相手の同意なく人の胸を触ったり揉んだりしたとき問われうる罪とは
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令和5年8月、相手の同意なく胸など体を触ったとして強制わいせつ容疑で起訴されていた男の初公判が金沢地裁で開かれたというニュースがありました。この男性のように、相手の同意なく胸に触る・もむなどのわいせつな行為をしたような場合は、その悪質性によって強制わいせつ罪に問われる可能性があります。
本コラムでは、夜道で女性の胸を触った事件を想定して、このような行為がどのような罪にあたるのか、また逮捕されるケースや、逮捕後の流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が解説します。
1、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)と迷惑防止条例違反の定義・量刑
同じわいせつな行為でも、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)にあたるケースと、迷惑防止条例違反にあたるケースがあります。不同意わいせつ罪とは、令和5年7月13日に施行された改正刑法がで新設された罪名で、令和5年7月13日以降の行為が罪に問われるとき適用されます。まずは、それぞれの違いと、有罪になった場合の量刑を確認しておきましょう。
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(1)強制わいせつ罪にあたる行為と量刑
令和5年7月12日までに無理やりキスをしたり、下着の中に手を入れて体をじかに触ったりした場合は強制わいせつ罪に問われます。
強制わいせつ罪とは、13歳以上の男女に暴行や脅迫を用いてわいせつな行為をした場合や、13歳未満の男女に対してわいせつな行為をした場合に成立する犯罪です。
「わいせつな行為」とは、性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうとされています。具体的には、以下のような行為を指します。- キスをする
- 服を脱がせて裸にする
- 胸や陰部を直接触る
- 自分の陰部を押し当てる
※無理やり性交した場合は、強制性交等罪または準強制性交等罪が成立することとなります。
また、ここでいう「暴行」や「脅迫」とは、以下のような行為です。- 殴る蹴るなど、直接的な暴力を用いた
- 服をひっぱった
- 不意に陰部を触った
- 満員電車の様な抵抗できない状況下で無理やりわいせつな行為をした
- 弱みを握り、言うことを聞かないと警察に行くと言ってわいせつな行為をした
ここで注意しなければならないのは直接的な暴力だけが「暴行」にあたるわけではないという点です。事実、暴力をふるったりしていなくても、わいせつな行為そのものが「暴行」にあたり、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)として成立することがあります。
また、令和5年7月12日までに相手を泥酔させるなどして抵抗できない状態にしてわいせつ行為をしたり、その抵抗できない状態を利用してわいせつな行為をしたりした場合は、準不同意わいせつ罪(改正前刑法第178条第1項)が成立します。
さらに、被害者が13歳未満の男女だったというケースでは、暴行や脅迫を用いていなくても、わいせつな行為をしただけで「不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)」に問われます。たとえ、相手が合意していたとしても、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)にあたりますので注意が必要です。
強制わいせつ罪または準強制わいせつ罪で有罪になった場合、6か月以上10年以下の懲役刑が科せられます。不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)および準強制わいせつ罪は、罰金刑がないため、有罪になれば必ず懲役刑になります。
ただし、事件によって量刑の重さが変わります。3年の懲役刑に4年の執行猶予が付くケースもあれば、執行猶予なしで5年の懲役刑を科せられる場合もあります。もし執行猶予が付けば、すぐに懲役刑が執行されることはありません。そして執行猶予期間の満了まで、犯罪を行うことなく生活すれば、刑の言い渡しは効力を失うため、刑務所に入らずにすむことになります。 -
(2)迷惑防止条例違反にあたる行為と量刑
次に、迷惑防止条例違反にあたる痴漢行為と、量刑について解説します。
夜道ですれ違いざまに、服の上から胸を触ったり、服の上からお尻を触ったりした場合は、強制わいせつではなく路上痴漢にあたる可能性があります。路上痴漢とは、その名のとおり路上で痴漢行為をすることです。石川県の場合は「石川県迷惑行為等防止条例」の第3条第1項第1号で、公共の場所などにおいて、人を著しく羞恥させ、または人に不安もしくは嫌悪の情を催させるような方法で、直接または衣服などの上から触れる行為として挙げられています。
なお、石川県迷惑行為等防止条例の第3条第1項第1号に記されている痴漢行為に該当すると、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金となります(同第16条第1項第1号)。ただし、常習だった場合は罪が重くなり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が処されます(同第16条第2項)。
では、冒頭の例のように、路上で服の上から他人の胸に触った場合、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)ではなく迷惑防止条例違反になるのでは? と思われるかもしれません。たしかに、実際のところ、その境界に明確な定義はありません。
最終的には、犯行の悪質性や度合い、さらに脅迫の有無などによって、問われる罪が変わります。ただし、下着の中に手を入れて直接触れた場合は、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)と判断されると考えておいたほうがよいでしょう。 -
(3)新設された不同意わいせつ罪とは
最後に、令和5年7月13日に施行された改正刑法より新設された不同意わいせつ罪について解説します。
不同意わいせつ罪は、以下8つのいずれかに該当する行為や理由によって、被害者が同意しない意思を形成したり表明したり拒否を貫くことができないような状態にさせたり、その状態にあることに乗じてわいせつな行為をした場合、成立します。
- ① 暴行していた、もしくは脅迫していた、またはそれらを受けた影響下にあったこと
- ② 心身の障害を生じさせていたり、またはその状態に乗じたケース
- ③ 飲酒させたり薬物を用い、またはそれらの影響がある状態に乗じたケース
- ④ 眠っている間や意識が明瞭でない状態にさせるたり、またはその状態に乗じたケース
- ⑤ 同意しない意思を形成して表明したり、それらを行う間を与えることなく行為をしたケース
- ⑥ 予想と異なる事態に直面させて恐怖を抱かせたりもしくは驚かせた状態、またはその事態に直面して恐怖、驚愕しているケース
- ⑦ 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはその心理的反応があること
- ⑧ 経済的や社会的関係上の地位に基づいた影響力があり、拒んだ場合に受ける不利を想定して不安を抱く環境下であったこと
これに伴い、これまでの刑法に規定されていた準強制わいせつ罪は、不同意わいせつ罪として罪に問われることになります。また、わいせつな行為ではないと信じ込ませたり人違いをさせたりしたうえでわいせつな行為をした場合も不同意わいせつ罪にあたる行為として規定されました。
令和5年7月13日以降に強制わいせつに当たる行為をしてしまった場合は、以下のコラムを参考にしてください。
刑法改正で不同意わいせつ罪が新設! 改正内容をわかりやすく解説
2、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)で逮捕されるケース
では、どんな場合に不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)で逮捕されるのでしょうか。
逮捕される場合は、主に、現行犯逮捕か、後日逮捕されるケースが多いと考えられます。そこで、その2つの場合について解説します。
なお、強制わいせつ罪は、平成29年7月から被害者が告訴をしなくても検察官の判断によって起訴できる罪(非親告罪)となりました。もし示談が成立していたとしても、逮捕されたり起訴されたりする可能性がゼロではない点に注意が必要です。
さらに、令和5年7月12日以降の行為は、令和5年7月13日に施行された改正刑法第176条で規定されている「不同意わいせつ罪」の罪に問われることになります。
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(1)現行犯逮捕されるケース
不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)で現行犯逮捕されるケースには、被害者や、強制わいせつ行為を目撃した方、もしくは通報を受けた警察官による逮捕などがあります。
警察署まで任意で同行するよういわれた被疑者が逃げようとし、警察官によってその場で緊急逮捕される場合もあります。また、証拠や目撃証言があるにもかかわらず容疑を認めない場合にも、逮捕によって拘束されてしまう可能性は高いです。 -
(2)後日逮捕されるケース
一方、後日逮捕される場合には、裁判官が発行した逮捕状が必要となります。逮捕状を発行するためには、逮捕の理由および逮捕の必要性が認められる必要があります。具体的には、わいせつ行為をしたことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、かつ被疑者が証拠を隠滅したり逃げたりする可能性がある場合です。
したがって、後日逮捕は、以下のようなケースで行われることがあります。- 被害者が後日、被害届を提出した
- 目撃者から後日通報があり、写真などが提供された
- 防犯カメラに写った映像によって犯行が明らかになった
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(3)逮捕されないケースもある
証拠や目撃証言がなく、被害者の発言に矛盾が多い場合など、本当に強制わいせつ行為があったのかどうか怪しい場合には被疑者が逮捕されないケースもあります。
なお、路上痴漢の場合、被害者が被害届を出したとしても、被疑者が罪を認めていて、証拠を隠したり逃げたりしないだろうと判断されれば逮捕されないことも多いです。もし、あなたが疑われている場合は、被疑者を特定した時点で任意の事情聴取を受けるよう警察から連絡がくるので、出頭命令に応じましょう。あなたに身に覚えがない場合でも、出頭命令には応じておくほうがよいでしょう。その場合は、対応などについて、弁護士に相談しておくことをおすすめします。
そして、逮捕されることなく捜査を進めることを在宅捜査といいます。在宅捜査となれば、捜査を受けながら日常生活を送れますので仕事を休む必要がありません。そのため在宅捜査は被疑者にとって大変メリットが大きいのです。
3、逮捕後の流れ
不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)で逮捕されたあとは、最長で48時間の取り調べが行われます。その間に送検するかどうかの判断が行われ、送検されなければ釈放されます。送検とは、検察へ事件と身柄を引き渡し、引き続き捜査を行うことを指します。
送検後、24時間以内に検察官によって行われるのが「勾留請求(こうりゅうせいきゅう)」の判断です。検察官によって請求された勾留が裁判所に認められれば、今度は最大で20日間の身柄拘束を受けます。なお、勾留が引き続き行われる場合、検察官は勾留期間が満了するまでに、被疑者の起訴・不起訴を決めます。
反対に、勾留請求されない場合や、裁判所に棄却された場合は釈放されます。
いずれにしても、釈放されたからといって必ずしも不起訴となるわけではありません。引き続き在宅捜査が行われることがありますので、捜査に協力するようにしましょう。
勾留されたまま、もしくは在宅中に起訴が決まると、今度は刑事裁判が開かれます。刑事裁判を通じ、裁判官によって有罪・無罪の判決が下されることになるわけです。不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)に限らず、日本の刑事事件では、起訴されると約99%の高確率で有罪となるといわれています。もっとも、逮捕される前から、前科を付けないための対策は可能です。できるかぎり不起訴の獲得を目指しましょう。
4、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)にあたるか迷ったら
夜道で女性の胸を触った場合は、すれ違いざまに服の上から触ったのか、それとも無理やり抱きついて胸をもんだのかなど行為の態様によって不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)にあたるかどうかが変わります。
自分での判断が難しい場合は、まず弁護士に相談してみましょう。
5、まとめ
万が一、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)の疑いがかかった場合や、強制わいせつにあたる行為をしてしまったのではないかと悩まれているときは、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。問題なければ安心できますし、万が一疑いがある場合は、1日も早く被害者への謝罪の意を示して示談を行うことで、逮捕されないことや、逮捕されたとしても1日も早く釈放してもらうこと、そして不起訴を獲得することができる可能性が高まります。そのため、なるべく早い段階で被害者と示談を成立させておくことが大切です。
示談そのものには弁護士などの資格は不要ですが、加害者と被害者の関係である以上、示談成立のために、加害者となったあなたが一人でできることは非常に限られています。
不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)および迷惑防止条例違反にあたる行為をした方は、これらの事件対応をした経験が豊富な弁護士へ1日も早く相談してみてください。ベリーベスト法律事務所 金沢オフィスの弁護士が尽力します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています