同僚が会社のお金を横領した!見逃せば幇助になる?弁護士が解説
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平成30年12月、石川県警が、輪島市議の男性を業務上横領の疑いで書類送検したというニュースが流れました。
漁協で使う車の購入費と偽り、市議が前参事に金員を引き出させていたところ、実際は個人的に使う車の購入費の一部に充てていたというものでした。この事件では、市議の男性と共謀した男性職員も同じく書類送検されています。
もし、あなたの同僚が会社のお金を横領していて、それを知っていたのに見逃していたとすれば、あなたも罪に問われるおそれがあります。
ここでは、業務上横領罪と幇助犯の関係について、金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、業務上横領罪の定義
具体的に「業務上横領罪」とはどのような犯罪なのでしょうか?
業務上横領罪の定義について解説していきましょう。
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(1)業務上横領罪の定義
業務上横領罪は、刑法第253条に規定されています。同条では「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」と定義されているため、まずは「横領」について簡単にご説明いたします。
横領とは、自己の占有する他人の物を、不法領得の意思に基づいて処分する行為を指します。
「自己の占有する他人の物」とは、他人から預かり保管・管理を任されている状態です。たとえば、
- 友人から「預かってほしい」と頼まれた現金
- 知人に頼んで借りた自動車
- レンタルショップで借りたDVD など……
これらは、他人の物でありながら保管・管理が任された状態になるので「自己の占有する他人の物」となります。これを、本来の所有者を排除して、自分の思いどおりに処分することで横領が成立します。
ここでいう「処分」とは、自分の物にして返さない、売却する、転貸するなど、広い行為が該当します。
業務上横領罪は「業務上」ですから、業務において預かり保管・管理する物を横領した場合に成立します。
「業務」とは、単に仕事であることを指すのではなく、反復・継続しておこなわれる行為を指しています。
たとえば、経理担当者が会社の現金を横領すれば業務上横領罪が成立するのは当然ですが、町内会の経理担当者が同様に横領した場合でも、反復・継続して現金の管理を任されていたことになり業務上横領罪が成立します。 -
(2)業務上横領罪と詐欺罪の関係
「会社のお金を自分のものにすれば業務上横領罪になる」という簡単なイメージはおおむね間違っていませんが、企業の規模や業務フローによっては刑法第246条に定められている詐欺罪に問われるケースがあります。
たとえば、中小の企業では特定の従業員に経理全般を任せることが多いので、横領行為がすべてひとりで完結するケースは少なくありません。
ところが、大企業や金融機関では、一般の従業員が実際に現金を手にするまでに、架空の伝票や請求書などを使用し、決裁を受けるといったフローを経ることになります。
現金の管理を任されていない従業員は、チェックの担当者や決裁権者を騙して現金を手にすることになるため、業務上横領罪ではなく詐欺罪に問われる可能性があるのです。
2、業務上横領罪の罰則と量刑判断の基準
業務上横領罪に問われた場合、どのような刑罰を受けるのでしょうか。
ここでは、業務上横領罪の罰則と量刑判断の基準についてご説明します。
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(1)業務上横領罪の罰則
業務上横領罪の罰則は、刑法第253条において「10年以下の懲役」と規定されています。
刑法第252条に規定されている横領罪の罰則は「5年以下の懲役」ですから、横領罪と比較すると非常に重たい罰則が規定されているといえます。
業務上横領罪は、一般的な横領罪が成立するケースよりも強い信任関係に背いていることから、重たい罰則が規定されているのです。 -
(2)業務上横領罪における量刑判断の基準
業務上横領罪の罰則は10年以下の懲役ですが、実際にはどのくらいの量刑が下されるのでしょうか?
業務上横領罪の量刑は、横領した金額、横領を継続していた期間、手口の悪質性などを総合的に判断して下されます。
また、たとえ横領の事実があったとしても、加害者が横領した金額に相当する弁済をおこなっていれば、会社としての損害はなくなる、または軽減されるため、弁済の有無も量刑判断の重要な基準となっています。
3、同僚の横領を見逃せば幇助の罪に問われるのか?
もし、あなたの会社の同僚が業務上横領罪に該当する行為をおこなっており、これをあなたが知っていたとすれば、あなた自身も罪に問われるおそれがあります。
なぜ横領を見逃す行為が罪に問われるおそれがあるのでしょうか?
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(1)不作為の幇助に問われる可能性がある
刑法には「幇助犯」というものがあります。
幇助犯とは共犯のひとつで、犯罪を実行する「正犯」の実行を容易にする行為を指します。
同僚が横領をおこなっていることを見逃す、黙認するという行為は、それだけでも犯行を容易にする行為です。会社員は労働契約における信義則に従う必要があるため、本来は横領を知った時点で会社に報告する義務を負っています。
また、公務員であれば、犯罪を知った場合は告発する義務を負っています。そのため、同僚の横領行為について「知っているのに、報告や告発をあえてしない」という行為は、犯行を容易にする手助けとなってしまうのです。
これを「不作為の幇助」といいます。 -
(2)幇助犯の刑罰
同僚の横領を見逃し、不作為の幇助に該当した場合は、業務上横領罪の幇助犯として刑罰の対象となります。ただし「見逃せば罪に問われる」といっても、実際の刑罰は横領の正犯よりも軽くなります。
刑法第62条1項は「正犯を幇助した者は、従犯とする」と規定し、さらに同第63条では「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する」とされています。
そして、刑法第68条は「有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる」と規定しています。つまり、業務上横領罪の幇助犯の刑罰は、10年以下の懲役を2分の1に減じた「5年以下の懲役」となります。
刑事罰としては正犯よりも大幅に減軽されますが、ここで大きな問題となるのが民事的な責任です。
同僚による横領を見逃したという違背行為によって会社に損害を与えたことで、社内の規定に従い解雇されてしまうおそれがあります。
また、横領を見逃したことで重大な損害が発生したとすれば、弁済の一部について責任を問われることも考えられます。
このような事態に発展しないように、同僚による横領を知った場合は、すぐに上司・会社に報告するのが望ましいでしょう。 -
(3)業務上横領の幇助が成立するケース
同僚の横領を見逃すほかにも、場合によっては業務上横領の幇助犯が成立し得るケースがあります。
次のようなケースは、場合によっては業務上横領罪の幇助犯が成立し得ます。- 会社の保管金を自由に出し入れできるように、金庫の鍵の複製を用意した
- 経理係から現金を受領するために、偽造伝票の作成を手伝った
- 会社の代表者が資金を横領するために、部下が子会社の設立や架空取引の捏造などに加担した
4、業務上横領罪の幇助で逮捕された場合の刑事手続の流れ
業務上横領罪の幇助は、被害者となる会社や団体からの告訴によって捜査が始まるのが一般的です。
捜査が進むと、業務上横領の正犯が逮捕されるタイミングとあわせて幇助犯も任意の取り調べや逮捕をされることになります。
任意の取り調べであれば逮捕されずに刑事手続に乗りますが、ここでは逮捕された場合の流れを見ていきましょう。
引き続きの取り調べが必要と判断されると、逮捕から48時間以内に検察庁に送致されて、被疑者の身柄と関係書類は検察官に引き継がれます。
ここでも検察官による取り調べがおこなわれて、検察官は24時間以内に起訴・不起訴を決定します。
ただし、業務上横領事件は横領の手口の解明などに時間がかかるため、送致の段階ではほぼ検察官が処分を決定できません。
そこで、検察官はさらに捜査を進めるために、裁判所に対して身柄拘束の延長を請求します。これを「勾留請求」といいます。
裁判所によって勾留が認められると、原則10日間、延長によって最長20日間の身柄拘束が継続され、この間に、どのように業務上横領の幇助行為がおこなわれたのかが詳しく捜査されます。
検察官は、勾留が満期を迎える日までに業務上横領の幇助が立証されるのかを精査し、改めて起訴・不起訴を判断します。
不起訴となれば釈放されますが、起訴された場合は被告人としてさらに勾留が継続されるため、自由な生活は望めません。
起訴から約1か月程度で裁判が開かれます。
何度かの裁判を経て、最終的には判決が下されます。
5、まとめ
同僚の業務上横領を見逃すことは、刑法の規定によって幇助犯とされ、処罰の対象となり得ます。
もし業務上横領罪の幇助犯として有罪判決を受ければ、罰金刑が規定されていないため懲役刑は免れません。
業務上横領罪の幇助犯として重い処罰を避けるには、弁護士によるサポートは必須です。
早い段階で弁護士のサポートがあれば、会社・団体との示談交渉によって告訴を阻止し、逮捕や処罰を避けることも期待できるでしょう。
同僚の横領行為を見逃してしまい、業務上横領罪の幇助犯に問われるおそれがある方は、ベリーベスト法律事務所・金沢オフィスまでご相談ください。
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