警察官に暴行!? 公務執行妨害罪で逮捕された場合の対処法を金沢の弁護士が解説
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平成28年6月、金沢市内の路上で酒に酔った男が同僚とトラブルになり、これを制止するために現場に臨場した警察官を平手でたたく暴行を加えたため、公務執行妨害罪で現行犯逮捕された事件がありました。男は傷害罪などの罪で略式起訴され、罰金40万円の支払いを命じられています。
酒に酔った勢いなど、興奮が収まらず警察官ともトラブルになって暴行を加えてしまい、公務執行妨害罪で逮捕されてしまうことがあります。もし、あなたの家族や知人が公務執行妨害罪の容疑で逮捕されてしまった場合は、どのような対応を取るとベストなのか、ご存じでしょうか。
ここでは、公務執行妨害罪の定義や罰則、逮捕された場合の対処法などを、金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、公務執行妨害罪の定義
公務執行妨害といえば、テレビなどで放送される警察ドキュメンタリー番組や刑事ドラマなどではおなじみの展開かもしれません。しかし、公務執行妨害罪とはどのような犯罪なのか、具体的にご存じでしょうか?
まずは公務執行妨害罪について知っておきましょう。
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(1)公務執行妨害罪の法的根拠
公務執行妨害罪は、刑法第95条1項に規定された犯罪です。条文では「公務員が職務を執行するにあたり、これに対して暴行または脅迫を加えた者」を罰することを示しています。
つまり、休憩中や休暇中の公務員個人に対して暴行または脅迫を加えたとしても、「公務執行妨害」には該当しないということです。ただし、暴行や脅迫を受けた者に対する暴行罪や脅迫罪は成立します。 -
(2)公務執行妨害罪で保護されるのは「公務」
公務員だけ守られていると感じる方もいるかもしれませんが、公務執行妨害罪が保護しているのは公務員個人の身体や精神ではなく、公務員が行う公務の円滑な執行です。
なお、公務中の公務員に対し、暴行または脅迫を用いた結果、公務の執行を妨害できたときはもちろん、妨害できなくても一般に妨害するに足りる程度のものであれば、公務執行妨害罪が成立します。たとえば、路上駐車禁止エリアに駐車していた車を取り締まろうとした警察官に暴行を加えたにもかかわらず、駐車禁止違反として取り締まりを受けてしまったとしても、公務執行妨害罪は成立するということです。 -
(3)公務執行妨害罪の罰則
公務執行妨害罪の罰則は、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金です。
「懲役(ちょうえき)」は、刑務所での労務作業が科される刑罰で、「禁錮(きんこ)」とは刑務所に収監されますが労務作業に従事しない刑罰です。いずれも自由な行動などが制限される「自由刑」に該当します。罰金は、いうまでもなくお金を支払う財産刑となります。
2、公務執行妨害罪の具体例
公務執行妨害罪は、職務中の「公務員」に対して「暴行・脅迫」を加えた場合に成立します。
具体的には、どのような対象に、どのような行為をすることが公務執行妨害罪にあたるのかについて、改めて知っておきましょう。
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(1)公務執行妨害罪が成立する対象
公務執行妨害罪の対象となるのは、職務中の公務員です。「公務員」とは、一般的に、国・市区町村の職員を指します。
- 警察官
- 消防官
- 自衛官
- 裁判官
- 市区町村役場の職員
- 税務職員
- 公立学校の教職員
- 国や市区町村の議員
これらのほか、広く公務にあたる職員が対象となります。また、特別法において「法令により公務に従事する職員とみなす」などと規定された「みなし公務員」も、ここでいう公務員に該当します。たとえば、駐車監視員(道路交通法第51条の12第7項)、日本郵便株式会社の従業員(郵便法第74条)、日本銀行の役職員(日本銀行法第30条)、国立大学法人の役職員(国立大学法人法第19条)、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の役職員(東京オリンピック・パラリンピック特別措置法第28条)等です。
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(2)公務執行妨害罪にあたる具体的なケース
冒頭の事件のように、トラブル対応のために駆けつけた警察官に暴行を加える行為は、当然公務執行妨害罪にあたります。そのほかの公務執行妨害罪にあたる可能性がある具体的な行為は以下のとおりです。
●警察官の胸ぐらをつかむ
「暴行」とは殴る、蹴るなどのような暴力行為だけでなく、胸ぐらをつかむ、石を投げるなどの行為も該当します。
●現場に駐車していたパトカーのドアを蹴る
トラブルの現場で抵抗や抗議のためにパトカーを蹴るなどの行為は、公務執行妨害罪に該当します。ただし、警察署や交番に駐車していて職務に使用されていない状態であれば公務執行妨害罪は成立しません。
●飲酒検知管を破損させる
飲酒検知が行われているときに、警察官から検知管を奪い破損させる行為は、飲酒検知を行うという公務を妨害しているため、公務執行妨害罪が成立します。
●立ち入り調査に訪れた市区町村職員を押し返す
強制力のない調査だったとしても、法令に基づいた公務に従事している市区町村職員の調査に「押し返す」という有形力で抵抗することは公務執行妨害罪に該当する可能性があります。
3、公務執行妨害罪と他の犯罪の関係
冒頭の事件では、警察官に暴行を加えて公務執行妨害罪で逮捕されましたが、傷害罪で略式起訴されて罰金刑を受けたと報道されています。なぜ逮捕罪名と起訴罪名が異なるのか、疑問に感じた方もいるでしょう。
公務執行妨害罪は、1度の行為で複数の犯罪行為が該当する可能性が高い犯罪です。たとえば、「公務を執行中の警察官に暴行を加えた」という行為は、公務執行妨害罪とともに、警察官個人に対する暴行罪も成立します。暴行を加えた結果、警察官個人がケガをしていれば傷害罪に問われることになりますし、死傷すれば殺人罪に問われることもあるでしょう。パトカーを蹴って傷をつけていれば、器物損壊罪も成立する可能性があるということです。
このように、公務執行妨害罪は2つ以上の行為によって複数の犯罪に該当するケースを「観念的競合」と呼ばれています。観念的競合に該当する事件では、起訴後刑罰を決める際は、より罰則が重い法令が適用されることになります。
つまり、警察官に暴行を加えても傷害の結果が発生しなかった場合は、暴行罪は公務執行妨害罪に吸収されるため、公務執行妨害罪が適用されます。反対に、暴行によって警察官が負傷したケースでは、より罪が重い傷害罪が適用されます。
冒頭の事例でも、そのような適用になった可能性があります。
4、公務執行妨害事件で逮捕された場合の流れ
公務執行妨害事件では、まさに公務員の職務を妨害する行為が発生しているため、現行犯逮捕されるケースが多い傾向があります。
公務執行妨害罪に限らず、刑事事件で逮捕されると、一般的には刑事訴訟法に基づき、次のような流れで刑事手続きを受けることになります。
- 逮捕(警察による最大48時間の身柄拘束)
- 送致(検察官への身柄引き渡し、および勾留の実施を決定するまでの最大24時間の身柄拘束)
- 勾留(裁判所が認めた場合実施。原則10日間、最大20日間の身柄拘束)
- 起訴(検察官による刑事裁判の提起)
- 被告人勾留(公判請求がなされたときのみ実施。刑事裁判によって判決が下されるまでの身柄拘束)
- 刑事裁判(通常、1ヶ月に1回程度の開廷)
- 判決(刑罰の決定)
5、公務執行妨害事件で弁護士を選任するメリット
公務執行妨害事件の特徴として挙げられるのが「示談ができない」という点です。公務執行妨害罪の被害者は、暴行・脅迫の対象となった公務員個人ではなく、「国」や「地方自治体」になります。被害者が個人でも企業でもないため、示談ができません。
このように聞くと「弁護士を選任する必要がないのでは?」と感じるかもしれません。しかし、示談ができない公務執行妨害事件でも、弁護士を選任するメリットは十分にあります。
まず、突然逮捕されてしまい家族であっても面会できない状況の中でも、弁護士であれば自由に接見ができるという点です。
また、逮捕の状況や無事であることの連絡・確認ができるほか、本人に警察の取り調べに臨むためのアドバイスを行うことができます。また、本人に反省を促すこともできるでしょう。
さらに、長期の身柄拘束は必要ないことを捜査機関に訴えることで、早期釈放の可能性も高まります。本人の日頃の誠実な生活状況などを意見書にまとめて検察官に提出するなどの弁護活動を通じて、刑罰が軽減される可能性を高めます。
「示談ができないからムダだ」と判断せず、家族や知人が公務執行妨害事件で逮捕された場合は弁護士に相談だけでもしておいたほうがいいでしょう。
6、まとめ
公務執行妨害罪は、別のトラブルのために興奮していたなど、非常に短絡的で一時的な感情から起こしてしまうこともありえる犯罪です。実際に公務を妨害した現場で現行犯逮捕されることが多いことから、逮捕に備えた防御策を講じておくこともできません。
もし、家族や知人が公務執行妨害罪で逮捕されてしまった場合は、速やかに弁護士に相談しどのような方策を採るべきかなど検討をした方がよいでしょう。
あなたの家族が公務執行妨害容疑で逮捕されたなど、事件に巻き込まれてしまったときは、いち早くベリーベスト法律事務所・金沢オフィスまで連絡してください。刑事事件の対応実績が豊富な弁護士が、強力なサポートを行います。
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