夫は妻の借金も返済しなくちゃいけない!? 離婚するならどうすべきか

2019年12月10日
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夫は妻の借金も返済しなくちゃいけない!? 離婚するならどうすべきか

石川県における平成30年の離婚件数は1469件であり、人口1000人あたりの離婚率は約1.30でした。全国の離婚率は1.68ですから、石川県の離婚率は比較的低いといえます。

離婚の理由は夫婦によってさまざまです。そのなかには、妻による借金も見受けられます。妻の隠れた借金が見つかった場合、自分も返済しなければならないのでしょうか。借金を理由に離婚することを希望した場合でも、裁判で認められるのでしょうか。また、離婚しないことを選択したときに借金を整理するために、よい方法はあるのでしょうか。

このようなお悩みについて、ベリーベスト法律事務所・金沢オフィスの弁護士が解説していきます。

1、借金の返済者について

家族だから、夫婦だからという理由で妻が作った借金を夫に払わせようとする貸金業者もいるようです。しかし、妻の作った借金についてあなたが保証人などになっているわけでもない限り、あなたに返済する義務は法的にありません。

そもそも、借金とは債権者と債務者との「金銭消費貸借契約」のもとに成り立つものです。あなたが金銭消費貸借契約や保証契約の当事者、あるいは連帯債務者でもない限りは、債務者の夫であることを理由に妻に代わって債権者へ返済する義務などありません。

2、保証人になっていたら?

  1. (1)保証人とは?

    保証人とは、主たる債務者が借金の返済など債務の履行を果たせない場合に、主たる債務者に代わって債務の履行を行う義務を負う人のことです。保証人が負う債務のことを保証債務といい、保証債務は債権者と保証人で締結する保証契約によって成立します。なお、保証契約は書面または電磁的記録により締結されなければ、その効力を生じません。

    保証債務は、主たる債務の元本返済だけではなく利息、違約金、損害賠償など、主たる債務に関するすべてのものを含みます。したがって、保証人は元本返済はもちろんのこと、利息や遅延損害金についても支払う義務を負うのです。ただし、保証人の負担が主たる債務より重いときは、その負担は主たる債務と同等まで縮小されます。そもそも、保証人が主たる債務者よりも重い責任を負うことはないのです。

  2. (2)保証人が持つ権利とは?

    保証人だからといって、主たる債務者から一方的に借金の返済を押し付けられないように、保証人には「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「求償権」が認められています。

    催告の抗弁権とは、保証人に対して債権者が借金の弁済を要求してきたとき、「まずは主たる債務者に返済するよう要求してください」と主張する権利です。また、主たる債務者に借金を返済する資力と回収が容易であることを証明した場合、債権者はまず主たる債務者の財産について執行しなければならないとする「検索の抗弁権」があります。

    さらに、主たる債務者から「私に代わって借金を返済してください」という委託を受けて保証し、返済した場合、保証人は主たる債務者に対して弁済した額を請求する求償権が認められています。

3、連帯保証人になっていたら?

連帯保証とは、連帯保証人が主たる債務者と連帯して保証した債務を負担することです。先述した保証契約と比較すると、連帯保証契約は保証人に対する責任がかなり重くなります。

一例をあげると、連帯保証人には催告の抗弁権および検索の抗弁権がありません。さらに、複数の人が保証人になっている場合、保証契約であれば各保証人は保証人の数で平等に分割した保証債務を負担すればよい(分別の利益)のですが、連帯保証契約の場合は分別の利益がありません。

たとえば、300万円の債務に対して2人の連帯保証人がいた場合、主たる債務者と同様に保証人それぞれが300万円全額について保証債務を負担することになるのです。

4、借金を理由に離婚はできる?

結婚がそうであるように、離婚することはその理由に関係なく夫婦間の合意さえあれば自由にできます。つまり、あなたが妻の借金を理由に離婚を切り出し、夫婦間の協議、あるいは離婚調停における話し合いを経て相手方が離婚に応じれば、あとは役所に離婚届を提出するだけで離婚が成立します。

だからこそ、相手方が離婚の求めに応じない場合は、離婚することそのものが難しくなってしまうというわけです。それでも、相手方に結婚生活そのものを維持することすら不可能にしてしまうような非があるにもかかわらず離婚ができないとは、あまりにも理不尽です。

そこで、民法第770条では裁判によって相手方に対して一方的に離婚の訴えを求めることができる5つの離婚事由を定めています。5つの離婚事由のうち、妻の借金が該当する可能性があるのは「悪意の遺棄」と「その他婚姻を継続し難い重大な事由」です。

  1. (1)悪意の遺棄

    悪意の遺棄とは、民法第752条に定められた夫婦の義務である「協力義務」および「扶助義務」等に違反しているケースが該当します。具体的には、理由もなく頻繁に家出を繰り返したり同居を拒否したり、専業主婦であるにもかかわらず家事を一切せずに浪費して、家計を圧迫するほどの借金を繰り返すなどの状態が「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。

    悪意の遺棄と認められれば、裁判においても離婚の訴えが認められる可能性が高くなります。

  2. (2)その他婚姻を継続し難い重大な事由

    「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、民法第770条に定めた他の離婚事由と同等以上の重大な事由であることが要件と考えられています。そのため、一般的に、妻の借金がただちに「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとは、考えにくいでしょう。

    ただし、たとえば、あなたが妻に借金を注意すると暴力を振るわれる、モラハラ被害を受けているなどのケースであれば、妻の借金が原因で夫婦関係が修復不可能なまでに完全に破綻していると裁判所が判断する可能性はあるでしょう。

5、離婚の条件はどうなる?

  1. (1)親権

    民法第819条では、夫婦が離婚すると父母のどちらか一方しか子どもの親権者になることができない旨定めています。また、子どもの親権者を確定させないと離婚することができません。

    離婚に際して、親権はもっとももめやすいものですが、親権者の決定に、離婚原因はあまり考慮されないのが実情です。したがって妻の借金が原因で離婚する場合でも、親権者の決定にはほとんど影響が出ないと考えられます。

    ただし、裁判所が親権者を決定するうえでもっとも重視するポイントは、「子どもの幸福にとって父母のうちどちらが親権者としてふさわしいのか」ということです。したがって、子どもの養育よりも異性関係やギャンブルなど借金の原因に時間とお金の浪費を優先させていると認められる場合は、父親が親権者として認められる可能性があります。

  2. (2)養育費

    養育費とは、離婚後子どもを監護していない親が負担する、子どもが大人として自立できるようになるまで必要なお金のことです。もし、妻が親権者となった場合はあなたが支払うことになります。

    注意していただきたい点は、もしあなたが妻の借金を肩代わりし、それに対して求償権を行使したとしても、それとあなたが支払う養育費とを相殺することはできないということです。

    養育費は子どもが親から「扶養を受ける権利」という性質を有しており、民法第881条の規定に基づき処分することができません。また、養育費は民事執行法第152条第1項1号により差押が禁止されており、このような差押禁止債権は民法第510条の規定により債務者つまり養育費を支払う側からの相殺が禁止されています。

    したがって、妻に対する求償権行使と、あなたが支払う養育費は、別個のものとして互いに履行する必要があるのです。

  3. (3)財産分与

    財産分与とは、結婚後から夫婦で形成・維持してきた財産については名義に関係なく夫婦の「共有財産」として、これまでの貢献度などに応じて離婚時に夫婦で分配することです。分割割合については離婚時の話し合いなどで決めることになりますが、「2分の1ずつ」がひとつの基準となっています。

6、離婚しない借金の解決方法として「債務整理」も検討

たとえ借金の原因が妻にあったとしても、離婚せず婚姻関係を継続することも選択肢のひとつです。ただし、借金の額があなたでも解決不能なものであれば、債務整理を検討する必要が出てきます。

債務整理には、自己破産、個人再生、任意整理などいくつかの方法があります。なかでも任意整理による債務整理が可能であれば、自己破産、個人再生と異なり、任意整理の手続きには裁判所は一切介在しません。内容次第では、もし妻あるいは夫婦名義の自宅不動産に住宅ローンが残っていた場合でも、処分せずにすみます。また、自宅不動産に限らず財産が差し押さえられることもありません。このようなメリットから、任意整理を選ぶ人は多いようです。

任意整理は、債務者個人でも行うことが可能です。しかし、任意整理では債権者と直接交渉をする必要があります。そのため、弁護士のように知見と経験に裏付けられた交渉力を持つ専門家を代理人とすることが一般的です。

7、まとめ

離婚についても、債務整理についても、弁護士のような専門家から法的なアドバイスを得ておくことは非常に有益です。また、弁護士にはあなたの代理人としての役割を依頼することもできます。

問題が大きくなる前に、ぜひ離婚および債務整理のご相談に対応可能なベリーベスト法律事務所・金沢オフィスの弁護士へお気軽にご相談ください。あなたにとってよい結果となるよう、ベストを尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています