サービス業の方が未払いの残業代を計算する時に知っておきたいことを金沢オフィスの弁護士が解説

2018年08月13日
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サービス業の方が未払いの残業代を計算する時に知っておきたいことを金沢オフィスの弁護士が解説

海と山が近く恵まれた自然と伝統文化が息づく街、金沢。そんな金沢で生活する人々の身近にあるのが、美容室やアパレル、スーパーなどのサービス業ですが、サービス業は変則的なシフト制で働く多くの人々によって支えられています。
ここでは、サービス業のように変則的なシフト制で働く場合、残業時間をどのように計算して残業代を請求すればよいのかについて、みていきましょう。

1、一般的な残業代の計算方法

  1. (1)残業代の計算式

    時間外労働の対価である残業代は、その会社が採用している労働時間制度等によって支払われ方が異なるものの、月給制の場合、大まかに次の式で求めることができます。


    • 残業代=1時間あたりの基礎賃金(時間単価)×残業時間×割増率


    「割増率」は基本的に25%ですが、22時~翌朝5時の間に残業させた場合はさらに25%上乗せされます。また、週1日の法定休日に労働した場合は休日労働を行ったとされ、割増率が35%になります。ただし、時間外労働が1ヶ月60時間を超える場合は割増率を50%とするという規定が定められていますが、中小事業主(資本金の額又は出資総額が3億円以下(小売業又はサービス業を主たる事業とする場合は5000万円、卸売業を主たる事業とする場合は1億円)である事業主及び常時使用する労働者の数が300人以下である事業主等)に関しては現在その適用が猶予されています。

    では、この式にある「残業時間」と「1時間あたりの基礎賃金」は、どのように考えればよいのでしょうか。

  2. (2)「残業時間」を算出する

    残業時間は、所定労働時間を超える場合に発生するものです。所定労働時間とは、各会社が就業規則等で定める労働時間のことを指します。所定労働時間は、労働基準法で定められている1日8時間、1週40時間までの法定労働時間の範囲内で定められなければなりません。

    所定労働時間を超えて法定労働時間まで残業をすることを「法内残業」、法定労働時間を超えて残業することを「法外残業」や「(法定)時間外労働」と言います。
    たとえば、始業時間が9時、終業時間が17時、休憩時間が1時間の会社の場合、17時から18時の間に残業すれば「法内残業」、18時を超えて残業すれば「時間外労働」となります。

    残業代は原則として所定労働時間を超えた場合に支払われますが、残業時間が法定労働時間を上回った場合には、1時間あたりの基礎賃金(時間単価)に一定の割合の賃金を上乗せした割増賃金が支払われます。逆に、法定労働時間内である法内残業に収まっている場合は、1時間あたりの基礎賃金(時間単価)に実際に働いた時間を掛け合わせた賃金が支払われますので、賃金が割増にはならないことに留意しておいたほうがよいでしょう。

  3. (3)1時間あたりの基礎賃金(時間単価)を算出する

    「基礎賃金」というと、いわゆる基本給を思い浮かべるかもしれませんが、必ずしも基本給と一致するものではありません。基礎賃金は、通常の労働時間又は通常の労働日の賃金として支払われている金銭のことです。

    ●基礎賃金に含まれる範囲
    基礎賃金は、すでに支払い済みの残業手当・残業代を除いた普段支給されている給与から、労働基準法で定められている一部の手当や賃金を差し引いて求めます。
    ここで差し引かれる一部の手当や賃金には、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(ボーナスなど)、通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金(結婚手当等)があります。もっとも、これらの中には、場合によっては基礎賃金に含まれるものもあります。たとえば住宅手当は、各労働者が負担している住宅費用に応じて算定されるものを指すため、住宅形態ごとに一定額を支給するような場合等は、ここでいう住宅手当にはあたらないため、基礎賃金に含まれます。また、労働基準法で定められている一部の手当や賃金にあたらない、地域手当・役職手当・資格手当などは、基礎賃金に含まれることに注意が必要です。

    ●計算方法
    1時間当たりの基礎賃金は以下の計算式で求めることができます。

    • 1時間あたりの基礎賃金=1ヶ月あたりの基礎賃金÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間


    1ヶ月あたりの平均所定労働時間の求め方は、大まかには、(月全体の日数―会社が定めている休日)×1日の所定労働時間となります。

    1ヶ月あたりの基礎賃金を算出するにあたっては、一部の手当などを差し引くことを忘れないようにしましょう。

2、残業時間に含まれる時間で見落としがちなケースとは

残業代を計算するために重要になる残業時間ですが、労働時間には含まれないものと考え、見落としてしまいがちなケースがあります。たとえば、次のような時間は残業時間となりうるので、注意が必要です。

  • 就業時間より前に出社して仕事をした時間
  • 就業時間より早く出社して清掃をした時間(清掃が義務付けられている場合)
  • 朝礼の時間
  • タイムカードを押した後に仕事をした時間
  • 強制的に参加させられた研修の時間
  • 休憩時間中に電話番やお客様対応をした時間
  • 接待や会食の時間
  • など

3、変形労働時間制の残業代の計算方法

  1. (1)変形労働時間制とは

    仕事内容によって、季節ごとに繁忙期・閑散期があるところや、月末だけいつも忙しくなるところもあります。そこで、変形労働時間制という制度が設けられています。

    この変形労働時間制とは、対象期間内の労働時間が平均して週40時間に収まっていれば、予め特定された日や週の特定された時間の範囲では、1日8時間・週40時間を超えた分についても割増賃金が支払われないという制度です。変形労働時間制が適用される対象期間には、1年・1ヶ月・1週間の3つがあります。1年間を通して季節により繁忙期・閑散期があるような会社では1年単位の変形労働時間制、それ以外の会社では1ヶ月単位の変形労働時間制を採用することが多いとされています。
    なお、1週間単位の変形労働時間制を採用できる会社は、常時使用する労働者が30人未満の小売業、旅館、料理店、飲食店などに限られています。

    変形労働時間制を導入するためには、1ヶ月単位の場合は就業規則又は労使協定等で、1年単位及び1週間単位の場合は労使協定等を締結し、対象期間を平均して1週間当たりの労働時間を40時間以内におさめることなどの条件を満たすことが必要です。さらに、労使協定を締結した場合でも、就業規則等で同じ内容を定めている必要がありますし、労使協定は地域を所轄する労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
    そのため、自分の勤める会社が変形労働時間制を導入しているかどうか、そしてどの変形労働時間制を採用しているのかは、就業規則等で確認することが出来るでしょう。

  2. (2)1ヶ月単位の変則労働時間制の残業時間の考え方

    1ヶ月単位の変則労働時間制を導入している場合、対象期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間(特例事業所は44時間)以下であれば、1日8時間以上1週間40時間以上働いたとしても、残業代は支払われません。
    ただし、あらかじめ決められた所定労働時間を超えた場合には、残業代が支払われます。

    残業時間の目安は以下の通りとなります(法定労働時間が週40時間の場合)。

    • 対象期間が28日の場合→160時間を超えた時間
    • 対象期間が29日の場合→165.71時間を超えた時間
    • 対象期間が30日の月の場合→171.42時間を超えた時間
    • 対象期間が31日の月の場合→177.14時間を超えた時間


    いつ残業をすれば法内残業もしくは法定時間外労働になるかは、その週あたりの就業時間の設定の仕方によって変わります。自分の働いた日・時間が残業代の支払いの対象となるのかどうかわからない場合は、労働問題に詳しい弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。

  3. (3)1年単位の変形労働時間制における残業時間の考え方

    1年単位の変形労働時間制を導入している場合、1年以内の対象期間中、平均労働時間が1週間あたり40時間以下であれば、1日8時間1週40時間を超えて働いたとしても、残業代は支払われません。

    しかし、労働時間や労働日数には上限があり、1日の労働時間は最大10時間、1週間の労働時間は最大52時間、連続して労働する日数は最大6日(特定期間中は12日)という制限が設けられています。さらに、対象期間が3ヶ月以上の場合は、対象期間内に設定できる所定労働日数は1年あたり最大280日、対象期間内に週48時間を超える所定労働時間を設定できるのは連続で3週間以内、変形労働時間制が始まる期間の起算日から3ヶ月ごとに区切った各期間中、週48時間を超える所定労働時間を設定する週は合計3週以下とする制限が定められています。

    残業時間の目安は以下の通りとなります(法定労働時間が週40時間の場合)。

    • 対象期間が1年間(365日)の場合→2085.71時間を超えた時間
    • 対象期間が6ヶ月(182日)の場合→1040時間を超えた時間
    • 対象期間が3ヶ月(91日)の場合→520時間を超えた時間

  4. (4)変形労働時間制の残業代の請求

    以上のように、変形労働時間制の採用には厳格な要件が求められることから、会社が変形労働時間制を採用していると主張していても、そもそも要件を満たしておらず、変形労働時間制が適用されないことも少なくありません。さらに、変形労働時間制の場合も、残業時間を算出できれば、一般的に残業代を算出するための計算式に当てはめて残業代の計算をすることができます。しかし、変形労働時間制の残業時間の考え方は複雑で、一人で厳密に残業代を算出することは難しいといえるでしょう。また、残業代を算出できたとしても、今後の職場での立場などを考えると、どのように会社に請求すれば良いか分からないということも多いと思います。

    そのような場合には、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士にご相談ください。タイムカードなどの労働時間を示す記録があれば、当事務所の弁護士がそれをもとに残業時間を割り出して残業代を計算し、お客様に代わって会社側に残業代の請求を行います。その際、お客様が社内で不利な立場に立たされないように細心の注意を払って交渉いたします。

4、まとめ

美容・アパレル・スーパーなどのサービス業界で、シフト制で働いている方も、会社で定められている所定労働時間を超えて働いた場合には、残業代を請求することができます。また、変形労働時間制で働いている方も、一定の時間を超えて働いた場合には、残業代の請求が可能です。

  「サービス業だから残業代は出ないと上司に言われた」「シフトが不規則なのでどの時間が残業時間にあたるのかわからない」とお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスまでご相談ください。お客様からお話を伺ったうえで、タイムカードなどの資料をもとに、正確な残業時間と残業代を計算いたします。

着替えの時間や準備・後片付けの時間など、業界では勤務時間として計算しないことが当たり前となっている時間があったとしても、残業時間として含まれる時間である可能性もあるので、心当たりのある場合は弁護士までお申し出ください。ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が、きっとお客様の力になります。

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