強盗したつもりはなくても事後強盗罪に問われたら? 弁護士が解説
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「事後強盗」という言葉をご存じでしょうか。強盗といえば、お金持ちの邸宅や銀行などを襲う、計画性の高い犯罪というイメージを持っている方もいるかもしれません。石川県警察のホームページで公開されている情報によると、石川県内では平成30年中に8件の強盗事件が発生しています。
ところが、万引きなどの窃盗事件が、思いもよらず強盗事件に発展してしまうこともあるのです。それが「事後強盗」です。そしてその名の通り、決して軽くない罪を負うことになります。
つまり、思った以上に強盗は身近な犯罪となりうるのだということになります。そこで本コラムでは、事後強盗とはどのような犯罪なのか、どのような条件で成立し、どの程度の刑罰を受けるのかなどを、金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、事後強盗とは?
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(1)事後強盗と強盗の違い
ドラマなどでよく描写されている「強盗」といえば、銀行や店舗などに覆面をかぶった暴漢が押し入り、金銭を要求するといった形態が主でしょう。このような行為は、暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取する行為であり、刑法第236条1項に規定されている「強盗罪」に該当し、5年以上の有期懲役が科せられます。
一方、刑法第238条に規定されている「事後強盗罪」という犯罪は、このイメージからは大きくかけ離れています。窃盗犯が財物を得て、取り返されることを防いだり、逮捕を免れたり、または罪跡を隠滅するために、暴行または脅迫をしたときは、強盗と同様の扱いをすると定められているのです。
なお、「窃盗」は、刑法第235条に規定されている窃盗罪に該当する行為を指します。他人の財物を盗む行為が「窃盗」です。 -
(2)事後強盗の特徴
窃盗をした際に、次のような目的で暴行または脅迫を行った場合、事後強盗罪に問われる可能性があります。
●盗んだ財物を取り返させないため
●被害者や関係者らに捕まらないようにするため
●犯行の証拠を隠滅するため
そのほかにも、事後強盗罪の要件には以下の特徴があります。
●窃盗は未遂でも成立する
「家人に見つかってしまい金品を盗むことができなかったが、相手を突き飛ばして逃げた」という窃盗未遂の場合でも、事後強盗罪は成立します。
●窃盗と暴行・脅迫の接着性
窃盗行為と後の暴行・脅迫の間には時間的・場所的接着性があることが必要です。「待て、泥棒!」と呼ばれながら追跡されている、家人から隠れるために現場の天井裏に潜んでいたが、駆け付けてきた警察官に発見されたなどの状況が該当します。
●暴行・脅迫の程度
単純に殴る・蹴るなどの暴力のほか、「自分がやったことをしゃべったら殺す」などと包丁をかざして威圧する、けん銃を構えるなどの「反抗を抑圧する程度」の暴行・脅迫があれば成立します。
具体的には、次のようなケースが事後強盗罪に問われる可能性があります。万引きをして警備員に呼び止められたので、警備員を突き飛ばして逃げたり、他人の住宅に侵入して金品を物色していたところ、家人に発見され、持っていた包丁を向けて「動いたら殺す」などと脅す行為が該当します。
つまり、被害者や関係者に直接的な暴力をふるうほか、被害者の身体に直接触れるなどの行為がなかったとしても、逃走をはかるために抵抗を抑える行為があれば、事後強盗罪は成立し得るのです。 -
(3)事後強盗罪の罰則
事後強盗罪は刑法第238条において「強盗として論ずる」と規定されているため、罰則は強盗罪と同じく「5年以上の有期懲役」になります。5年以上の有期懲役の場合、最高は20年となるため、実質的には5~20年の懲役刑が科せられることになります。
ここで注目すべき点が「5年以上の有期懲役」は、執行猶予の対象とならないということです。刑法第25条の規定によると、執行猶予の適用が可能となるのは「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」に限られています。つまり、事後強盗罪で有罪判決を受けた場合、原則として最低でも5年の懲役刑が科せられるため、執行猶予付きの判決は下されません。酌量減軽がされない限り,実刑となって刑務所に収監されてしまうのです。
なお、執行猶予付きの判決を受ければ、普通の社会生活を送ることができます。事後強盗事件においては、情状酌量による減刑が適用されない限り、確実に刑務所に収監されてしまうため、減刑を望む場合は被害者との示談を成立させることが重要になります。
2、事後強盗で逮捕された場合の刑事手続き
事後強盗事件で逮捕された場合、次の流れで刑事手続きを受けることになります。
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(1)逮捕
警察に身柄を拘束されて、取り調べを受けます。逮捕から48時間以内に検察官へと事件を引き継ぐ必要があるため、犯行の認否や動機などを中心に取り調べが行われます。
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(2)検察官送致
被疑者の身柄と事件書類が検察官へと引き継がれます。送致を受けた検察官は、24時間以内に起訴または釈放を判断する必要があります。犯罪の疑いがあり,逃亡・証拠隠滅のおそれがあると判断された場合は、裁判所に継続した身柄拘束の請求のために「勾留」を請求します。
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(3)勾留
裁判所が勾留を認めた場合、原則10日間、延長によって最長20日間までの身柄拘束が認められます。勾留の決定がなされると、引き続き捜査機関による取り調べを受けます。
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(4)起訴
勾留期限までに、検察官は被疑者を起訴するか、釈放するかを決定します。起訴された場合、被疑者の立場は「被告人」になり、刑事裁判を受けることになります。不起訴となった場合は釈放されます。
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(5)裁判
被告人は、刑事裁判に出廷します。一定の条件を満たしている場合、保釈が認められれば日常生活を送りながら裁判を受けられますが、事後強盗罪は重罪であるため保釈が認められる可能性は低いでしょう。
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(6)判決
刑事裁判で有罪判決を受けた場合、事後強盗罪では,原則として最低でも懲役5年が科せられるため、そのまま刑務所に収監されます。
3、事後強盗と示談
事後強盗罪は原則的に執行猶予の対象外であるため、実刑を免れるためには情状酌量による減刑が必須です。
被害者がいる事件の場合は、示談の早期成立を目指すことになります。示談によって被害者の処罰感情がないことを盛り込めれば、警察や検察、裁判官が処罰を決定する際に考慮されるためです。
では、事後強盗罪に問われているとき、どうすべきかについて解説します。
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(1)事後強盗は示談が成立しにくい?
前科がついてしまう事態を回避するためには、検察官による起訴を防ぐ必要があります。つまり、捜査の早い段階で、被害者との示談を成立させる必要があるのです。
しかし、「事後強盗事件では示談が成立しにくい」といわれています。なぜなら、事後強盗事件では、被害者が生命の危険を感じるような場面になることもあり、加害者に強い恐怖心を抱いているケースが多いためです。また、十分な慰謝料と被害弁済を申し出たとしても「しっかりと罰を与えてほしい」と示談を拒否されるケースも考えられます。 -
(2)弁護士に相談を
前述したように、事後強盗事件で、加害者本人やその家族が直接示談交渉を行い、成立させることは非常に困難です。しかし、第三者であり法律の専門家である弁護士ならば、被害者の心情などを理解したうえで示談交渉を進められる可能性が高まります。
また、裁判になったとしても、過剰に重い罪に問われてしまう事態を回避できる可能性を高めることができるでしょう。事後強盗で逮捕された場合は速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
4、まとめ
事後強盗罪は「強盗」と同列に論じられる犯罪です。しかし、実のところ「万引きがばれてしまい、気が動転して逃げようとしたところ暴行になってしまった」といったケースが珍しくない犯罪であるともいえます。
思いもよらず事後強盗事件の加害者となってしまった場合、「そんなつもりはなかったのだから、何とか刑罰を受けないで済む方法はないか」と思い悩むことでしょう。
そんな場合は、早急に被害者と示談を成立させることが先決です。速やかに弁護士に相談し、早めの示談と早期釈放に向けて行動すべきです。ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスでは、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が、あなたを強力にサポートします。
窃盗をしてしまったが、事後強盗の罪になるかもしれない、被害者との示談が難航しているなど、お悩みのときは、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています