置き引きの刑罰は? 逮捕される可能性と警察から受ける対応
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持ち主がその場を離れた間に持ち主の物を無断で持ち去る「置き引き」は、「窃盗」罪もしくは「占有離脱物横領」罪により処罰されうる犯罪です。石川県警が公表する資料によると、令和5年中に金沢市内で「窃盗」罪として検挙された件数は875件でした。さらに「占有離脱物横領」の罪で26件が検挙されています。
では、たとえば他人の忘れ物を持ち去ると、すぐに置き引きの罪に問われるのでしょうか。店先で見つけた、知らない人の忘れ物を、交番へ届けるつもりでそのまま持ち帰ってしまうことがあるかもしれません。
本コラムでは、置き引きで罪に問われる場合や、逮捕を回避できる可能性、警察が行う対応などについて、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、どのようなケースが「置き引き」とされるのか?
まずは、置き引きとは何か、どのようなケースで置き引きになるかについて解説します。
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(1)置き引きとは?
置き引きという言葉をよく耳にしますが、「置き引き罪」という罪はありません。冒頭で述べたとおり、お店などに置いてある他人のお金や財布、カバンを断りもなく持ち去る行為は、窃盗罪または遺失物等横領罪に当たる犯罪です。
飲食店やスーパー、ショッピングセンター、パチンコ店などの店舗だけでなく、プールやスポーツジム、公衆トイレ、銭湯などでも置き引きは発生します。また、自転車やバイクのかごに置いてあるバッグや金融機関のATMに取り忘れた現金を持ち帰る行為も置き引きに該当します。 -
(2)置き引きになるケース
置き引きが窃盗罪に当たるとされた代表的なケースを見ていきましょう。
- ① バスに乗るための行列に並んでいた人が、カメラを地面に置いたまま前に移動してしまったところを狙って、犯人がそのカメラを持ち去ったケース
- ② スーパーの店内で買い物をしていた女性が財布を置いて、少し目は離したすきに財布がなくなったケース
- ③ 友人を駅の改札口まで送るため、公園のベンチの上にポシェット置き忘れたまま、公園出口にある横断歩道橋を上ったところで、犯人がポシェットを持ち去ったケース
2、その置き引きは窃盗罪? 占有離脱物横領罪? 概要と量刑
置き引きをすると、どのような罪に問われ、量刑はどのくらいになるのでしょうか。
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(1)置き引きはどんな罪になる?
前に述べたとおり、置き引きをすると、窃盗罪または占有離脱物横領罪(遺失物横領罪)のいずれかの罪に問われます。
窃盗罪は、他人の占有している財物を盗むことで成立する犯罪です。一方、占有離脱物横領罪は、他人の占有を離れた物を持ち主に無断で持ち去ると成立する犯罪です。
すなわち、占有・管理がおよんでいるかどうかが分かれ目になります。被害品に対する占有・管理がおよんでいれば窃盗罪、占有・管理がおよんでいなければ占有離脱物横領罪です。
被害品の付近に持ち主がいなさそうだと思っても、他人の占有がおよんでいるということはあります。
たとえば、スーパーの店内にある忘れ物の財布は、たとえ落とし主が付近にいなくなってしまっていたとしても、スーパーの管理下にあるとされます。スーパーの忘れ物を持ち帰る行為は、遺失物等横領罪ではなく、窃盗罪になります。 -
(2)窃盗罪が成立するための条件と量刑
窃盗罪は、ただ他人の物を持ち去るだけでは成立しません。盗んだ物を自分の所有するものと同じように、経済的用途に従って使用したり換金したりする意思が必要です。
窃盗罪は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金で処罰されます。 -
(3)占有離脱物横領罪の量刑は?
占有離脱物横領罪は、刑法上では第254条の「遺失物等横領」として次のように定められています。
「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する」
したがって、窃盗罪ではなく「占有離脱物横領罪(遺失物等横領罪)」として有罪になった場合の量刑は、窃盗罪では10年以下としている懲役は1年以下、罰金も10万円以下か科料(1万円以下の罰金)となります。刑が軽くなるように見えますが、有罪になれば前科がつくという点は共通です。いずれの場合も重すぎる罪に問われないためにも、事件化したらすぐ弁護士に相談することをおすすめします。
遺失物等横領罪について詳しくは、以下のコラムをご確認ください。
■参考:遺失物等横領罪とは|落とし物を自分のものにしたら罪に問われる?
お問い合わせください。
3、置き引きで逮捕されてしまった後の流れ
窃盗罪で逮捕された場合、どのような流れで手続きが進んでいくのか見ていきましょう。
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(1)逮捕
窃盗罪で警察に逮捕されると、取り調べの上、48時間以内に検察庁に送致されます。被害額がわずかであれば、釈放されるケースもあります。
逮捕されている間、家族であっても原則として面会できません。どうしても伝えたいことがある場合は、弁護士に依頼して接見してもらいます。 -
(2)勾留
検察庁へ移送されると、検察官は24時間以内に裁判官に「勾留」を請求するかどうかの判断をします。勾留とは、検察官が被疑者を取り調べるため身柄を拘束することです。
勾留するかどうかは裁判官が決定しますが、最初に10日間、さらに10日間にわたって勾留されるおそれがあります。 -
(3)起訴~裁判
検察官が起訴すると、被疑者から被告人と呼ばれる立場になります。その後は、刑事裁判の手続きに従って手続きが進められます。
起訴のうち、「公判請求」となれば、公開にて行われる裁判で判決が宣告されるまで、原則的には引き続き勾留されることになります。帰宅を希望する場合、保釈請求を行い、認められなければなりません。
通常の刑事裁判は、起訴からおよそ1か月後に開始されますが、判決が下るまでには数か月以上かかることもあります。
他方、「略式命令請求」となれば、裁判官が書類だけで罪責を判断し、罰金刑が下されます。略式命令請求された場合、直ちに釈放されます。ただし、たとえ罰金刑でも前科がついてしまいます。
4、置き引きによる逮捕が不安な場合の対処法
お店の忘れ物を持ち帰り、逮捕が心配な場合にとるべき行動はどのようなものがあるのでしょう。
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(1)できるだけ早く警察へ届け出ること
お店に置いてあったものを自宅へ持ち帰り、警察へ届ける意思はあったが、忘れてしまった場合などには、窃盗罪に問われる可能性はあります。
ただし、窃盗罪が成立するためには、自分のものであるかのように振る舞い、経済的効用に従って利用・換金する意思が必要です。この意思がない限り、窃盗罪が成立する可能性が低くなります。
ただ、そのような意思はなかったとしても、長期間にわたり自宅に物を保管していれば、器物損壊罪に問われる可能性があります。
どのような理由があろうとも、持ち帰った物をいつまでも自宅へ置いておくと犯罪になるおそれがあるので、できるだけ早く警察へ届けましょう。 -
(2)弁護士がいれば事情を説明してくれる
警察へ行き、万が一逮捕されたらと不安な方もいるでしょう。
そのような場合は、弁護士へ相談をおすすめします。警察へ行く際に弁護士が同行すれば、事情を説明し、適切な対応をしてくれます。話も聞かれずに、いきなり逮捕されるような可能性は低いでしょう。
5、まとめ
置き引きではなく警察に届けるつもりで忘れ物を持ち帰ったのであれば、きるだけ早く警察へ届けるようにしましょう。いつまでも自宅に保管しておくと、窃盗罪もしくは占有離脱物横領罪(遺失物横領罪)の容疑をかけられてしまうことがあります。場合によっては逮捕される可能性があることも否定できません。
もし、置き引きをした容疑をかけられ、警察から連絡がきたのであれば、できるだけ早いタイミングでベリーベスト法律事務所 金沢オフィスでご相談ください。窃盗や占有離脱物横領(遺失物横領)事件についての知見が豊富な弁護士が最善のアドバイスをさせていただきます。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています