ける可能性がある物にもなっています。

4、あおり運転が事故に発展して逮捕された場合の流れ

もし警察官があおり運転を現認していれば、たとえ事故にならなくとも、その場で道路交通法違反として取り締まりを受けるか、現行犯逮捕されることになります。警察官が現認していなければ、被害者による被害届の提出や目撃者による通報によって事件が明るみに出て、後日の捜査によって逮捕される可能性もあるでしょう。

あおり運転が原因で逮捕された場合は、次のような流れで刑事手続きを受けることになります。

●逮捕……警察に逮捕されると、取り調べなどのため48時間以内の身柄拘束を受けます。

●送検……逮捕から48時間以内に、被疑者の身柄は検察庁に送致されます。

●勾留……送検から24時間以内に処分が決定しない場合、検察官はさらに捜査を進めるために身柄拘束を続ける「勾留請求」を行います。裁判所がこれを認めると、原則10日間、さらに延長請求があれば最長で20日間の身柄拘束が続きます。

●起訴……検察官が被疑者の刑事責任を問うべきと判断した場合、検察官は裁判所に起訴します。

●裁判……起訴されて裁判になった後は、判決まで勾留されることもあれば、保釈請求が認められて釈放されたりすることもあります。

もしあおり運転が暴行行為と認められたときは、刑事裁判の判決によって刑罰が科せられることがあります。車間距離保持義務違反などで取り締まりを受けて反則金を支払うことがあっても、それだけでは前科がつくことはありません。しかし、刑法犯の暴行罪として有罪となり罰金を支払うことになれば、前科がつくことになります。

5、まとめ

あおり運転が「単なるマナー違反」として嫌悪されるだけにすぎなかった時代は終わりつつあるかもしれません。今後は、全国であおり運転の摘発がさらに積極的に行われるでしょう。

もし自身のあおり運転が原因で交通事故を起こしてしまったときは、刑罰・行政罰ともに厳しい処分を受ける可能性が高まります。特に、刑法犯の暴行の疑いで逮捕されたときは、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

被害者との速やかな示談交渉によって、逮捕を防ぎ、長期にわたる身柄の拘束や起訴を回避できる可能性が高まります。

もし、あおり運転によって逮捕されてしまう可能性があるなど、不安を抱えているときは、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスに相談してください。交通事故や刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が、早期解決に向けて適切な弁護活動を行います。まずはできるだけ早いタイミングでお問い合わせください。

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