破産前に財産を処分しても大丈夫? 持ち家を家族に譲るのは問題ない?
- 自己破産
- 破産前の財産処分
情緒ある街並みが残り、町家が多く残る金沢市。先祖代々、家を受け継いできた方も多いでしょう。
ですが自己破産をする場合、現金化できるような財産は原則として手放さなければいけません。歴史ある家屋も例外ではありません。
「どうにか家は守りたい」との思いから、破産前に親族に譲り、自分の財産から外す方法を考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、それは危険です。
破産前に財産を処分する行為は、罪に問われることもあるのです。
では具体的にどんなケースがダメなのでしょうか。金沢オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、自己破産とは?
「長年返済を続けたが、もう限界」「とても返済しきれる額ではない」という場合、借金解決のために自己破産が利用されることがよくあります。ではそもそもどんな方法なのでしょうか。
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(1)裁判所に申し立てて借金をゼロにできる
自己破産とは、借金の返済の見込みがない場合に、裁判所に申請して借金の支払いを免除してもらう手続きです。
裁判所が借金を返済しなくてよしとする「免責」を許可すれば、その後の支払いを免れることができます。
ただし自己破産で免責を求めることできるのは、次の条件に当てはまる方のみです。- 収入や資産がなく、完済の見込みがない「支払い不能」状態
- 破産申し立てから過去7年以内に免責等を受けていない
借金の金額は関係なく、少額であっても上記の条件を満たせば申し立てできます。
また自己破産には、大きく分けて次の2種類があります。- 同時廃止
- 管財事件
同時廃止とは、債権者に分配できるような財産がそもそもなく、免責不許可になる事由もない場合に、破産手続き開始と同時に破産手続きが終わるケースです。
管財事件とは、ある程度の財産があったり、免責不許可の可能性があったりする場合に、破産管財人が財産を調査・売却するなどして、債権者に分配するケースです。
どちらに該当するかは、債務者の財産の状況等によって判断します。 -
(2)自己破産のメリット・デメリット
自己破産の一番のメリットは、免責が認められれば借金を返済しなくてよくなることです。
返済に苦しんでいた方は一気に借金から解放され、新しい生活を始めることができます。
当然取り立てもやみます。
一方で次のようなデメリットもあります。- 財産を処分しなければいけない
- 職業によっては就業が制限される
- クレジットカードが利用できなくなる
- 借入ができなくなる
これらのデメリットにより、生活に不便を感じることもあるかもしれません。
ですがたとえば財産を処分するといっても生活に必要なものは残すことができますし、カードやローンの制限も一生ではありませんので、安心してください。
2、破産手続き開始決定前の財産処分行為とは
自己破産では一部を除いてすべての財産を処分しなければなりません。そこで「破産が決まる前なら大丈夫だろう」と財産を換金したり、親族に譲ったりしてしまう方がいますが、おすすめできません。
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(1)決定後は勝手に処分できない
自己破産では、破産手続き開始決定時に債務者が保有していた財産は、一部を除いて債務者の手を離れます。
それらは全て破産管財人が管理し、不動産などは売却・現金化して債権者に分配します。
債務者が勝手に売ったり使ったりすることはできません。 -
(2)決定前の処分
破産管財人の管理対象となるのは、あくまで破産手続開始決定時に保有していた財産です。
つまり破産開始前に処分したものは破産管財人の管理対象外です。
不動産などの財産は適正価格で売却できれば、財産が減ったことにはなりません。場合によっては破産後に売るよりも高く売れることもあるかもしれません。
その場合、債権者にとっても不都合はありません。
売却により得られたお金は弁護士費用など、破産に必要な費用として使うことができます。 -
(3)債権者に不利益となれば管財人が「否認権行使」
破産前の財産処分は、それ自体が禁じられているわけではありません。
しかし中には「他人に処分されるくらいなら…」と財産を安く売り払ったり、売却代金をギャンブルに使ったりする悪質なケースもあります。
そうなると債権者に分配されるはずだった財産が減ってしまい、債権者は大きな不利益を被ります。
そこで破産管財人には、その財産処分を帳消しにする権限が付与されています。
これを破産管財人の「否認権」といいます。
否認権を行使できるのは主に次のようなケースです。- 詐害行為
- 偏頗(へんぱ)行為
詐害行為とは、債権者に不利益になると知りながら、財産を安値で売却したり譲渡したりして、財産を減らす行為です。
偏頗(へんぱ)行為とは、債権者のうち一部に優先的に借金を返済する行為です。
否認権が行使された場合、その財産処分はなかったことになり、財産は売却・分配の対象として扱われます。 -
(4)詐欺破産罪にあたる可能性も
自己破産をするとほとんどの財産を手放さなければいけないため、財産をこっそり隠したり壊したりする不正行為が後を絶ちません。
そこで破産法は第265条で「詐欺破産罪」を規定し、債権者を害する次のような行為を禁じています。- 財産隠し、財産の損壊
- 財産の譲渡や新たな借金の仮装
- 財産を傷つけるなどして価値を損なう
- 債権者に不利益になるような財産処分や新たな借金
「財産を隠す」「わざと借金を増やす」「価値ある財産を壊す」「安値で売り払う」などの行為は、債権者に対する嫌がらせのようなものです。
意図して行った場合には、詐欺破産罪に問われる可能性があります。破産手続き開始決定の前後どちらの行為であっても対象です。
詐欺破産罪の刑罰は「10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方」で、非常に重いといえます。
ただし対象となるのはあくまで意図して行った場合のみです。
不注意で高価な壺を割ってしまった場合などは詐欺破産罪にはあたりません。 -
(5)免責が受けられなくなる
詐欺破産罪に該当する行為をすると、まず免責は受けられません。
裁判所は自己破産の申し立てすべてに免責を認めるわけではありません。
「免責不許可事由」に該当する場合には、免責不許可と判断します。
財産隠しや財産を壊すなどの行為は、この不許可事由の代表的なものです。
「どうしても現金が必要だった」「処分されたくなかった」と言っても、それで免責が認められなければ借金から解放される機会自体を失ってしまうのです。
3、自己破産以外の債務整理
どうしても手放したくない財産がある場合には、自己破産以外の債務整理を考えましょう。「借金ゼロ」は魅力に思えるかもしれませんが、ご自分に合った方法を選択することが一番です。
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(1)任意整理
任意整理とは、裁判所を使わずに貸金業者など債権者との話し合いにより借金を減額し、残額を返済していく方法です。
借金はゼロにはなりませんが、利息カットなどにより月々の返済額を減らすことができるため、その後の返済が楽になります。
また自己破産と違って財産を処分する必要がなく、任意整理をする業者も選べます。
ただし利用には債権者の承諾が必要です。
貸金業者と直接交渉しなければいけないという点は、負担といえます。 -
(2)個人再生
個人再生とは、裁判所に申し立てをして債務を大幅に減額してもらったうえで、残りを原則3年で返済していく方法です。
債務は最大で9割減額できるため、負担を大きく減らすことができます。
また自己破産と違い、条件を満たせば住宅ローンの残っている家でも処分せずに済むという点は、大きなメリットです。
ただし個人再生を利用できるのは、返済を続けていけるだけの定期的な収入があり、債務総額が5000万円を超えない方のみです。 -
(3)借金問題を弁護士に相談するメリット
借金問題の解決方法には、自己破産以外にも任意整理や個人再生など、いくつかの手段があります。
それぞれ利用条件や向き不向きがあるため、ご自分に合った方法を選択することが大事です。
「借金から解放されたい」という思いだけで自己破産を選んでしまうと、さまざまな制約に直面し、破産後の生活がつらいものになってしまうかもしれません。
まして破産前に財産を処分してしまい詐欺破産罪に問われてしまっては、破産どころではありません。
そうならないためにも、借金問題の解決はまず弁護士に相談してみましょう。
裁判所への申し立てなどの手続きの代行や、貸金業者とのやりとりなども行ってくれるため、精神的な負担も減らすことができます。
4、まとめ
自己破産は借金をゼロにする強力な手段ですが、その分さまざまな制約があります。
財産を手放したくないという思いは、多くの方が持っていることでしょう。ですがその思いだけで財産を隠したり安く売ったりしてしまうと債権者を害することになり、ご自分も罪に問われる可能性があります。
何をすべきか、何をしてはいけないのか、個人で判断するのは難しいものです。ベリーベスト法律事務所金沢オフィスの弁護士がサポートいたしますので、お困りの際はどうぞご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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